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第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第43話

第43【宮本健】


 その話題になって、一気に僕が赤面してしまった。あの時の律ちゃんの意外と華奢な肩を抱きしめた時の体温を思い出してしまった。

「何を思い出して妄想してんだよ。中学生みたいだな。全く。そういや、晴美と律ちゃん、チャレンジレースに応援来てくれるって言ってたよな」


 もっとからかわれるのかと思ったら、意外とあっさりと話題を変えた。

「ああ、来てくれるって。翌日のジャパンカップも観たいって言ってた」

 少し間が空いてから、輪太郎が真顔になった。

「ムサシ、お前さ、律ちゃんが俺のことを応援していて元気になってもしょうがないだろ。どうせなら、自分で律ちゃんに応援されるような走りをして、それを律ちゃんが応援してそして自分で結果を出して律ちゃんを元気にしたいって、なんで言わないんだよ」


 面食らった。考えていたことを見抜かれてしまった。

「ムサシの悪い所はな、有言実行じゃないところだ。無言実行でカッコつけてんだよ。結果は出すんだけどな、そこそこに。

でもその過程をできるだけ見せたくないんだろ? 失敗を怖がってるだろう? ビックマウスで失敗するくらいだったら、黙っていてソコソコ結果を出した方がカッコ良いと思ってるんだろ」


 更に深い所をまた見透かされて、僕はすぐには反論できなかった。その通りと言えば良いのか、虚勢を張ってそんなことねえよと言うべきか。

「なあ、ムサシ、そんなきれいごとじゃ壁を超えられねえよ。俺なんていつもビックマウスで自分にプレッシャーかけて追い込んでる。

今までだって結果を出す以上に負けた方が多いさ。でもさ、そうやって這い上がらないと強くなれないだろ。綺麗事だけで失敗しないで強くなった奴なんているわけがない」


 僕は確かに失敗を怖がっている。他人の目を気にしている。周囲が「ああやっぱり一人親じゃあね」とそういう目で見るんじゃないかとずっと気にしていた気がする。

 僕は、子供の頃から勉強も出来たし剣道で注目もされていた。今になって思えば良い子だったために、その評判に縛られていたのかもしれない。いくつかのコンプレックスをできるだけ悟られないよう、自分でも痛みが少なくなるように生きてきたかもしれない。


 ひとつのコンプレックスは、幸いなことに奇跡的に痛い目を見る前に消えた。恋愛というコンプレックスだ。高校生で健全な男子で恋愛経験ゼロというのは、それはそれなりにコンプレックスだった。世の中はこんなに恋愛に満ち満ちているのに。


 そんな僕に突然、素敵な女神が現れてくれてそんなコンプレックスを吹き飛ばしてくれた。そして僕に自信を与えてくれる。ならばその自信を糧にどんどん他のコンプレックスを吹き飛ばして行こうじゃないの。どんな風に見られたって良いじゃないか。失敗したって良いじゃないか。律ちゃんが応援してくれるなら、カッコ悪くてガムシャラで良いじゃないか。 


「なあ、輪太郎、チャレンジレースって、僕達は同組で出走かな?」

「ああ、おそらくあのタイミングの申込だと、2組で一緒にスタートだろうな」

 ジャパンカップのチャレンジレースは、2組で行われるホビーレーサー対象のレースだけど、その組分けは単純に申し込み順に行われる。僕らは、マロニエトライアスロンに夢中で、エントリーはほんとにギリギリで申し込み最終日に慌てて事務局に申込書を提出した。


「輪太郎、それなら、チャレンジレースで勝負だ」

「あのな、俺、言っとくけど、日本一の高校生だぞ。俺と本気で勝負とはいい根性してるなあ」

 全く。言わせておいて、やっぱりそうきたか。輪太郎は壁だ。僕にとっては絶壁にも思える壁だ。


 僕は律ちゃんに途方もない元気を与えてもらっている。ならば今度は僕が頑張る番だ。僕が舞台に立つ。壁に挑戦する。そして結果を出す。それで律ちゃんに少しでも元気になってもらえれば、最高だ。そのために、僕は頑張る。


 第44羽に続く

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