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13 ≫事件≪

今回は長いです。

 冷えきった朝。徹と治は支度をしていた。

「徹。はいコレ。護身用のスタンガン。その場しのぎにしかならないけど」

「あ、ありがとう」

 徹は、たとえ護身用と言えど、スタンガンを持つのには抵抗があるようだった。それを見て、治は釘を刺すように言った。

「抵抗があるかもしれないけど、身を守るためだから、ちゃんと持っててね」

「わかってるよ」

 治は時計を見つめた。そして「そろそろ時間だ」と呟く。

「もう支度は出来た?」

「うん。大丈夫だよ」

「じゃあ……行こうか」

 二人は荷物を持って、事務所を出た。車に乗り、市民会館へと向かう。その途中、徹は疑問を感じ、治に聞いた。

「ねぇ、治さん。テロなんて、危険なんだから、定期演奏会をやめさせればいいんじゃないの?」

「それが『中止すれば今度は大都市を襲う』って。それは、まあ、大変なことだし、こちらとしても今回のテロは、組織を取り押さえるチャンスでもある。それに、協力者もいるしね」

 治は小難しそうな顔をしてうなだれる。徹はかける言葉もなく、うつむくしかなかった。

 そうしているうちに、すぐに目的の場所、市民会館についた。二人は無言のまま、車から降り、中に入る。すると、真っ先に上田清太が駆けつけた。

「久しぶり。清太さん」

 徹は軽く挨拶をした。清太には何度か世話になっている。

「徹、お前なんてここに……。今回は本当に危険ーー」

「清太」

 治が制した。二人は少しの間、アイコンタクトとった。そのあと清太は不満げにため息をついた。

「ったく。気を付けろよ」

「うん」

「治。手伝ってくれ」

「わかった。徹。ここにいてね」

 そう言い、二人は何処かへ行ってしまった。

 周りでは様々な人が慌ただしそうに動き回っている。警官の姿が見当たらないと言うことは、私服で潜り込んでいるのだろう。

 徹はあたりを見渡す。

 高校生、子供、大人、おそらく、警官……。その中に徹が探している人はいない。

 もしくは、よく隅々まで探せば見つかるのかもしれないが、そんな勇気は、なぜか、無かった。



 今回の作戦は隅々まで警官、そして、協力者を配置して、テロを止めることだと、徹は聞いた。

 真っ先に子供を探しだし、テロを止めると。

 その後の行動は警察側が勝手にやるとも言っていた。

 そして、徹のやるべきことは、騒ぎのなか、夜月たちを探し出すことだ。

 またさらに周りを見渡す。ふと、すぐ近くに、三人の子供が目に入った。最初は友達同士で来ただけだと思った。だが、彼らの一人が持っているバッグに違和感を感じた。

 黒い、大きめのバッグ。

 子供がそんなバッグを持つだろうか。

 いや、もしかしたらあるのかもしれないが、高校の演奏を聴くだけで、大きなバッグがいるだろうか。

 彼らの中の、リーダー的存在の子と目があった。瞬間、背筋がゾッと凍りついた。

 その時ちょうど治が通りかかる。

「お、お父さん! 姉ちゃん、ちゃんと演奏できるかな?」

「え?」

 治は突然のことで驚きを隠せない。

 徹は治を睨み付け、話を合わせるよう、訴える。先程の子供が、穴の中のように暗い瞳でこちらを見ている。

「ねぇ、あっちの席に座ろうよ」

「え? あ、ああ、そうだね」

 二人はその場を離れた。子供たちは興味を失ったのか、また三人で会話を始めたようだった。

 次に治が口を開こうとしたが、遮る。

「治さん。あの子達、おかしいと思わない?」

「え? あの子たち? うーん……そうだな……」

 治は子供たちを見たあと、すぐに答えた。

「なんであんなバッグを持っているんだ? 不自然だ」

「でしょ?」

「念のため、誰かに監視させよう。徹も、遠くから見ておいてくれる?」

「うん。わかった」

 治は去っていった。

 徹は子供たちを見つめた。

 明らかに、自分とは違う何かを感じた。



 しばらくして、定期演奏会が始まった。子供たちは人目につきにくい、特別席にいる。特に変化は見られない。と、思った時、子供たちがバッグから何やら取りだし始めた。

 徹はすかさず治に電話をかける。

『もしもし?』

「治さん! あの子たちが今、栓のついた筒みたいなの取り出したよ!」

 徹は治の方を見て言った。

 遠くから治が何かの指示を出していたのがわかった。すぐに男たちが駆け付け、子供たちを囲む。彼らは筒を持って、逃げようとするが、男たちに取り押さえられる。

 その直後、一人の男の子が苦しそうな表情を浮かべ、動かなくなった。それを見た男たちは残りの二人にタオルを口いっぱいに突っ込んだ。

 徹はそれをじっと見ていた。口を開け、じっと見ていた。どういうわけか、何の音もしない。無音に感じる。

「徹」

 不意に治に声をかけられ、ハッとする。音が聞こえてきて、素敵な音色が響く。周りの人たちは今のことに気づいていないようだった。

 治が眉をよせ、心配そうにする。

「大丈夫かい?」

「うん。ねえ、なんでタオルを口に入れたの?」

「口の中に毒薬が仕込んであったみたいでね。一番いいのは薬を取ることなんだけど、あの様子じゃ、噛まれてしまうから、タオルで口の動きを抑えて、その場しのぎに」

「男の子が一人動かなくなったけど」

「……死んじゃったみたいだよ……」

「そう……」

 治が頭を撫でて、言った。

「控え室Cに夜月くんたちがいるはずだよ。一緒にいくかい?」

「え、いるの……? う、うん。いく……!」

 徹の表情が明るくなる。

 やっと会える。やっと面と向かって話が出来る。

 やけに廊下が長く感じる。控え室の前まできて、心を落ち着かせてから、扉をそっと開いた。だが、そこに居たのは、騒がしく動き回る警察たちだった。

「お、治さん……」

「……やっぱり、逃げたか……!」

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