challenging-現在進行形な僕らは 第2章 2011年9月 マロニエトライアスロン 第15話
第15話
2人はプールサイドでとても目立っていた。2人とも水着はこの前の海と一緒で、特に可愛い水着ではなくて、どちらかといえばフィットネス傾向のシンプルなスイムウェアという感じだけど、それが2人の容姿を際立たせていた。
入れ込みは少ないとはいえ休日のプールなので、目立つ2人が歩いてくると周囲の視線も一緒に動いてきた。2人ともそういった視線を自然に流している。今日来ている他の女子高校生みたいに、大して可愛くないのに自意識過剰にキャーキャー言うのでもなく、かと言って容姿を自慢している訳でもなくて自然なんだな。すごいなと思う。2人はとても素敵な女の子だなあ。
「お待たせ」
僕が動揺しているのは仕方ないと思うけど、輪太郎も周囲の視線が一緒に移動してくるのに動揺していて面白かった。僕の方に面白がる余裕があるのは救いだな。
「すごい素敵です」
僕は何も考えずに言ったけど、言ったあとで赤面してしまった。福井さんに言われた。
「あなたたちって、単刀直入と言うか、良い意味でストレートだけど、気の効いた修飾語があまりないわね」
まずは流れるプールに行ってみた。流れるプールは震災の影響か節電の影響か分からないけど流水モードにはなってなくて、トライアスロンのスイムの練習には幸いだった。とはいえ、流れていなくても家族連れとか小学生とかがそれなりにたくさんいて香川さんがスイムの練習をするには大変だったみたい。
それでも、あの香川さんの「イルカスイム」は健在だった。スムーズにしなやかに泳いでいるのに速い。少なくとも今日の入場者の中では一番速く泳いでいた。全力で泳いだらもっともっと速いのだろう。輪太郎が言っていたリレー部門で優勝ということが、あながちホラじゃない気がしてきた。
「コースにコーナーがあるのが難しいわ」
ちょっと真剣な眼差しで香川さんが言った。僕は、一瞬、今までの香川さんのイメージと違うその眼差しにドキっとした。香川さん曰く、直線やターンなら良いけどスイムでコーナーを回るというのはやったことがないらしい。確かに水泳ってそういうスポーツじゃないもんね。しばらく香川さんが流れていない流れるプールでコーナー?の感触を確かめている間、僕と輪太郎と福井さんはビーチボールで遊んでいた。
「ムサシ、お前も一緒に泳いで来いよ。俺達の邪魔するな」
輪太郎が無茶を言う。
「あのな、走るならなんとか走れると思うけど、香川さんのスイムについて行ける訳ないだろ?」
「関係ねえ。俺達2人の邪魔すんな。2人になったら、また口説こうとしていているところなんだから。俺がさっき気を使ってやったんだから、今度はムサシが気を使え」
輪太郎が幾分か本気かもしれない調子で言うと、福井さんが言ってきた。
「ムサシ君、あなたがいてくれてちょうど良いわ」
確かにね、もし福井さんが輪太郎と付き合うとしたら、輪太郎のトークにも付き合うということだ。泳ぎ終わった香川さんがいったん上がると言うので僕も付き合うことにした。輪太郎はまだ2人でビーチボールで遊びたがっていたけど、福井さんも上がってきた。
「ちょっと早いけど、お昼にしましょう」
福井さんが言った。大賛成だ。僕はずっと最初からお昼にしたかった。仕方ない様子でついてきた輪太郎もお昼なら文句はない。プールから上がって着替えてから、福井さんと香川さんが芝生広場の木陰のテーブルでお昼のセッティングをしている間に、僕らは飲み物を買いに行った。相変わらず輪太郎には、「サンドイッチサンドイッチ」と冷やかされる。
戻ってきて、驚いた。味気ないプールサイドのアルミの丸テーブルが変身していた。麻のチェックのテーブルクロスの上に、小麦色に焼かれたパンや色鮮やかなサラダやハムやチーズや卵焼きや野菜たちが、白地のシンプルな器に盛られていた。
そこだけオシャレなカフェみたいになっていた。紙皿やプラコップじゃなくて、きちんとした器たちを準備してくれた2人の気持ちが嬉しかった。
行ったことがないけど、どこかのリゾート地のホテルのプールサイドのカフェの木陰のテーブルかと思うくらい、そこだけ空気が違って見えた。2人の女の子がスペシャルと言うのもある。輪太郎もビックリしていたのが顔で分かる。思うんだけど、こういうのって僕の周りにいる女子高生じゃムリだよな。
年は1つしか違わないのに、2人の大学生という立場がすごく大人に見えて、僕も早く大人になりたいと焦ってしまう。
第16話に続く