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challenging-現在進行形な僕らは 第2章 2011年9月 マロニエトライアスロン 第13話

第13話


 すでに走れるウェアに着替えている福井さんは、クルマから下りるところから相変わらずすごく素敵だ。クールにカッコいい。女性の今風のランナーだと、ピンク系とかスカイブルー系のパステルカラーのランニング用Tシャツに、フリフリのスカートみたいのとロングタイツを合わせてるイメージだ。ジョギングしているお姉さんとか東京マラソンのニュースとか観てるとね、そんな気がする。


 だけど、福井さんは違う。私服だと割と女子っぽかったけど、走るとなると違う。白地がベースの無駄のないデザインのスリムなランニング用Tシャツにパープルのランニングパンツ。そしてキャップにサングラス。いかにも走れそうなシンプルなスタイルが余計に眩しかった。


「おはよう」

福井さんが笑って挨拶してきた。こういうシンプルなスタイルは福井さんのナイスなスタイルを更に際立たせる。手足がすらっと長くて小顔で美人。白いキャップにサングラスが更にカッコよかった。確かにスペシャルだ。輪太郎が惚れるのも間違いない。


「おはよう。あんまり素敵で惚れ直してるとこ」

そう思ってたら輪太郎がいつもの調子で言う。そう言えるのがうらやましい。僕がそう言いたい相手の香川さんは、今日はレギンス丈のジーンズにきれいな空色のTシャツにサンバーザー。フツーだけど、今風の女の子のファッションって僕はあまり好きじゃないから、そういう普通さがすごく可愛い。香川さんは後部座席から大きいバスケットを持ち出すところだった。


「お疲れさん。お昼作ってきてくれたみたいね。ムサシが食いたい食いたいってずっとうるさくてさ、ありがと」

と、輪太郎が香川さんに余計なことを言う。

「メニューはこの前とだいたい一緒だけど、量だけはたくさん持ってきたから。今日は晴ちゃんと合作」

香川さんが嬉しいことを言ってくれる。それだけですごく幸せになってしまった。


「それ、僕が持つから」

大きなバスケットを持たせてもらう。予想以上に重くてビックリだ。作るのも大変だったのかな。

「輪太郎はこっち持てよ」

と、もう1つの保冷バックを輪太郎に持たせる。なんだよ良いカッコしたがってとブツクサ言いながら輪太郎が保冷バックの中をさっそく開けて中を覗こうとするので、せっかくなので楽しみは取っておけとやめさせといた。


「ありがとう」

香川さんは言ってくれたけど、こういうの、初めてで照れる。なんていうか、女の子の荷物を持つのとかさ。正確には女の子の荷物じゃないけど。こんな間合いで良いのかな?

 何から何まで恋愛初心者は挙動不審になりそうなのが辛い。駐車場から香川さんと並んで歩く道のりが緊張する。ちょっと前を並んで歩く輪太郎と福井さんは2人でボケて突っ込んで、すでに夫婦漫才みたいで最初から笑いっぱなしだ。


 いかにも夏らしい青い空と輪郭のくっきりした綿菓子みたい白い雲が僕らを応援している気がする。


 僕らは、いったんプールのチケット売り場の前の芝生広場の日陰のテーブルに座って、レース当日のスケジュールやコース設定、今日の予定を確認する。そういう事務的な作業は今の僕にとっては嬉しい。

レース当日の受付とかスタートまでの段取りとかって、けっこう重要なんだよね。そして、そういう事務的な作業でも輪太郎と福井さんは面白くしてしまう。


「まずね、ランの2.5kmのコースを一緒に試走するでしょ」

輪太郎は言うけど、さて、誰と誰が走るんだ?

「誰が一緒に走るの?」

そりゃそうだ。本番でランを走るのは福井さんのみだし。福井さんの疑問はもっともだ。

「オレと福井さん。だって俺達しかいないでしょ?」

「俺達って、ねえ。あなた、かけっこで私と走れるの?」

と福井さんが聞き直す。そりゃそうだ。走れるのか?

「かけっこってなんだよ。ランだよラン。愛のチカラがあればバイクだってランだって走れる」


 輪太郎が断言する。愛のチカラがあっても、走れないものは走れないだろう。

 いくら輪太郎がロードバイクで日本一の高校生って言ったって、いくら福井さんが試走のペースだと言ったって、一緒に走れるか怪しいもんだ。だって、福井さんてインターハイで優勝してるんでしょ? 

 例えば、僕らのロードバイクのトレーニングに、本格的にスポーツをやっていた経験者だとしても、野球選手やテニスや、たとえ陸上の長距離の選手だって初めてロードバイクに乗ったら全くついてこられないのと一緒だ。


 福井さんはあきれていたけど、別に害がある訳じゃないので、試走で遅れたらその場で輪太郎を放置するということで2人は2.5kmコースの試走に出かけた。本番は2周回することになる。


 走りだす福井さんの後ろ姿を見て、僕は愕然とした。福井さんのランニングフォームに、だ。なんてスムーズなんだろう。隣を走る輪太郎の走りは、そりゃまあ普通だ。僕だって同じようなものだろう。

 だけど、福井さんと輪太郎が並んで走っていると、リラックスして走っているサラブレットの隣を、ロバがバタバタ走っているような感じだ。サラブレットとロバが並んで走ったところは見たことないけど、例えるとそんな感じ。


 福井さんのフォームには全くムダがない。すごいなあ。当たり前で分からなかったけど、「走るフォーム」というのもトレーニングの結果なんだと初めて知った。スムーズでしなやかで速さを感じさせない。 隣の輪太郎はけっこう一生懸命走っているように見えるけど、ついていくのに必死だ。福井さんにとってはウォーミングアップ程度の走りだろうけど、それでも十分に福井さんのすごさを感じさせられた。


 輪太郎が惚れるのも分かる気がする。福井さんは容姿も最高に素敵だけど、それだけじゃない。それ以上にすごいんだ。僕らに出会う前にものすごい努力をしている。インターハイで優勝となればそれはそうだけど。実際に試走のペースで走っただけで、それをリアルに感じさせられた。それを輪太郎だって分かっていて、だから輪太郎をして福井さんに惚れちゃうんだ。


 でも、香川さんもとても素敵な女の子だよなあ。

 そう思うと、僕はどきっとした。


 第14話に続く。


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