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challenging-現在進行形な僕らは 第2章 2011年9月 マロニエトライアスロン 第28話

第28話【福井晴美】


 輪太郎が走り込んできた。勢い余って止まり切れずに前輪がロックして自転車ごと前転しそうにになりかけながらバイクをトランジットエリアに駐輪した後、ものすごい勢いで走ってきた。走りにくいロードバイク用のシューズで必死になって。輪太郎があんな風に必死になるものなのかと、ちょっと可笑しかった。 


「すまえねえ。3分差つけられなかったか」

 輪太郎はやっとの思いでそれだけ言うと「わわわわわわががが」とか、声にならない声を出してふくらはぎやら太腿を押さえて転がりだした。脚全体が攣っているらしい。


「任しといて」

 私は、輪太郎のくるぶしから計測用のバンドを巻き替えて、輪太郎がやっとの思いで差しだしたタスキを受け取った。このタスキのせいで、律ちゃんや輪太郎にプレッシャーかけちゃったかな。


 でも、そうでも言わないと、ムサシ君から誘われた時、律ちゃんが一緒にリレー部門に出てくれるかどうか自信無かったのよ。私はエントリーを誘われた時、出たいと思ったの。だから、誘うきっかけとしてこのタスキを使ったのは事実なんだけど。でも、今思えば、その必要はなかったかもね。


 私は未練を残してきちゃったの。陸上に。いつまでもウダウダと過去に未練ばかり残していた。今日、思い切り走ってゴールしたら、きっぱり競技としての陸上は諦める。


 今日は私の陸上競技のゴールのつもりで走る。そしてみんなの気持ちを繋いで走る。初心者向けのローカルなトライアスロンのリレー部門で何をいきがってるのかと思われるかもしれない。私も昔は国立のトラックで全日本選手権を走ったのにね。


 でもね、今日はほんとに最高よ。全日本っていう舞台はそれは素晴らしいけど、今日の舞台は展開も盛り上がりも最高。この舞台を作ってくれた3人に感謝ね。


 3人に感謝って思ったけど、訂正。やっぱり輪太郎、あなたは最高ね。最初はね、お調子もので口が軽くて一見どんな男なのって思ってたけど、今日、改めて見直したのよ。私のためにあれだけ頑張ってくれたと思って良いかしら。


 好きだって言ってくれる男の子が自分のために必死で頑張ってくれて結果も出しちゃうって、それは女の子にとったら最高に素敵なこと。その気持ちに応えるためにも私は1位でゴールしなくちゃならないのね。


「無理しないで」

 人の良いムサシ君が言う。輪太郎なら「脚が折れるまで走れ!」って言うかもしれないないけど、その輪太郎は悶絶していて動けない。どこまで無茶したんだか。

「春ちゃん、落ちついてね!」

律ちゃんが言う。心配そうな律ちゃんに任せといてと言うと、律ちゃんは最高の笑顔になった。今日の収穫のひとつは間違いなく律ちゃんのその笑顔だね。


 第29話に続く


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