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2 ≫宿泊≪

出でよ! 封印されし龍の力!!

前半は勇大の馬鹿にお付き合いください。

「クソッ……あのダメ人間!!」

 現在、徹、勇大の二人は菅野探偵事務所の前に突っ立っている。

 徹は何やら怒りを覚えているようだが、原因は事務所の主、菅野治となだている。

 徹はリュックから鍵を取りだし、鍵穴に差し込み、回す。カチャリ、と音がたつ。

 徹は扉の取っ手に手をかけ、扉を開ける。

 勇大は徹のあとに続きおずおずと入り込む。

 徹は部屋の奥、台所へ向かい、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。

「ああ、テキトーに座ってて」

 座るよう促され、勇大はローテーブルの側にあるソファに静かに腰を下ろす。

「ちょっと待ってて。今治さんに説教してくるから」

「お、おー……あ、ジュースありがーー」

 が、徹は無視して二階へ続く階段のそばへ行き、スニーカーからスリッパに履き替え二階へドタドタと上がっていった。

 部屋は綺麗に片付けてある。台所には何故かカップ麺の残骸。綺麗好きの徹はまず放置はしないだろうから、治がそのままにしているのだろう。真っ白な壁に、床は深い緑のタイル。落ち着いた雰囲気に、重苦しい静けさ。

「…………何か落ち着かねぇなぁ…………」


 暫くして、徹と髪がふわふわの男が下りてきた。

「あ、お、お邪魔してます」

 男がその挨拶に応える。

「こんにちは。僕は菅野治。君が徹くんの唯一のお友達かあ」

「あ………はい。斉藤勇大です。徹の唯一の友達です!」

「悪かったね。友達いなくて」

 いつの間にか徹が凄まじい視線を二人に向けているが、そんなのお構い無し、という感じの二人。

 それどころか勇大はとんでもない提案をする。

「治さん! 突然で申し訳ないとは思いますが、今日泊まっていっても良いでしょうか!!」

「はぁあああ!!?」

 徹は怒りを抑えきれず、大声で叫ぶ。

 治と言えばニコニコ笑っている。

「うん。いいよ~」

 徹の意見を無視してあっさり許可する。

「いやいや、ちょっと! いきなり過ぎるでしょ!」

「必要なモンなら持ってきたぜ。下着と洗面道具に、風呂道具」

「お前、こーゆー時だけ計画的だよな!!」

「いやぁ、それほどでもー」

「褒めてないよ! 皮肉だよ!!」

 かくして、強制お泊まり会が勝手に決まった。


 その後はただ勇大(バカ)がギャーギャー騒ぐだけだった。

 食事の時も「うお、カレー上手ああああ!!」とか。カレーは作りやすいから、それにしただけなのに。風呂では一人で「妙にキレーだなあ!」と一人で騒ぐ。ゲームをしても何をしても騒がしかった。


 勿論、寝る前も。

 馬鹿など無視してさっさと寝ればいいのだが、そうはいかなかった。


 やはり、厄介である。厨二病というのは。

「漆黒の闇が街を包みし時………! それは悪の組織が動き出す合図であるッ!!」

「お前何言ってんの?」

 時計の短針が八時を過ぎた頃、勇大はいきなり立ち上がり訳の解らないことを言い始めた。

 それを白い目で見つめる徹。

「今こそ我らが立ち向かう時……!」

「いや、立ち向かわなくていいから。もう寝る時間だから。てか俺眠いから」

 勇大は片足を上げ、変なポーズをとる。徹はもう眠くて仕方がないといった風に、お気に入りの枕を抱き、顔を埋めている。

「はっ! 月が我に語りかけてきている…………!! 何!? 悪の組織が攻め込んで来るだと!?」

「おい、うるさい……」

「く、あの力を使うしか……クソ、右手が疼く……」

「……………………」

「仕方ない。出でよ! 封印されし龍の力!! 今こそ我に力を与えてくーー」

「ぁぁあああ!! もう!! うるさい!!」

「ぎゃああああ!!?」

 龍の力より強いであろう徹のげんこつが勇大の頭にねじ込まれる。勇大は頭を押さえ、床で右往左往している。

「うるさい!! 俺はもう寝る!」

「あ、悪の組織が…………」

「あ゛ぁ!?」

「…………すんません」

 徹は溜め息をつき、電気を消し、布団に入り、寝ようとする。勇大は名残惜しそうに、それを見つめる。

「勇大、お、や、す、み!」

「お、おやすみ………」

「…………すかー…………」

「寝んの早ッ!!」

 徹は布団に入り、枕を抱き締めた途端に眠りについた。

 その寝つきの良さに、良すぎるのも考えものだな、と思う。


 九時頃、勇大は隣ですやすや気持ち良さそうに眠る徹を確認してから部屋を出た。

 階段を下りる。

「本来の目的を忘れちゃ駄目だよな…………」

 勇大は事務所をそっ……と覗き見る。

 中では治が何やらプリントの束を読んではまとめ、また読んではまとめを繰り返し、考え事をしているようだった。

 ふと、治がこちらに気づく。

「どうしたの? 眠れないかい?」

「あ、いえ、そう言う事では無くて…………」

「何か相談したいこたでもあるかい?」

 あっさり見抜かれ少し驚くが、話を切り出して見ることにする。

「ちょっと、聞きたい事があるんですが…………」

「なんだい?」

 勇大はおそるおそる、口を開き、言葉を出す。

「徹が、俺に出会う前、どんな奴だったか、どんな生活をしていたか、教えて頂けませんか………?」



  ×



 ある安いホテルの一室。壁紙は少しボロいがしっかりしている。照明は薄暗いが、狭い部屋を照らすには充分だろう。

 そこに疲れきった男女の姿が。

「はぁ…………疲れた…………」

「そうだね…………」

 時間は十一時頃。大抵の子供は寝る時間である。

「ねえ、兄さん」

 兄さん、と呼ばれた男。名は『鬼蘇きそ夜月よづき』という。

「どうした?」

「この部屋、ちょっと狭いね」

 夜月の横で文句を言う女。名は『鬼蘇きそ月夜つきや』。

 二人は血の繋がらない兄妹であり、訳あって、今は逃亡中である。このホテルはついさっき、疲れきった二人がたまたま見つけた場所であった。

 人目に付きにくく、場所もわかりにくい。それでいて、逃げ道はしっかりと確認できた。逃げている身としては隠れやすい場所であった。

「兄さん、所でこのホテル…………」

「うるさい」

「ねえ」

「うるさい。俺は寝る」

 夜月はもぞもぞとベッドに潜り込み、目を閉じる。が、「僕も寝るー」と、月夜が割り込む。

「はあ、お前は呑気だな」

「んー? そう?」

「まあいい。…………そうだな。追っ手が来ると困るから、交代で仮眠を取ろう」

「ん、おーけー」

「じゃ、お前寝ていいぞ」

 といい、起き上がる夜月。月夜は申し訳ないと多少は思いつつ眠りにつくことにした。

「月夜。お前、髪伸びたな」

「んー、まあ、そうだね」

 セミロングの月夜の髪を撫でる。少し嬉しそうに笑う。月夜ももう二十一だ。そろそろ結婚してもおかしくない歳だ。

「お前もそのうち結婚するのかな」

「えー何、寂しいのー?」

「別に、そうじゃないけど。てか、もう寝ろ」

「明日も早い?」

「ああ」

 わかったと頷き、月夜は目を閉じた。

 その月夜の頭を撫でてやる。

 つくづく、月夜を自分のくだらない運命に巻き込んでしまうことに、自分自信に、つくづく腹が立つ。

 それでもついてきてくれる妹が愛しい。

「早く、茂さんを、菅野治に会わせなくては…………」

 夜月はそばの椅子に移動し、テーブルにメモを並べ、今後の計画の確認と、自分の意思を、固めることにした。



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