第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第51話
第51話【宮本 健】
ブラックにイエローのペイントが目立つ、『コルナゴC50』はお父さんのバイクだった。コルナゴだよ、コルナゴ。しかもC50だ。自動車で言ったらフェラーリみたいなもんだ。持ち上げてみて、感動した。
「軽い。すごい」
僕はその軽さに驚いた。さすがコルナゴ。そして、その迫力にちょっと緊張してしまう。
うまく例えられないけど、遠くで見るのと、目の前に存在するのでは全く違う。カッコ良いんだけど、僕に乗りこなせるのかと言うプレッシャーさえ感じる。コレに乗ったら、もっと速く坂を登れるかな。いや、登れなかったらウソだ。
軽いだけじゃない。カチっとした剛性もしっかりありそうだ。そりゃヨーロッパのレースで鍛えられたフレームだ。間違いない。
お兄ちゃんのバイクは、チタンフレームのバイクだった。
珍しいな。よく見ると、エヴァディオというブランドの『ペガサス』という名のチタンフレームだった。僕はそのフレームを知らなかったけど、チタンの無地の輝きが渋い。こっちのフレームもほんとカッコ良いな。
律ちゃんのお父さんのコルナゴは『決戦用』という尖ったオーラを出しまくっている。コレで速く走れなかったらウソだろうというオーラが出ている。
そして、お兄ちゃんのバイクは『GT用』と言う感じ。僕はクルマなんて全然知らないけど、ロードバイク雑誌でそんなインプレッション書いてあった気がする。言ってみれば、F1カーとGTカーの違いみたいなものとか。お兄ちゃんのバイクだったら、なんだかどこまでも走れそう。まだ乗ってないけどそんな気がする。
早く乗ってみたい。まだ乗っていない2台のバイクを前にして妄想が脹らむ。律ちゃんはトレーニング用のローラー台も持ってきてくれた。コルナゴC50をさっそくローラー台にセットする。早くポジションをセッティングしてみたい。
「2台ともムサシにはもったいないな、というか、こんなバイクに乗ったらどこまで強くなるんだよ。というか強くならないとおかしいぞ」
輪太郎が言う。ロードレースは最後は自分自身の勝負だ。自分がエンジンだ。それは間違いない。フレームやホイールがエンジンになってくれる訳じゃない。でも、人が走るからこそ、『気持ち』が重要なんだ。
輪太郎もバイクが気になって仕方がないんだ。フレームもそうだけど、ホイールやパーツなんかをみながらフムフム言ってる。
きっとこのバイク達が僕の気持ちを強くしてくれる。律ちゃんのお父さんとお兄ちゃんと、そして律ちゃんの気持ちも一緒に僕は走る。主を失っていた2台のロードバイクを前にして、僕はそう誓った。




