11 ≫帰宅≪
薄暗い廊下を夜月と月夜は歩く。
静かに、息を殺しながら。
ある扉の前までたどり着き、静かにノックをした。
「入れ」
奥から男の声が。茂の声だ。
「失礼します。只今戻りました」
「ああ。ご苦労。大丈夫だったか?」
「はい。しっかり届けてきました」
そう伝えると、茂は落ち着いた表情を見せ、「そうか」と頷いた。
しかし、あの封筒の中身はいったいーー
「……夜月、封筒の中を見たな?」
「……見てません」
「嘘をつくな」
真実を知りたいというのが、顔に出てしまったのだろうか。茂は呆れた顔で微笑み、夜月を見る。隣の月夜は目を丸くしている。あれを見たとき、月夜は寝ていたから、知らないのは当然だ。
「あの内容はどういうことですか」
「さあな。よくわからない。これから調べる」
「美那とは、誰ですか」
「……昔の、恋人だ」
やはり、と思うが、口には出さない。
茂は少し忙しそうに言った。
「さて、ゆっくりしている暇はない。組織もそろそろ潮時だ。警察にも目をつけられた」
「はい」
「近々、閑が何かの実験をするらしい。そこで、治と協力する」
「ついに……ですか」
茂はやはり、微笑んでいる。
きっと、全て茂の思った通りに動いているのだろう。
「組織を崩壊させる。手伝ってくれるか?」
「はい!」
「ああ~。僕も手伝うー!」
「ははっ。ありがとう。月夜」
そして、すぐに計画内容を話される。それらすべてを頭に入れる。
今回の目的は、組織の崩壊、美那の救出、組織脱退、茂は自首をすると言った。そして、夜月、月夜には逃げるよう、指示した。
「閑の目的は?」
「致死性のガスを現段階で95%完成させている。今度、市民会館で実験をするらしい。それともうひとつ。閑は、蘇生薬を作ろうとしていた」
「何故でしょう?」
「理由は知らん。知られたくないほど、恥ずかしい理由なんじゃないのか?」
「そうでしょうか?」
「まあいい。計画全てを成功させる」
「はい。あの、実験の日付とかは?」
「3週間後だ。お前らはとりあえず休め。追われていてゆっくり休めなかっただろう? 部屋を用意した。ここなら休める」
「ありがとうございます。では、失礼します」
そう言い、夜月と月夜は言葉に甘えることにした。
茂は携帯を取りだし、電話をかける。相手は治だ。
『もしもしー』
「……3週間後だ」
『……あ、あー、あれか。もーいきなりそういう大事なこと言うー』
「午前11時頃、ガスを撒くと」
『はいはーい。どんなものかわかる?』
「ガスは95%まで完成している。無色で無臭。気づかれにくいだろう。おそらく、ガスを撒くのは子供だ。目付きも普通の子と違う」
『子供使うとかえげつないね。まあいい。あとで詳細教えて』
「わかった」
『今度会いたい。確認したいことがある』
「確認……わかった。明日でいいか?」
『ああ。僕も明日が良いと思ってたんだ』
「じゃあ、その時。そろそろ切るぞ」
『うん。また明日』
そこで電話を切った。
今の茂には、不安の感情が心を支配していた。
ある一室。
部屋には壁掛け時計が時間を刻んでいく音が響く。
資料を眺め、微笑んでいるのは閑。
全て完成するまで、あと少し。だが、邪魔が入った。警察そして茂が嗅ぎ付けてきた。予定より時間がなくなってきている。
毒ガスはただの資金集めの為に作ったものだ。別にどうでもいい。本題は蘇生薬。裏切り者のせいで美那の写真が茂に渡ってしまったのは予定外だった。
「閑様。裏切り者のことですが……」
「ああ。それについてはご苦労だったね。先に君が始末してくれていたんだね」
裏切り者ーーそれは、夜月の元に真っ白な、少し血のついた、美那の写真が入った手紙を送った者だ。
「あの下級構成員、聞けば茂の派閥だったらしいじゃないか」
「はい。他にも、実験内容を口外しようとしていたので、先に始末しておきました」
「流石だね。やっぱり君は頼りになるよ」
先程から丁寧に話す男は、小さい頃から閑のお目付け役を務めてきた、笹川。名前は知らない。小さい頃から、笹川は笹川だった。
「さて、どうしたものか……なんか、人生飽きてきたなー」
「もうすぐで、お楽しみになられることができると思われます」
「そうだね。……笹川。俺が死んでも、お前は死ぬなよ」
「……と、仰いますと?」
「折角暇潰しにここまで大きな組織にしたんだ。捨てるなんて勿体無いだろ? だから、俺が死んだら、笹川が頑張ってよ」
「かしこまりました」
「あと少し……頑張るかあ……」
閑は少し楽しそうに笑った。
事の全ては、閑の暇潰しのためだ。
よくワカラン回になってしまった……。
私は、閑にーしゃんのサイコ野郎っぽいところが、地味にお気に入りです(笑)