第4章 2011年10月 チャレンジレース 第100話
第100話【山口輪太郎】
下りの間は、ペダルを思い切り踏み込むことなく、そんなことを考えていた。現実的な話で考えれば、ムサシは先頭集団に復帰できないだろう。俺が下がって、一緒に追走を仕掛けるという選択肢も一瞬考えたけど、俺だって勝たなくちゃならないんだよ。ムサシと2人で逃げ切るという作戦はもうダメだろう。それがダメなら最後はゴールスプリントで俺が勝つ。
先頭集団の7人は先頭の4人でローテーションしている感じだ。後ろの3人はローテーションに入らないなら鶴カンの登りでチギってしまいたい。しばらくは後続集団に追いつかれない程度に回していくしかないな。
萩の道の登りに入ると、ペースが落ちる。ここでムサシだったらアタックしたに間違いないなと俺は苦笑した。平日の朝練ではムサシが登りの度にアタックを繰り返していて、それに張り合っていた練習をしていたせいか、今の俺は短い登りなら苦手に感じない。それどころか、ウズウズしてしまうくらいだ。ただ、今の展開では俺の脚を使うのはここじゃない。最後のゴールスプリントで確実に先頭を取る。
先頭に出てもペースは上げない。勝つための義務を果たすだけだ。先頭に出なかったら、最後にゴールスプリントで勝負する資格はない。萩の道の登り下りをこなしてから、ちょっと先頭を引いてから後ろに下がった。相変わらず後ろの3人はローテーションに入るつもりはないらしい。まあ、そこまでの脚しかなかった訳だ。鶴カンの登りでチギれるな。
第101話に続く