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10 ≫連絡≪

 封筒の中の手紙に書いてあったメールアドレスを見て、治は怖い顔をして、考え込んでいた。

 徹は夕飯の支度をしていた。今日はサバの味噌焼きだ。

「治さん、ご飯だよ」

「んー……」

 治は一言、曖昧な返事をするだけで、一向に席に着こうとしない。

「治さん……」

「……ごめん! 先食べててくれる?」

「あ、あー、うん……わかった……」

 何か、酷く悩んでいるようだった。こんなときは静かにするべきだ。考える時間を少しでも作ってあげなければ。



 徹は一人で済ませた夕食後、治の資料を保管しているファイルから、組織について調べられた資料を取る。許可は取っていないので、見つかると多少は厄介なことになるだろう。

 パラパラと紙を捲ってみて、どんどん文字を読んでいく。

 一見、普通の事件のようなものも、組織が関わっていたものもあったようだ。治が解決してきた事件の七割は、組織が関係していた。おまけに様々な実験をしており、とても危険だと、資料には書かれている。

 昔はやくざの一家だったそうだか、特に脅威となるどころか、社会に貢献していたらしい。

「やくざらしくないな……」

 徹はボソッと呟き、資料を元の場所へと戻した。

 治の様子を見に行こうと立ち上がる。

 その時、ハッと思い、お湯を沸かした。



「治さん、コーヒー飲む?」

「ん? ああ。貰うよ」

 安いコーヒーの良い香りが漂う。

 治は徹からコーヒーを受け取り、一口飲んでから、溜め息をついた。

「ありがとう。徹」

「うん。……ご飯、ちゃんと食べた?」

「食べたよ。美味しかった」

「そう」

 テーブルの方に目を向ける。電源のついたパソコンと、先程の手紙が雑に置かれていた。

「何してたの?」

「メール」

「メール?」

「ああ。これ、見てみ」

 徹は封筒を受け取り、中の手紙を読んでみる。

 手紙の内容を要約すると、美那という人が本当は生きていた。そして何かの実験に利用されていて、助けたいので協力してほしい、といった内容だ。書いてあったアドレスはきっと、治の言う茂という奴のものだろう。

「それで、協力するの?」

「そうするしかないかなって……」

「美那って誰?」

「……今度ゆっくり話すよ」

 こうやって、重要なことはいつもはぐらかす。

 大人の特権ということで、今は黙っておくが。

「メールはしたの?」

「ああ。連絡をとらないと始まらないからね」

 暫くして、メールの返事があったようで、治はずっとパソコンに向かっていた。

 後から聞いた話によると、組織の方でも何かが起こり始めているらしい。それと、今のところ、夜月、月夜、美那は無事のようだった。

 近々、治と共同で事件を調べていくそうだ。市民会館の話についても協力してくれるらしい。

 その日はメールのやりとりで終わった。



 次の日、徹は一応学校に行ったが、授業には全然集中できなかった。事件のことが気になり、何も身に入らなかった。

「なあ、徹……大丈夫か?」

「ん? 何が?」

 徹に心配の声をかけてきたのは勇大だった。

「いや、なんか、元気ないよ。お前」

「そお? いつも通りだと思うよ」

「ホントかよ」

「ホントホント」

 事件について、自分でも意思を固めた。それなりの決意はできたつもりだ。だから、勇大に迷惑をかける前に、言いたいことを伝えなければ。

「勇大。あのさ、昨日は遊べなくて、ごめん」

「おー、気にすんなって。また今度な。次は俺の母さんがなんかケーキ作ってくれるみたいだし」

「うん……。あと、それとね、近々、学校休むかも」

「んあ? なんで?」

「……なんでも」

「なんだぁ? 旅行か何か? お土産よろしくー」

「ん? あ、うん……」

 勇大は何かを察し、あまり追求してこなかった。



 帰宅後、丁度治がいたので、話を聞いてみることにした。

「事件の方はどう?」

「まだなんの進展もないよ。茂も事件のこと、よくしらないみたいだったし」

「そうなんだ」

「夜月くんたちが無事に帰ってきたから、閑のことを調べてみるってさ」

「あの、治さん……」

「今回ばかりは駄目だよ」

「え?」

 治はいつになく真剣な表情を浮かべる。

「また事件に関わろうとか考えてたでしょ」

「けど、せっかく夜月兄さんに会えたのに……!」

 治に悟られたようだ。

 今日、言おうと思っていたことだ。今思いきって全て話してしまおう。

「俺、どうしても兄さんを助けたいんだ」

「それはわかるけど、駄目だ。何かあってからじゃ遅いんだよ」

「そう、だけど!」

「駄目ったら駄目。今回は何もかもが、いつもと違う」

「じゃ、じゃあ、黙って見てろって!? ガキは黙って家でお菓子食って留守番してろって!?」

「いや君、あまりお菓子食べないじゃない」

「そうだよ! いっつもお菓子のゴミを製造してるのは治さんだよ!」

 ここはもう、グイグイ押すしかない。こちらとしても、引くわけにはいかないのだ。

「な、なんでお菓子の話に!?」

「だいたい、家事も何も出来ない推理バカに指図されたくない!」

「推理バカ!? ちょ、ちょっと落ちつい……」

「しかも! 子供の俺よりゲームしてるし、すぐ怪我して帰ってくるし、財布落とすし、自分のことに関しては推理出来ないし!」

「と、徹くん、反抗期なのかな……? ……な?」

「いっつもストレス溜まらないようにって気を使ってあげてるのに何の気にもとめないし! 駄目ダメ人間だし! もう、社会不適合者だよ!」

「あああああ! もう! わかったよ!」

「ホント!?」

「ただし、危険な真似はしないこと。あと、僕はちゃんと働いてるから社会不適合者じゃないよ!」

「え、あ、ハイ」

「わかった!?」

「はぁーい!」

 何とか了承を得られた。

 今日は疲れた。ゆっくり休むとしよう。

 明日からきっと、この事件が終わるまで、忙しくなるはずだ。だから今日しか、ゆっくりすることは出来ないだろう。

 今のうちに治さんともたくさん話しておこう。

 徹は台所へ向かい、夕食の支度をしながら、そんなことを考えた。


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