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challenging-現在進行形な僕らは 第1章 2011年8月 海と出会いと悲しみと 第4話

第4話


 土曜日は往復200kmを自転車で走ったり、海でビーチバレーでしっかり遊んだりしたけど、日曜日の朝もいつものように4時30分に目覚まし一発で目が覚めた。福井さんからの転送メールが輪太郎から来てないというのは気になるけど、僕のテンションは高い。530朝練に出撃だ。平日の朝は輪太郎と2人での朝練が多いけど、週末の朝は大勢で走れる。


 テンションは上がっているけど体は正直だな。昨日の帰り道はテンションが上がっていて調子が良かったけど、今朝は走り出しから足が回らない。ツーリングという割には輪太郎と張り切っちゃったし、それ以上にビーチバレーが効いている気がする。

 きっと砂浜でのジャンプとか効いてるんだろうな。普段使っていない筋肉を使ったせいだろう。それでも昨日の1日を思い出しただけでニヤけてくる。いかん、集中しろ。ボケっとしていると事故や転倒につながる。


 5時20分位に宇都宮森林公園入り口のセブンイレブンに着くと、先客がすでにいた。「530朝練」と呼んでいる5時30分に集まって走っているロードバイクの朝練仲間だ。仲間と言っても僕はたいてい最年少で、僕からみたらオジサンばかりなんだけど。


 年齢も職業もいろいろなメンバーが集まってくる。

 四捨五入すると60歳になるのに元気にアタックに反応していく曽根さん。曽根さんは気持ちが若い。55歳を過ぎてからロードバイクに乗り始めて、今ではロードバイクにMTBにダウンヒルにといろいろ挑戦してるらしい。

 そして、あっちこっちに知り合いがいる。ほんとに老若男女、誰とでも仲良くなっちゃう。あの才能はすごいと思う。ほんとに。ウチのじいちゃんもすごいと思うけど、曽根さんみたいな風に楽しく歳を重ねられたら最高だと思う。


 体育の先生でさわやかな加茂さんはオールラウンダー。こんな先生だったら僕の学校生活ももっと楽しかったに違いないなあ。最近、ニューフレームを投入してモチベーションが上がっているみたい。


 しがない個人事業主と自分で言っている荒井さんは、実はナイスセンスなWEBデザイナーらしい。自転車に乗り始める前は体重が100kg近くあったのに、いまではかなり絞られている。脚質はパワー系スピードマン。最近登りも強くなっている。


 こだわりの自分で組んだ手組みホイールにて登場はマニアックな黒田さん。ホイールって自分で組めるものなの? そのディープリムのホイールの効果もあってか巡航スピードがめきめき上がっている。


 続々と集まる。今日は多いなあ。

 五十嵐さんは「ターミネーター」のニックネームを持つ。不死身のパワーとスタミナと熱い言動を併せ持つ。夜勤明けに寝ないで朝練に来たり、冬になると朝練終わったあとにそのまま家族でスノーボードに出かけたりしちゃう。登りでも大きなギヤをグイグイ踏み込んで加速していくのは真似できない。そして朝からいつも超ハイテンション。そのパワーを分けてもらいたい。


 五十嵐さんも数々の変態伝説があるけど、それに負けない変態伝説を持つのは一見穏やかな田代さん。一見穏やかなのに変態的な追い込み方や数々の伝説はサイボーグなんじゃないかと思うくらい。けしてあきらめない精神力がすごい。


 登りが強い福山さんは平地も速い。あの細身の体にどこにあの加速の切れ味があるのだろう? 好き勝手に集まって走っていた朝練仲間に効率的なトレーニング理論や安全走行の注意点をさりげなくアドバイスしてくれてからメンバーから教授と呼ばれている。


 観察眼が鋭い大山さんは気配り上手。オジサン仲間からも「兄貴」と慕われている。自転車乗りは穏やかな人でも、熱いテンションがどこかにある。大山さんはほんとそう。登りの速さとストイックさはピカイチ。仕事も忙しそうだし、中学生の息子さんの野球の審判もやってたりしてめちゃめちゃ忙しそうなのに、走ると熱い。いつ練習してるんだろ? 

「山」がついてるだけあって。福山さんと大山さんがふたりで登りで先頭になると一気に強度が上がるので、「ツートップ」と言われて恐れられている。


 かなり昔から森林公園で早朝から走っていたのは川島さん。何度か朝練ですれ違っていたけど、あいさつできたのは530朝練にきてから。展開を読むのがうまくて草レースの上位入賞の常連だったらしい。

ところが最近の朝練は、「昨日飲み会でさ」と言ってゲロ吐きそうになっていたりする日が多い。仕事が忙しいらしく走れていなくて、腹回りが確実に出てきている。昔の面影はなかったりするのが面白い。


 今朝、最後に到着したのは、山岳賞の証のピンクのジャージな斎田さん。年齢は40台の後半になるけど、走りは熱くて気持ちも熱い。アタック大好きで、登りはもっと大好き。斎田さんは、森林公園の主みたいな感じ。僕は斎田さんと森林公園で出会ってから、斎田さんに誘われて一緒に走るようになった。一緒に走る仲間が増えてきて、この「530朝練」という形になった。斎田さんにはほんとに感謝だ。ロードバイクに乗り始めた3年前、1人で走っていた自分にとって大勢で走れるというのは新鮮な経験だった。それ以来一緒に走らせてもらっている。


 今朝も5時30分集合だと言うのに10人以上集まった。最初は斎田さんと2人で走っていただけだったのに、すごいことだ。十代は僕1人。20代も少なくて、メインは40代。30代が次に多い。


 早朝の5時30分からオッサンを中心としてハアハアして、その日の最大心拍数を早朝の6時とか7時とかに叩きだす。50kmくらいのアップダウンのあるコースを休憩込みで2時間くらいで走ってくる。それでも足らなくてお代わりといって、時間に余裕があれば更に走り出すメンバーも多い。ロードバイクを知らない人から見たら、きっとおかしいに違いない。


 朝練コースは、川沿いと峠をつなげて回る周回コースになっている。そのうち、なんとなく張り合うポイントが数か所ある。スプリントポイントが3箇所、登りのポイントが2箇所ある。スタート後、しばらくはウォーミングアップ的に走って、その後は適当にその日の雰囲気で走りながら徐々にペースが上がっていく。


 張り合うポイント近くになるとトップを取りたいメンバーがもがきあうという感じだ。どこかのチームに入ったり部活で走ったりしている訳ではない自分にとっては、この仲間(というかいい年したオッサン達)と一緒に走れるのはすごく楽しい。言ってみれば「チーム530」だ。こうやって、セブンでスタート前にまったりしている時間も楽しい。


「昨日、遊び過ぎて今日はダメダメです」

僕は自転車に乗るだけなら次の日に疲れるなんて滅多にない。でも、砂浜でのビーチバレーの影響からかどうにも脚が重い。自転車と違う疲労だとなかなか疲れが取れないみたい。珍しいな。今日はダメかも。


「何言ってんの。ムサシは若さがあるからな。俺は昨日飲み会だったから、全然ダメだ。大人しく走る」

斎田さんが言う。

「そんなこと言ってさ、いつも自分で真っ先にアタックしてるしさ」

曽根さんが言う。

「そんなこと言って。それこそ曽根さんもじっとしていられないよね。」

大山さんが言う。


 集まるメンバーでその日の展開が違うのが面白い。忘年会シーズンになると、週末は飲み会明けな大人が多くて、二日酔いとか言ってまったりとしたペースになったりする。

でも、自転車乗りは嘘つきも多い。「ぜんぜん走ってないですよ」と言うメンバーが久しぶりに登場したのにバカっ速だったりして、「大人って嘘つき」と思ったし。


「そういやさ、ムサシの高校って、共学だろ。学校のセーラー服、夏服の制服かわいいじゃん。彼女とかいないの? 朝練してる場合じゃないだろ、夏休みだし」

スタート後、どうでもいいことを話していたら、いきなりそんな話を曽根さんから振られたので思わず香川さんの笑顔が浮かんだんだけど、その時は流しておいた。


 まだ朝練コースの序盤だ。やっぱり昨日のビーチバレーの疲れが残っていて脚が重い。僕は様子見で集団の最後尾付近で走っていた。今のところはなんとなくペースは緩めだ。ドラフティングしながら集団の後ろで付いて走るとほんとに楽だ。こういうペースで走るのも悪くない。


 それもつかの間、ウォーミングアップ区間が過ぎた途端だ。「昨日は飲み会だったから今日は大人しめで走ろう」とか、さっきまで自分で言っていたのに、斎田さんがアタック。のんびりした雰囲気から、いきなり無差別アタック合戦。誰かが火をつけると止まらない。

 僕は最初のスプリントポイントはタイミングを逃してしまって先頭争いにからめず。

 そういうのも含めて面白い。今日はどんな展開になるのだろう。毎回ワクワクする。今日は峠に先着できるかな。


 その10人ちょっとのロードバイクの集団は旧道の峠の登りに差し掛かった。平地できつくないペースでも、そのままの速度域で登りに入ると当然ながら強度は上がる。登りに強い福山さんと大山さんの先頭固定の一定強めの引きに、割と必死にペダルを回している僕に向かって「だからさ、彼女いるの?」と、脱力するような話を振り続けられる。みんな面白がってるな?


 聞こえないふりをしていたのに。おっと本格的に登りに入ってさらに強度が上がってきた。一瞬、遅れそうになる。こういう話(誰が好きだとか誰に興味があるとか)を同級生と話すのは照れるけど、朝練仲間のオジサンなメンバーと話すのはあまり照れくさくない。みんな自分よりずっと大人だし、大人の話も聞いていて面白いから。大人の話が面白いと思えるのは新鮮だ。


 そして、同級生と話をすると照れる。照れると言うのともちょっと違うかも。高校の同級生と話していると、なんだか「誰が偉いか」のような、なんとなく張り合ってる感じがして素直に会話できない。ほんとはみんな子供なのに、「知らない」ことを見透かされるのが怖くて張り合っている感じ。お互いを知らないだけかもしれないけど。


 その点、朝練のオジサン達とは気楽に話せる。そして輪太郎とも全く遠慮がいらない。輪太郎の方が自転車も恋愛もうんと経験値があるからなんだろう。輪太郎には、「ムッツリスケベ」といつもからかわれているし。


 ほんとは僕もかわいい彼女が欲しい。自分が好きな女の子に自分を好きになって欲しくて、自分も好きだと気持ちを伝えたい。そういう彼女という存在があったら、きっとめちゃくちゃ頑張れる。

 でも、そういうことは同級生には素直に言えなくて、「自転車乗ってるからさ、時間なくてさ、それに別に女なんて興味ない」とか言っちゃうんだよね。共学だと、そういうところで照れちゃう奥手な人間と、共学のメリットを最大限に生かす積極的な人間に分かれる気がする。もちろん僕は前者だ。


「制服がかわいいのと、彼女がいるのといないのと、関係ないじゃないですか?」

 そう言うと、曽根さんが答えた。

「ああ、そういやそうだ。でもな、オッサンになるとな、みんなかわいく見えちゃうんだよ。もう制服着てるだけで彼女にしたい」

「そういうもんですかね? それって高校生と付き合ったらまずいんじゃないですか?」

「そういうもんだ。思うだけなら犯罪じゃない。妄想は自由だろ。で、ムサシは可愛い彼女はいるの?」


 斜度がきつくなってきたのにずっとペースが落ちないので心拍がどんどん上がってきた。夏場だと6時前でも汗が噴き出してくる。相変わらず先頭固定の二人が引いているのでペースが落ちない。割と必死なので、返答するために呼吸を整える。確かに中学生の頃は彼女とか付き合うとかというのは、僕は現実的には意識していなかった。


 剣道部の年上の先輩にあこがれたことはあったけど、あれは恋愛と言えたのかな? 高校生になって女の子には興味がないといえばウソになる。でも自転車乗ってるだけで楽しかったから、自分の欲求はそこで満たされていたんだと思う。でも昨日からはちょっと違う。 

「彼女いないっす。彼女がいたら、毎週、こんな風にオジサンたちと一緒に自転車乗ってないですよ。普通はオジサンのお尻の後ろを追っかけているよりも、女の子と一緒に遊んでいた方が楽しいに決まってますって」


 一斉に前方からも笑い声が起きる。何?

「あ~、そりゃそうだ」

「言えてる言えてる」

「それが正常だよ」

「健全な高校生は朝から汗ダラダラ流してオッサン達と一緒に自転車乗ったりしないだろ」

「でもさー。俺達オジサンのケツも悪くないだろ」

「おい、太郎、今日も必死でケツに着いてこいよー」

「それどころか、俺達の脚線美もなかなかだぞ。俺なんて昨日スネ毛剃りたて。見てみろよ。ツルツルだぜ。セクシーだろ。今朝は気合入れてオイルも塗ってるぜ」


 一斉にメンバーから茶々を入れられた。こっちは必死で走ってるのに、子供をイジってもしょうがないでしょ?って思うけど。まあ、実際にそのとおりなんだけどさ、こんな高校生もいたっていいじゃないの。これも青春だ。一緒にサドルの上の時間を過ごしているオジさん達も気持ちは若いよな。なんだか愉快になってきた。さっきまで登りで苦しかったのに力が沸いてきた。不思議だ。今度は僕から攻撃だ。腰を上げてダンシングでペースを上げる。一気に先頭まで駆け上がる。アタックだ。


「うりゃあ」

 一気にペースを上げたので心臓が爆発しそうだ。やっぱり体は正直で昨日の疲れからかちょっとカラダが重い。腕も疲れてくる。でもアタックだ。峠の頂上まで距離はあるけど、今朝は届くかな?

「おおー。アタック!アタック!!」

「ムサシがやけくそアタックだぜ」

 ペースは速いにしても淡々と登っていたオジサン達の闘争心に火をつけてしまった。結局、最後は峠の手前で一気に脚が売り切れて、おじさんたちにズバっと峠の手前で抜かれて意気消沈。ポイント取れず。


「もうゲロ吐きそうですよ」

 汗をダラダラ流しながら、峠で全員が揃ってちょっとひと休みしているあいだに、オジさんたちに口々に返される。

「何言ってんだよ、自分でアタックしておいて」

「太郎、じゃあゲロっちゃいなよ。好きな子はいるんだろ?」

そう言われて、ごくごくとボトルからスポーツドリンクを飲んでいて思わず噴出しそうになった。


「僕のことなんて、もうどうでも良いじゃないですか?」

「いやいや、結婚してしばらくして愛もさめちゃうとな、若者の乳繰り合いが楽しみで仕方なくてな」

「そうか。ウチはまだ愛があるぞ」

「オレんちはもう愛はないな。若者の恋愛話の方が楽しいな」

 またみんなが食いついてきた。なんだよ、乳繰り合いって。オジサンたちの会話を聞いていたら、自分でもびっくりしたけど同級生相手には言えないセリフが出てきた。

「いますよ。気になる子はいます。でも本気で好きになっちゃうか分からないです。出会ったばかりなんです」


 そしたら、つぎからつぎへといろいろなご意見が。

「お、そうか。いいぞムサシ。アタックだよ。さっきみたいにさ」

「好きになるかどうかなんて、付き合ってみなくちゃ分からないって。まずはアタックだな。大恋愛で結婚したって、離婚しちゃうのも多いしな」

「そりゃ、大人の話だ」

「まとめるとだな、気になるならアタックしかないな」

「で、さっきみたいにゴール前に沈没。今朝のアタックは切れ味は良かったけど詰めが甘いな」

「それじゃダメだろ」

「若者を励ませ」

「アタックすれば、きっといつかは決まるって。今回かもしれないし次かもしれないし、十回アタックしてもダメかしれないけどな」

「はっきりしてるのはな。アタックしなけれりゃ決まらない。ヘタなアタックもたまには決まるぞ」

アタックはアタックしなきゃ決まらない。宝くじだって買わなきゃ当選しない。そのとおりだ。


 ひと休みした後、つづら折りのコーナーを抜ける。その先は微妙に下り気味の普通に走れば快適な道が続く。スピードが上がっていく。実は下りだから楽かというとそうじゃない。九十九折の区間はオジサンたちはとても慎重で、僕が飛び出しているような場面が多い。でも見通しが利く区間になると、いっせいに全員のペースが上がる。


 高速ローテーションが始まった。ロードバイクの集団が一列棒状になって加速していく。1人が前に出る。しばらくしてまた1人が前に出る。そのたびにさらにスピードが上がっていく。今は時速50kmを超えている。ローテーションでも一定ペースならそうでもないけど、最後はたいていちぎりあいと言うか、アタックの繰り返しになる。きついきつい。きついけど、そのきつさがたまらない。


 輪太郎と走っているときとはまた違った快感だ。十台近くのロードバイクが流れるようにコーナーを抜けていく。その車列を後ろから見ているのは気持ちが良い。何か生き物のようにスムーズに流れていくカラフルなジャージの車列はカッコいいなあと思う。

 その中に自分がいる一体感がたまらない。ローテーションやドラフティングの快感を知っちゃうと、自転車はやめられない。とても1人じゃ走りきれない速度ですっとんでいく感覚。真空に吸い込まれていくような感覚。集団の中の一体感。気が合う仲間とローテーションで飛ばしていくのは快感だ。川沿いのスギ林の中を通り過ぎる時の朝日の木漏れ日がとてもきれい。朝もやの中に日差しがカーテンのように下り注いで、その中を疾走していく。


 改めて思う。ロードバイクはすごい。ママチャリとは全く違う別の乗り物だ。ハイテク素材を使って軽量化され、路面抵抗や摩擦抵抗を極限まで抑え、人間の限られた脚力を最大限効率的に伝えるように進化した乗り物。


 そして、乗っている人間も信じられない進化をする。ロードバイクもすごいけど、人間もすごい。それを朝練仲間のオジサンたちから教わった。朝練のオジサンたちは、普通の世間のオジサン達とは全く別の心肺能力と脚力が備わっている。見た目は、ちょっとやせてる普通のオジサン達なんだ。例えば、野球とかサッカーとか格闘技みたいに、「いかにもスポーツしています」という風には見えない。そのおじさん達の集団がロードバイクに乗り出すと信じられないスピードとパワーとスタミナを発揮する。自分自身のカラダをチューンナップして楽しんでいるように思える。

 1日で200kmとか300kmとか、中にはぶっ続けで400kmとか600kmを走っちゃう。

 野を越え峠を越えて走っちゃう。この人たちはただの趣味の世界のホビーレーサーのオジサンたちなのに、信じられない強さだ。人はどこまで強くなれるのだろう。


 ふとそんなことを思いながらローテーションする。ローテーションでのドラフティングが快感なら、先頭に出た時の空気の壁は、文字通り見えない壁だ。壁。先頭で速度を出せば出すほど、空気が塊に思えてくる。塊になって、しまいには空気の壁になる。空気抵抗のヤロ~、負けないぜ。 


 やっぱり自転車は楽しい。女の子とデートしていても楽しいかもしれないけど、実は僕はまだ1対1でデートっていうのをしたことがないから楽しさが分からない。香川さんとのことを想像しちゃうとドキドキするけど。今までなら間違いなく自転車の方が楽しいと思っていた。リアルに苦しくて生きている実感がある。そんな風に思いながら走っていた。結局、今朝もオジサンたちのオケツに文字通り食いついていく。


 第5話に続く

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