第4章 2011年10月 チャレンジレース 第108話
第108話【宮本 健】
冷静に振り返って思う。勝てて良かった。
でも、負けてもスカッとしてたと思う。輪太郎との勝負は最高だった。負ければ悔しいのは間違いなだろうけど、輪太郎と二人でゴールした瞬間は最高に楽しかった。
そして、輪太郎は、たぶん、そうは思ってない。全力で悔しいに違いない。
そこがすごいところだ。僕が負けてもスカッとしたと思うのは、たぶん自分への言い訳なんじゃないかな。輪太郎は自分自身に言い訳しない。それくらい輪太郎は自分に厳しいと思う。僕はこれからそこまで自分に厳しくなれるのかな。
勝てたのは、朝練で一緒に走ってるオジサンたちや沿道の応援のおかげだ。ひとりで走っていたら絶対に勝てなかった。そして、最後は律ちゃんの応援で勝つことができた。
輪太郎とはほんの十センチか、いや数センチ差の激しい勝負だった。恋愛の力は偉大だ。律ちゃんの応援がなければ、とてもここまで走れなかった。応援がなかったら僕は最後に諦めていたと思う。
僕はこの瞬間が人生史上最高に嬉しい。律ちゃんが必死で応援してくれて、僕が勝って、律ちゃんが喜んでくれている。僕が大切に思う人が喜んでくれる。こんなに嬉しいことってあるのだろうか。
そして、僕はこの530ジャージで表彰台の真ん中に立てるのが嬉しい。530朝練のオジサン達には今まで一緒に朝練を走ってアドバイスをたくさんもらって鍛えてもらってきた。今日も五十嵐さんや田代さん、荒井さんに助けられた。だから僕はここにいることができた。表彰台の真ん中だったら恩返しできたと言うことで良いかな。
第109話に続く