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3 ≫詮索≪

「徹が、俺に出会う前、どんな奴で、どんな生活をしていたか、教えて頂けませんか?」

 勇大が珍しく真剣な顔をしている。治はハァ、と溜め息をつき、話し始めた。

「徹くんに詮索するなーって、言われなかった? まあ、いいや。徹くんに話すよう言われてるしね」

 どうやら徹も話しておくべきと考えたらしく、治に頼んでおいたようだ。

 治が低い声で淡々と話し始める。

「徹くんは小さい時、両親から虐待を受けていたんだ。父親はギャンブルに入り浸って、それに嫌気をさした母親は男と遊んで滅多に家に帰って来なかった」

 虐待を受けていた、というのは、前に一度、徹から聞いていたが、まさか両親の二人から受けていたなんて。

 だんだんと部屋に重い空気が充満していく。

 治が続ける。

「父親は短気で徹くんに暴力をふるって、母親はそれを見てみぬフリ」

 その、知らなかった事実に、心が痛む。

 勇大は思ったことを言ってみることにした。

「逃げようと思えば逃げれたんじゃないですか?」

 その質問に口を尖らせながら、治は言った。

「母親に『外には怖いものがいっぱいあるから、絶対に外に出ちゃ駄目』って言われてたんだよ。子供にとっては命令みたいなものなんだ。だから徹も忠実に守った」

 重い空気が充満するなか、治は淡々と、淡々と、話を進める。それも内容とは裏腹に、とてもあっさりと。

「んで、徹はついにその環境が嫌になって、図書館のパソコンであることを調べた」

「あれ、外に出たんですか?」

 言葉を聞き、「ああー」と言葉を付けたし、説明し始める。

「母親はとうとう帰って来なくなったんだ。父親にはよく家を追い出されてたみたいでね。それでよく行ってたのが図書館」

 言葉を付けたし、また話を進める。

「それで調べたのが、罰ゲームってサイトだったんだ。図書館には色んな人が来るから、話が流れて来たんだろう」

「ああ、罰ゲームって、都市伝説っぽいやつ……」

 罰ゲーム。そのゲームに参加した奴は誰一人、生きて帰って来ない。と、今でも有名な話だ。

 どうして今ここでその話が出てくるのか。

 勇大は急な展開に頭が混乱しそうになるが、何とか整理をし、次の言葉を待つ。

「徹は現実から逃げたいがために、そのゲームに参加した。ところがそのゲームは危険な薬の研究をしたかった残忍で、冷徹な組織が考えたものだった」

 あまりにも現実離れした話に耳を疑う。こんなそこそこ平和な時代にそんな科学の研究をするところなんか無いと思っていたからだ。

 勇大は息を飲み、少し落ち着いてから、口を動かした。

「それで、今の徹には被害は無いんですか?」

「徹にはね。他の参加者………七人は全員殺された。それもあって暫く徹は精神が不安定だったんだ」

 七人全員が………。自分が平凡な生活を送っている時にそんなことがあっただなんて。

 勇大の顔からは血の気が引いていた。

「よく、徹は無事でしたね………」

「徹だけ逃がしてくれたんだよ。仕事上、詳しくは言えないけど」

 仕事上詳しくは言えない。ということは治にも何か関係しているのだろう。それほど問題なんだと、実感する。

 治は少し、暗い表情で、話す。

「大人でも気が狂う状況で徹くんは、そこから逃げてきた。雨の中をね。そこで僕と出会って…………」

「色んな意味で家に帰せる状況じゃ無かったから、治さんが引き取った。ということですね」

 治は頷き、机の上に散乱していたプリントを片付け始めた。何やら″仕事上詳しく話せない部分”の事が書いてありそうだ。

「まあ、そう言うことだから。…………徹のこと、嫌がらないでね。小学校の頃は色々あったから」

 治は子供を心配する父親のような顔をする。

 それに勇大は大きな声で返事をする。

「そんな! 嫌がりませんよ! 徹は思ってないと思いますが、俺は親友だと思ってるんで!!」

「うーん、なんかそれ悲しくない? 徹は思ってないって…………っと、そろそろ寝ないと」

 時刻は十時………三十分を過ぎている。

 勇大は拗ねた口調でボソリと呟く。

「徹は寝んのが早いんだよ。夜は色々楽しいのに」

「悪の組織が攻めてくるから?」

「悪の組織……? …………あ」

 勇大の顔が赤くなっていく。

 きっと、さっき徹の寝る前に騒いでいた時のことをいっているのだろう。

 治はクスクスと思い出し笑いをしている。

「き、聞いてたんですか…………!」

「いや、あれだけ大きな声だったら、こっちまで聞こえてくるよ。いやぉ、面白かったー」

 クスクスと笑う治の横で、がっくりと、うなだれる勇大。

 治は時計を見てから、勇大に促す。

「さあ、もう寝よう。あまり遅いと徹くんに怒られるからね」

「はい…………お休みなさい…………」

「うん、お休みー」

 二人は挨拶をして、それぞれの寝床へ向かった。



 翌朝、徹は朝食の支度を終え、テーブルに人数分を並べていっていた。勇大はただちょこん、と座っているだけだ。

 治はまだ起きて来ていない。

 徹が話す。

「治さんから聞いた? 俺のこと」

「ん? ああ………まあ…………」

 勇大は顔をうつむく。

 だが、次の徹の言葉で顔を上げることになる。

「………友達やめとく?」

「は? 何言ってんの、お前」

 徹はふう、と溜め息をつき、顔をしかめている勇大に向かって平淡な口調で言った。

「だって、あんな生活してきた俺と付き合っていかなきゃならないし、周りの珍しいモノを見るような目にも耐えなきゃならないよ」

「んなモン、俺は気にしねぇ。誰が何を言おうと! 俺はお前の親友じゃああ!!」

 ふふん、と鼻をならし、高らかに宣言した勇大の言葉に徹は口を挟む。

「友達になった覚えはあるけど、親友になった覚えはない」

「あ、やっぱり? 言うと思った…………」

 少し、シュンとした勇大を見て、徹はまた、溜め息をつく。

 そしてこう言った。

「まあ、お前がそれでいいって言うなら、親友になってあげてもいいけど?」

「うおー!! まじか!! よっしぁあああ!!」

 あまりにも嬉しそうに笑う勇大を見て、本当はこいつ友達いないんじゃないか? とか考えたが、それはきっと無いだろう。

 徹は「治さん起こしてくる」と言って部屋をあとにしようとする。

 その時、少し気が緩み、久しぶりに、ほんの少しだけ、笑った。

「おわぁ! 今お前、笑っただろ!!」

 まずいところを見られてしまった。と、少し思った。だがすぐに、まあいいかという心の緩みが出た。

「おー、お前の笑ったとこ、始めてみたー!!」

「笑ってないー」

「笑ってんじゃんか!!」

「わらってませんー」

 徹は、勇大と一緒にいるのが楽しかった。

 馬鹿でアホで、厨二病で騒がしいが、自分に嘘偽り無く接してくれるのは勇大だけだ。

 治は自分を助けてくれた、いい人だが、たまにはぐらかすことがあるから。

 これなら、生きていてよかったと思える。


『おれなんか…………どうせ生きてたって…………』

『…………そうかもしれないな。けど、お前は生きなきゃならない…………』


 あの時の言葉が甦る。

 生きなきゃならない。今なら強く思える。

 自分と、自分を思ってくれる二人のために。

 それと、夜月兄さんを、助けるために。


 徹は治の寝室へ治を起こしすために行き、部屋のカーテンを開けながら、そう思った。

 外は太陽が眩しく輝いており、町中をしっかり照らしていた。

 その光景をみて、徹は呟く。

「俺は雨の方が好きなんだよな。どちらかと言うと」

 徹はよし、と元気に動きだし、そばでくーすか眠っている治に大声を聞かせた。

「治さん! 朝だよ! 起きないと、ご飯食べちゃうからね。勇大が!!」


これでプロローグは終わりです。

次は第一章になります。

第一章では鬼蘇兄妹がメインになると思います。

では、読んで下さり有り難うございました。

次回もぜひ、読んでください。

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