初コミュニケーション
今日一日中お祭り騒ぎだ。式橋さんの周りには人がたくさん。式橋さんは、動物園のパンダか何かか!いや、パンダよりもすごい存在です、はい。パンダも負ける愛嬌の良さ、そして癒しスマイル、遠目で見ている俺ですら癒される。
いや、でも別に俺は癒しが欲しいからって、式橋さんの周りには行かないけどな!人がいっぱい居る所は嫌いだし。
そして、お祭り騒ぎは一ヶ月続いた。
式橋さんが転校してきて二ヶ月。流石に机の周りに大量の人が押し寄せるということは無くなったが、それでもかなりの人気の持ち主で、彼女が転校してきて、彼女が一人でいる所を一度も見ていない。まあ、俺はいつも一人だけどな。
そんな彼女と接点が出来たのは、意外というか王道というか、微妙な感じだった。
移動教室のある時間俺はいつも一人で移動する。なんでかって?いやいや、言わないでも察してくれよ。友達がいないからだよ。
まあ、教室の鍵を施錠する係りだから、いつも一番最後に教室から出るから1人ってのもあるけどね。
今日も同じように教室に鍵を閉めて、理科室に向かう。
「ま、待って! 教室に忘れ物したの。教室の鍵開けてくれないか」
という声がして、そちらを振り向く。
声の主は教室のパンダこと式橋さんだった。いや、悪口じゃないよ?本当に。それは置いておいて、断る理由もないので無言で教室の鍵を開ける。
無言なのは許してくれよ、久々に家族以外で話す相手が式橋さんとかマジで無理だから。え?なんだって?式橋さんもお前と話すのは嫌だって?……くそ否定できねぇ。俺と話してもつまらないだろうし、話に花を持たせられないからな。
「あ、あの。え、えと名前なんだっけ? ごめん話したことなかったよね。話したことある人の名前は覚えてるんだけど……」
名前を覚えられていなかった。いや、そうだと思ったよ?だって名前言ったことも無いし、ましてや式橋さんとお話したことないもんね。まぁ答えるけどさ。
「……神郷 英雄」
「英雄君ね……。よしばっちり覚えたよ! 鍵開けてくれてありがとうね! じゃあ遅刻しちゃうから早く理科室に行こ!」
そう言うと。彼女は鍵を閉めた俺の腕を掴み引っ張る。
あれ?何この展開ラブコメ?ラブコメなのか?自分の人生の主人公にすらなれない俺がラブコメの主人公になったのか?
なんて、アホなことを考えていると。
「あんたが遅刻したら、遅刻させた私も株が下がるだろうが! 早くしろよ!」
「へ?」
なんだろう、天使な式橋さんから、悪魔な声が聞こえた。
え、なにこれ。
「あ。……あはは、じゃあ遅刻しちゃうから急ぎましょ?」
と、にっこり話しかけてくる式橋さん。いやいや、式橋さん?笑顔だけど、めっちゃ心を鷲掴みにする笑顔だけどさ。腕、あの腕痛いです。そんな鷲掴みにしないで。
笑顔とは逆に狂気的な力で腕を握りつぶそうとしてくる。
なんだこれえええええええええええええ!アイドル女優ってこんなに力強いの?!俺の知っているラブコメと違う!
どうやら、ラブコメの主人公になったわけではないようだ。