7 ≫接触≪
夜月と月夜の二人は上田清太を探すべく、無断で出かけることを決意した。
早速、荷物をまとめる二人。
「多めに持っていったほうが良いだろう。誰かに追われるってことになると面倒だからな」
「無断外出なんてしたら、組織が全力で探し始めそうだもんね」
そこに、廊下側から、コツコツと、誰かが近づいてくる、靴の音が聞こえた。
二人は息を潜める。念のため、ナイフを構える。
次の瞬間、ドアがスッと開く。
「茂さん!!」
月夜が思わず叫ぶ。
そこに立っていたのは茂だった。茂が言う。
「無断外出と俺の詮索は良くないぞ」
「バレていましたか…………」
「夜月。お前は意外と好奇心旺盛だからな。こうなるだろうと思っていた」
「…………どうしますか?」
「どうもしないさ」
茂は、ただ静かに微笑み、佇んでいるだけだった。
別に怒るわけでもなく、ただ悲しそうに笑っていた。
「…………怒らないんですか?」
「まあ、詮索されるのは嫌だか、興味を湧かせる会話をした俺も悪いしな」
そして、茂はそっと部屋に入ってきて、ドアを閉め、鍵まで閉めた。深呼吸をして、一度落ち着く。
「無断外出するのだろう? ついでにおつかいでも頼もうかな」
「おつかい、ですか……?」
「そう。少し、治に伝言を頼みたい」
治のことが出てきて顔を歪ます月夜だが、気にせず話し始める。凄く、真剣な眼差しで。
「治に『閑には気を付けろ』と伝えてくれ」
「気を付けろ……? それはどういうーー」
「詮索はやめろ」
「すみません」
ドスのきいた声で言われ、少し怯む夜月。
茂は次に、茶色の大きめの封筒を夜月に手渡した。
「あと、これを、渡してきてくれないか」
「わかりました」
「絶対に中は見るなよ」
「むむ、見るなと言われると見たくなる…………!」
横から月夜が封筒に手を伸ばす。
それを夜月が止め、茂が月夜に言い聞かす。
「月夜、ちゃんとおつかい出来たらご褒美をやろう。なんでもいいぞ」
「え! 本当に!?」
「ああ」
「じゃあ我慢する!」
「よし、いい子だな」
茂は月夜の頭をなで、部屋を立ち去ろうとする。その時に夜月に聞こえる微かな声で「お互い生きていればの話だがな」と呟いた。
「夜月、頼んだぞ」
「はい」
真剣、かつ、悲しい瞳で、茂は言い、部屋を出ていった。
夜月は次に、月夜に、低い声音でこう言った。
「やはり、荷物は最低限必要なものでいい。その代わり、武器を持て。銃とか、な………」
月夜は、静かに頷いた。
電車に揺られる夜月と月夜。
あまり公共の場に出ると見つかりやすいが、仕方がない。何せ治の町まで遠いからだ。
上田清太は警察だから、すぐに見つかるだろうし、自宅の目星もつけた。治は元々探偵事務所の場所を知っているから問題は無い。
あとは探しだし、上田清太からは情報を聞き出し、治のところへはおつかいを果たして、あわよくば情報を得られれば、今回の無断外出の目的は達成される。
「はあ、電車に乗っただけで疲れた」
電車からおり、改札を抜け、外に出て、背伸びを目一杯する月夜。その月夜に早くするよう促す。
「急ごう。意外と時間はないぞ」
「いつ見つかるかわからないもんね」
二人は上田清太を探しに歩き始めた。
探し出して二日目。
確信を持って、上田清太の居場所を見つけ出すことが出来たが、どうやら組織が自分達に気付き、動き始めたそうだ。あちこちで見知った顔を見るようになった。
「兄さん。あと何時間待てばいいのかな?」
「もう少し」
「それさっきも聞いた~」
月夜は横で駄々をこね始めている。
今二人は上田清太の自宅前で堂々と待ち伏せしている。
本来、相手は警察だし、追手に追われる身なので、こうして堂々と待ち伏せしているのは良くない。だが、時間が勿体無い。なるべく早く帰るにこしたことはない。帰れればの話だが。
「…………来た」
「え? どこどこ?」
目の前から、歩いてくる男。
長身の、真っ黒い髪の毛の男。
夜月は警戒もせず、早速話しかける。
「上田清太、さん。ですね」
「…………誰だ、お前」
「鬼蘇夜月。鬼蘇茂の養子です。んで、こっちが妹のーー」
「ちょ、ちょっと待て! お前はいきなり何言ってる! そもそもなんで茂のこと、知ってんだ」
驚き、後ずさる清太を必死で自分達の素性を説明する夜月。だが、あまり、聞き入れて貰えない。
月夜は退屈そうに地面の石ころを蹴飛ばしている。
十分後、なんとか理解してくれたが、次に、やはり、重大な問題が生じる。
相手は警部。自分達は犯罪者。
「犯罪者に話すことなんてねぇよ」
「そこをなんとか。…………それに今、あなたは武器を持っていない。どういうことか、わかりますね」
「勿論、お前らは武器でも持ってるんだろうな」
「はい」
言葉は平淡だか、微かに、焦っている。
何せ目の前には犯罪者がいるのだから。
しかも警部は丸腰の状態だ。無理もない。
「お願いします。美那という女性のこと。茂のことを教えてください!」
「どーすっかな…………茂はどうしてる?」
「教えてくれたら、教えます」
「一筋縄ではいかないか…………」
「貴方こそ」
お互いにしかめっ面をしている。空気もピリピリとしている。月夜もさすがにおとなしい。
先に清太が賭けをした。
「別に教えてやってもいいぜ」
「……本当ですか?」
清太は、よし来た。と言わんばかりに、口角をニッと上げ、とんでもない言葉を口にした。
それはあまりにも不釣り合いな条件。
「その代わり、お前らの組織の情報を教えろ。…………俺の気がすむまで、な…………」