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第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第45話

第45話【宮本 健】


 僕は自分自身のコンプレックスに正直になろうと思う。

 僕は自分の父親が誰なのかどういう人なのか分からない。母親に聞くことはタブーなのは分かる。母親が教えてくれるまでは僕には分かりようがないんだから仕方がない。

 分かる時も来るかもしれないし、ずっと分からないかもしれない。そう開き直って生きていこう。


 実は献血自体がちょっと怖かった。それなのに、そんな風に考え事をしているうちに、気がついたらぐっすり寝てしまっていた。献血は40分くらいで終了したらしい。最初のうちはいろいろと考え事をしていたつもりなのに、気がついたらぐっすりと、ほんとにぐっすりと寝てしまっていた。


 看護師さんが心配して起こしてくれた。良いタイミングの昼寝になったみたいで、寝起きはすっきりして気分爽快だった。献血するとスッキリするのかと勘違いしちゃいそうだった。もらったアクエリアスを飲んだら更に気分がすっきりした。


「献血って、意外と気持ち良いな」

「ホントの変態だな、ムサシは」

「そういう輪太郎はさ、何で献血してんの」

「ボランティア精神に決まってんだろ。ほかに何か理由が必要か」

 輪太郎は、ほんとは偉いんだな。


 一瞬、信じそうになった僕がバカだった。

「っていうのは、ウソでな。成分献血は誕生日過ぎてからだから、まだ3回目。たいしてやってないけどな。さっきも言ったけど、健康診断みたいなもんだ。血液の状態とか肝機能とか。そういうデータが定期的に分かるとなんとなく安心するだろ。無料だしな」

 そういうデータを見て安心するかどうか一般的かは別にして、相変わらず輪太郎は自転車に対してはストイックだなと思う。僕は自分の血液とか今まで気にしたことなんてないもん。


 献血を終えて、もらったカロリーメイトを食べながらオレンジジュースを飲みつつ僕らは休憩室でまったりしていた。僕は、ふと、あの海での出会いの日から、現在の日常をとても想像できなかったことを、改めて思った。

「あのさ、輪太郎といるとさ、なんだかいろいろ巻き込まれてジェットコースターに乗ってるみたいな気がするんだけど。献血だって1人だったら絶対にやってないし」


「何言ってんだ。あのな、それは俺のセリフだ。ムサシが気にしてないだけで、どっちかっていうと、お前が周りを巻き込んでんだぞ」

 僕は面食らった。輪太郎が続ける。

「週末の朝練だって、ムサシが走り始めてからメンバーがどんどん増えてきたんだろ? ムサシがオッサンたちを巻き込んでるんだろう? 俺は俺で、ついでに勢いでバカやってるだけだ。俺だって今年の夏の成り行きにはびっくりしてる」

 そう言われて僕は驚いた。僕が巻き込まれる一方だったと思ってたのに。僕がそんな役割をしているとは思ってなかった。


 そんなやり取りで始まって、輪太郎と2人で8月からの経過を話してみた。

「輪太郎ってさ、どっちかっていうと一途って言うより、惚れた奴は勝手に俺に惚れとけって感じだろ。今回は違くない?」

「それを言わせるか」

 輪太郎が口ごもった。今までは僕が知っている限り、輪太郎のパターンは、付き合い始めた彼女が最後は自転車バカな輪太郎に愛想を尽かすと言う結末だった。それでも恋愛に不自由しないのが輪太郎のすごい所だったけど、今回は違うらしい。


第46話につづく


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