第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第53話
第53話【宮本 健】
どうやら食材の準備ができたみたいだ。僕らもバーベキューコンロの脇に設営したテーブルに腰を下ろす。おじいちゃんを除く男子、つまり勝利さんと僕と輪太郎は、ビールケースの上に載せたベニヤ板がテーブルだ。
となりのアウトドア用のテーブルでは、律ちゃんと晴ちゃんが話題の中心。時折、僕らの名前が出てくるけど、どんな風に言われてるやら僕は冷や汗が出ちゃう。輪太郎は全然気にしない。そのふてぶてしさを見習いたい。
「しかしさ、ムサシ君は強くなったよね」
「ズルいですよ、ほんと。競技歴なんて3年ないくせにさ。自転車にセンスは関係ねえって言うのが俺の持論なんだけど、センスって関係あるのかって思っちゃうぜ」
それは僕に自転車のセンスがあるってことか。
「ムサシの最近の強さを見てると、何かドーピングしてるんじゃないかってくらい強ええ。俺なんて「巨人の星」並みに十年以上スパルタ教育されて今の走りがあるのにさ。今なら登りだだけだったらムサシの方が強いんじゃないの」
「それは言い過ぎだろ。買いかぶり過ぎ。勝負がかかったらきっと最後にゴールで敵わないよ。でもな、ジャパンカップのチャレンジレースでは勝負するって言っちゃったからな」
「ムサシ君、変わったね、今までは勝負するとか言わなかったでしょ。やっぱり愛のチカラかな」
勝利さんに冷やかされたけど、それもあるし、輪太郎の言動に毒されてきたのもある。
「明日、朝練しよう。俺は2人についていけないけどさ、楽しそうじゃん」
勝利さんが酔った勢いで、明日の朝は朝練しようと言いだした。
「そうすると、明日の朝は4時には起きて家に戻って、ロードバイクで出撃か。ハードスケジュールだな」
輪太郎が言うと。
「大丈夫、起こしてやるよ」
勝利さんが言うけど、これって間違いなく勝利さんは二日酔いで起きられないパターンだ。飲み会の翌日に勝利さんが朝練に起きられたためしがない。
僕は、あのコルナゴのC50で走ってみたい。輪太郎の言うとおり、僕も自分自身が強くなっていると夏以降は思えてきた。それに、来週のチャレンジレースに向けて追い込むには良いタイミングだ。新しいバイクで輪太郎とどこまで勝負できるかな。
第54話につづく




