challenging-現在進行形な僕らは 第2章 2011年9月 マロニエトライアスロン 第30話
第30話【宮本 健】
いよいよ律ちゃんのスタートだ。律ちゃんのスタートはスムーズで、最初からかなりのリードを稼いでいた。他の選手とスピードは段違いだ。僕らの応援も力が入っちゃう。最初に海で見たときの衝撃だ。僕のイルカちゃん。今日はほんとに速い。スムーズでしなやかで。問題は前のグループに追いついた後、あの密集する選手の間を抜いていけるかどうか。
「律ちゃんてさ、見た目よりもしっかりしてるというかガッツがあるというか、うまく言えないけどさ、何度もびっくりさせてくれちゃうぜ」
となりで輪太郎が言った。それに福井さんが当たり前と言う感じで応えた。
「あのね、律ちゃんね、すごく強い子なの。確かに見た目が一見おとなしそうだし可愛いし、そう見えないかもしれないけどね、私なんかよりもずっと強いわよ」
「あらら、じゃあムサシは覚悟しとけ。律ちゃん、見た目よりもかなり強いってよ。晴美よりも強いってよ。俺なんて今から晴美にビビってるけどさ」
福井さんは、何でもそういう話題に持っていく輪太郎に呆れていた。
「何言ってんのよ。だからまだ付き合うって言ってないでしょ」
「大丈夫、俺がぶっちぎって1位でつなぐから。3分差くらいつければ余裕で1位でゴールでしょ」
はいはいと僕らは適当に輪太郎をあしらい始めた。そうしているうちに律ちゃんは先行するグループに追いついた。作戦通り、密度の薄そうなアウトコースから抜きにかかっている。大丈夫かな。見るからにかなり泳ぎにくそうだ。
初心者向きのトライアスロンレースだけど、それでも参加者はそれなりにトレーニングを積んでいるようで、比較的筋肉質な選手が多い。これがロードバイクのレースなら参加者は華奢な選手が多いんだけど。
ウウェットスーツを着ている選手の集団を上から眺めてると。今の状況を例えるなら、マッコウクジラの群れを泳ぎ切ろうとする可愛いイルカちゃんと言う感じだ。
最初はアウトコースから抜きにかかっていたけど、コーナー手前でイン側に入っていくコース取りに変えたようだ。少しでもタイムを削るためにイン側に入っていこうとしているのかな。そう思った後の出来事だった。いままでスムーズだった律ちゃんの様子が一気におかしくなった。
一体、なにが起こったんだ。僕は心臓を掴まれたような気分になった。
第31話に続く。




