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challenging-現在進行形な僕らは 第2章 2011年9月 マロニエトライアスロン 第18話

第18話


 僕は、そのうちなんだか感傷的になって、3人で笑っている福井さんと香川さんと輪太郎の会話の輪から外れて、いろいろと思い出していた。


 僕は小中学校の頃は剣道ばかりやっていたし、高校生になってからは朝晩休日と自転車に乗ってばかりで恋愛とはちょっと縁遠い生活をしていた。高校の同級生達の彼女がどうのとかアイドルがどうのとかいう話題には、無関心とまではいかないまでも適当に同調しているだけだった。


 今までの僕は、世の中は世間が思うほど世界は恋愛で満ちている訳じゃないと思っていた。恋愛が食べられる訳じゃない。恋愛で生きていける訳じゃない。

 でも、なぜかTVドラマや映画や小説や音楽は、恋愛で満ち満ちている。メディアの中の恋愛の比重は、世間の物事の重要性の比率からしたらおかしくないか。そんなに誰も彼もが恋愛に夢中になってる訳じゃない。


 僕らはもっとリアルに現実に生きていると思っていた。

 繰り返すけど、日常では恋愛が食べられる訳じゃない。恋愛で妄想してるなら、自転車に乗るかとか昼寝するとか。まだ宿題でもやってた方がマシだと思っていた。実際にそういう生活をしていて、自分なりに充実していた。


 だけど、今は違う。今、僕は香川さんに恋をして、頭の中は恋愛モードになっちゃってる。でも、それだけでうつつを抜かすわけじゃなくて、自転車も頑張れているし勉強も集中できている。そして僕らはトライアスロンに向けて頑張っている。


 結局のところ、僕は全く分かっていなかったのだ。

 恋の力にびっくりしている。世界の色彩が鮮やかに見える。今までよりも世界がリアルに見える。おおげさじゃなくてほんとにそう見える。恋愛って、確かにドラマや映画や小説になる意味がある。わくわくしちゃうよ。


 ぬるいお茶を飲みながら、そんな風にしばらく物思いに耽っていた。

「香川さん、ムサシがいやらしい妄想してます! ムサシはすぐにひとりで妄想しちゃうからな」

何を言い出すんだ。してないって。真面目に考えてたんだよ。とりあえず言いがかりを訂正しておく。でも、確かに僕は1人で妄想しちゃうことが多いよな。ひとりっ子だったからかな。妄想してる時間も嫌いじゃないんだよね。


 そのあとプールでビーチボールで遊んだり、浮き輪でプカプカ浮かんでいたりした。初めて2人と出会った日も特別な夏の1日だったけど、今日も特別な1日に間違いない。青春の1ページというのがあれば、この日もその1ページになる。思えば、4人でいるときの空気はいつも特別だ。


 そして、もし香川さんと2人だけの空気になったらもっと特別なのかな?


「ごめんね、今日は晴ちゃんのお店で夜に宴会入っていて、手伝わなくちゃいけないの。2時間もかからないで帰れるからまだ余裕はあるけど」

 香川さんが言った。そりゃ大変だ。今は午後の3時。さっきのお店のお手伝いの話ね。このあと運転して帰ってお手伝いとは大変だ。僕ら2人は急に恐縮して帰り支度を始めた。

「良いのよ、そんなに慌てなくても。」

香川さんが言うけど、早く帰ってひと息ついてからの方が良いんじゃないかと輪太郎も心配する。名残惜しいけど、撤収作業をして着替えて、ちょっとせわしい気分で車に乗り込んだ2人を見送った。


 ジリジリと真上から照らしていた日差しが傾いてきてちょっと柔らかくなってきた。まだまだ暑さが厳しい時期だけど、今日は湿度も低いし猛烈な西日という感じじゃない。秋の気配がそこまで来ている。


 2人を見送って今日はサヨナラ。切い気分になってきた。これが恋愛なのか。

「正直言ってさ、今日の香川さんには驚いた。すごいな」

 輪太郎の意見に僕も同感。 

「あのさ、香川さんはムサシにもったいなくね?」

 輪太郎が言い出した。それには同感できないぞ。何を言うんだ。自分のことを棚に上げてさ。輪太郎こそ福井さんは高嶺の花だよと言ってやった。 


第19話につづく。


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