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第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第40話

第40話【宮本 健】


 パワーがあり過ぎて、田代さんは一般人の常識からするとかなり変態的だと僕は思っている。変態的なスタミナがある。特に緩い登り基調の区間を先頭で一定ペースで引いていく時は、アタックされるよりもきつい。一気にアタックと言うんじゃない。じわじわと上がっていく。


 周囲にとってはキツイけど、田代さんはそのキツさが自分のペースなのだ。そのペースで先頭を引き続けて行く気持ちの強さがすごい。でもって、後半になってもペースが落ちない。モリモリとスタミナが湧いてくる感じ。田代さんのスタミナには驚く。


 ふとそんな事を思い出しながら、田代さんの挨拶を聞いていた。田代さんの挨拶にはちょっと目頭が熱くなってしまった。転勤で栃木にきて、最初は全く土地勘も知り合いもなくて、すぐに地元の関西に異動希望をだしていたこと。

 だけど、そのうち自転車通勤を始めて、さらにロードバイクに乗り始めて、やがて朝練の仲間と知り合いになったこと。


 そのうち栃木というか宇都宮がほんとに大好きになったこと。

 そんな風に自転車が宇都宮に馴染むきっかけになったことや、朝練中のエピソードなんかをいくつか話してくれた。


 最後になって、11月に転勤なので、今から仕事の引き継ぎやら引越しの準備で忙しくなってしまい、チャレンジレースに向けてのトレーニング不足は間違いなくて、もしかしたら出られないかも知れないのがほんとに残念だと言う挨拶に、僕はじーんと来た。


 田代さんはお子さんも小さくて、通勤と週末の朝練だけしか走れなくて、それでも去年のチャレンジレースでは20位以内に入っていた。今年は絶対に上位で入賞したいと、少ない練習時間に集中して走っていたのを僕は知っている。今まで集中して走っていたのに、ほんとに残念だと思う。


 そのあとみんなから田代さんへの贈る言葉がひと言ずつ。こちらは爆笑の連発。やっぱり田代さんは変態だ。


 田代さんの変態伝説はいろいろあるけど。

・朝練に寝坊したくないから、週末の夜は、レーパン+ジャージで寝ている。

・誰もが長袖ロングタイツの気温10度以下の朝練時でも、半袖+普通のレーパンで登場する。絶対に寒いと思うけど、おなじように半袖で登場する五十嵐さんと張り合って『五十嵐さんには負けたくない』という。昔の小学生みたいだ。

・飲み会のあとに午前2時に帰宅して、そのあと5時30分朝練に寝坊したくないから、そのまま玄関で寝てる。

・自転車が強くなるための情報収集をネットでしていて、熱を入れ過ぎて奥さんにパソコンのキーボードを捨てられた。

・保育園の送迎でチャイルドシート付き自転車で娘さんを送ったあと通勤してるけど、娘さんを送った後、そのチャイルドシート付きの自転車でロードバイクとチギり合いをする。

・さらにそのチャイルドシート付きの自転車に4歳の娘さんを乗せて古賀志林道を登ってしまう。娘さんには『もっと速く登りや』と急かされるらしい。

・ヒルクライムをしていて山頂までに出し切って両足が脚が攣ってしまって転倒した後に、気がついたら復活していてアタックを連発する。

・長時間になればなるほど、他の人がバテてきているのにバテない。相対的に強くなる。


 などなど。田代さんのカラダはサイボーグなんじゃないかと思う。話題は尽きず、ワインのボトルがどんどん空いていく。僕は烏龍茶。たまにコーラだけど、気分だけは酔っぱらいだ。


 僕はトイレに行くときにレストランの店内を見回した。酔っ払いの自転車乗りのオジサンたちの文字通り巣窟になっている個室とは別に、メインのフロアはシックな雰囲気が僕を大人な気分にさせてくれた。

ここで律ちゃんとデートとか出来たらいいなとか、でも僕はまだお酒飲めないなとか、オーダーするメニューはパスタの単品でも良いのかなとか、いろいろ考えてしまった。


 もし、僕が大人になったら隣の律ちゃんとカウンターで並んでグラスを傾けていたらどういう話をしたらいいんだろう。今の僕には敷居が高すぎる。

はやく大人になりたい。そして、こういうお店でスマートにデートできるようになりたいな。


 第41話に続く


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