刻まれるモノ『創造』
「GAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
精獣ブレイズは咆哮を上げると、兵士へと疾走する。
踏み込みと同時に周囲に稲妻が走り、周囲の敵兵を打倒していく。、
その力は絶大で、その青白い体躯とあいまって、まるで雷の巨獣が駆けているようだ。
前方の敵兵を撃退し、こちらに戻ると、その力で包囲網の囲いを壊し、私の周囲に暴風を吹かせ、防壁を張る。
その風に阻まれ、近づくことは出来ず、触れた兵士は悉く吹き飛ばされていった。
ただ、強風が吹いているだけのようにも見えるのだが……
『いや、ただの強風じゃないぞ。スキルでかなりの強化がされている。『大嵐』に『増幅』、『圧縮』あたりだな。周囲の空気を高密度に圧縮し、出力を上げた暴風で周囲に簡易ながら風の結界を張っているな。使えるスキルが少ないながら、なかなかのチョイスだ』
「え? そんな事出来るんですか!? いや、そもそも、アレって私が創ったってどういうことですか!?」
今ネクさんが言ったのは、私が覚えることが出来たスキルのうち、封印状態の物だ。
そもそも、私の願いに応えて生まれた、ネクさん曰く、私が創ったそうだが、全然実感がわかない。
混乱状態の私に、ネクさんは少し黙ったあと、あの存在についてレクチャーしてくれる。
『時間が無いから手短に言うぞ。まず、アレは擬似精霊の一種。自然界で生まれた精霊とは違い、特殊なスキルか特性を有している者が創りだせる存在だ。まぁ、名前を付けて志向性を与えないと、形に成らないのだがな。ここまでは大丈夫か?」
「多分、大丈夫です」
要は、ルイミウォテル等と違って自然発生……精霊って……どうやって産まれるのか? まぁ、そこは解らないけど、第三者の手によって産まれた精霊ってことなのだろう。
前にネクさんがフェリアスさんを相手取った戦いで使っていたから、なんとなく、イメージがわく。
『最大の違いは“魂が無い”事だ。それゆえに、一固体で独立して運用するには擬似的でも魂が必要なのだが。俺の場合は、神各そのものをコピーして、それをベースに擬似魂といえるモノを無いほうさせて動かしている』
「は、はい、魂に……ギジジンカク……ですね?」
もう此処で、話しの中身がだんだん難しくなってきた。
魂の有無がどう問題になるのか、そもそも、何で私にそんな事が出来たのかの説明が欲しい。
『だが、擬似魂であろうと、スキルのコピーは難しいモノだ。そもそも俺にはスキルという概念が無い。故に、俺が創り出した擬似精霊に埋め込む“擬似魂”には同時に一定のスキルを構成し、最適なものを選択している。例えば、擬似火焔大精霊だと、そのアイデンティティの為にも火焔系統のスキルで統一させ、また、異なる属性、性能を有する擬似魂を創ることで、その局面においての汎用性を高め、即時対応できるようにしているのだ。これは器となる擬似精霊にも同じことが言え、その肉体を構成する要素。まぁ、大半は魔力なのだが、その属性を操作することで、擬似魂とのシナジーを高めているのだ。逆を言えば、氷で出来た擬似精霊に、火焔操作を主眼に置いた擬似魂を埋め込んだところで、それを使いこなせないというわけだ。故に、今回の擬似精獣が使用できるスキルは限られる。魂の中身はお前のコピーでは無いが、スキルに関しては完全にコピー……というよりは並行リンクだろうな。お前のスキルをそのまま使っているのだろう』
そうネクさんは言い切ると、“どうだ、解ったか?”と言わんばかりの空気を作り出す。
ハッキリ言って、全然解らない。
そして手短にって言いながら、長い。
ネクさんは、自分で創り手だ、研究派だ、とかよく口にしていた。
恐らく、こういった技術開発や説明・解説とか、好きなんだろう。
「そ、それで……どうして私にこんな事ができたんですか?」
そう、それだ。
あの時の走馬灯で確かに、そんな助けてって言った気はするけども、それとこの現象が結びつかない。
そもそも、新しいことが出来たのに、スキル獲得の天の声が流れない。
『おい、お前に説明したよな? ……したはずだ。うん……まぁ、もう一度言うとだ。お前に授けたスキル『神威代行』は俺の権能のを代わりに使うことが出来るスキルだから。俺が使っている【創造】も一度見ているんだ、後は呼び水さえあれば使用可能だったんだろ』
「……何か、そんな話しを聞いた気がします」
確か……それって神の権能だから、代価が要るんじゃなかったですっけ?
『まぁ、今回はアイツが手助けしたのが原因だからな。仕方ないとはいえるが」
そうだ、さっきも変なことを。
誰かが私を手助けしてくれたのか?
「アイツって誰です?」
『神獣:ベヒモス。お前、アイツに助けを求めたんだろ?』
「……え?」
確かに、私はあの時、獅子のぬいぐるみや、立派なあの角が脳裏を過ぎったけど、それが理由なのだろうか?
『まぁ、後は召喚魔術の勉強をしていたのが効いたんだろ。喚起魔術の応用……まぁ、無意識だろうが、火事場の何とかと言うべきが。人の身でやる事からすれば、破格だろう』
「あ、ありがとう……ございます」
ネクさんの話しを聞きながら、私は少し体に違和感を感じだしていた。
『中身がベヒモスのコピーだからだろう。お前の封印状態のスキルも不自由なく使いこなせる。……ほんと、コレばかりはお前を褒める。よくもまぁ……人の身で出来た物だ』
「あ、あの……なんだか。体が重くて……あ、ちょっと無理」
違和感は急速に大きくなり。
そういうと私はその場へ座り込んでしまった。
もう1歩も動くことが出来そうにない……。
と、次の瞬間、周囲を囲っていた暴風は止み、視界が晴れる。
あれからかなりの人数を打倒したようで、敵兵は眼に見えて減ってる。
だが、この体の異常はなんなのだろうか?
『ああ。そりゃそうだ。アレだけの規格の精獣を創り、かつ、維持しながら自身のスキルを使わせているんだ。魔力なんか、あっという間に枯渇するに決まってる』
「そ……れ……を、早く……」
そんな身動きが取れない私へ向かい、僅かとはいえ、残りの兵達が押し寄せる。
が、精獣ブレイズはそれにいち早く対応。
雷撃を放ち、近寄らせない。
『いや、そろそろ解除しないと……衰弱死するんじゃないか?』
「かんたん……に。いわ……ないで」
解除ってどうやればいいのか、解らない。
どう創ったのか解らない以上。ある意味当然だろう。
だが、ネクさんはため息を付きつつ、
『名前を決めたんだから、名前を読んで戻れで善いんじゃないか?』
「そんなぁ~」
まるで犬猫を扱うように簡単な事が出来るわけ……。
「ブ、ブレイズ……戻って……」
私のその言葉共に、ブレイズは急に霧散し、私の中へと消えていく。
……簡単に行ったよ。
私の困惑する脳裏に、「簡単だろ?」と言わんばかりの、ネクさんのドヤ顔が思い浮かぶ。
だが、居なくなったところで枯渇した魔力や体力が戻るわけでもなく。
そんな私に、残り数名となった兵士が襲い掛かる。
私も立ち上がれないほどの疲労困憊なのだが、彼らはそれよりも酷い。
どうやって動いているのか、それすら定かではないが、既に四肢はボロボロで、吹けば倒れそうな具合だ。
それでも。私にはそれを回避する体力も残っておらず。
私は、再度死を覚悟し、衝撃に備え、目を強く閉じた。
だが、予想していた衝撃は私を襲わず。誰かが私達の間に割り込み、私はまた、命を拾うことができた。
「皆っ! 残り僅かだっ! 彼女を守れっ!」
「「「おおおおおおおおおっ!」」」
「皆っ!」
その掛け声と共に、後方に居た獣人たちが私を守るように布陣し、壁となる。
「ミアっ! 無事ですかっ!」
「ウルスっ!」
ウルスは私の側まで駆けてくると、私に肩を貸し、立ち上がらせる。
「大丈夫。ミアがあれほどまでに数を減らしてくれたおかげ。……あとは私達にまかせて」
そういいながら、私に回復魔術を掛け、傷を癒していく。
もともと、傷は少なかったのだが、ほんのりと失った体力も回復していく気がする。
『ほう、方術系統とは、珍しい。失った体力を回復させるには適してるな』
「ネク様……! ありがとうございます!」
ウルスはネクさんに褒められた事が嬉しかったのか、顔を綻ばせている。
「でも、これで……何とかなりましたかね?」
「うん、うん! ミアのおかげだよっ! ありがとう」
駆けつけてくれた獣人たちは、戦闘要員ではなけれど、敵兵を食い止め、対処していく。
スキルの反動でオーレアの兵士達は皆、満身創痍だからだろう。
だが。これで無事皆を避難させることが……
『いや……どうやらまだのようだ』
「え?」
私がその声に振り返ると、そこのはありえない光景が広がっていた。
そこには、居るはずのない、オーレアの大軍が揃っていたのだった。
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周囲には罵声が響き渡る。
「クソがクソがっ! クソクソクソっ! あのゴミ虫め、よくもオレを邪魔しやがって!」
理不尽極まりない、怒りを胸に、その男、神ベルクは感情の赴くまま、当たり散らす。
現状、すでに詰んでおり、このまま行けば、避難民は無事逃げ切り、あの擬似的な『神ヲ喰ウ狼』が暴れる、東の戦場では、兵士達は悉く限界を向かえ、残りの自警団員たちも逃げ切る事ができるだろう。
此処に、大勢は決したのだ。
しかし、彼はそれに納得していない。否、することが出来ないのだ。
「オレが滅ぼす事を決めたんだ! 大人しく滅ぼされてれば善いんだ! それが絶対者に対しての家畜の義務だろうがっ!」
その発想が既に人とは、そしてネクとは、相容れない物である。
だが、彼の中では自分を中心に世界が、人界が回っていると認識しているのだ。
長い長い長い間、国家の象徴として君臨し、自分の望むままに人を、命を弄んできたのだ。
彼の中ではその人間=家畜という認識であり、それはもはや、覆すことは出来ないだろう。
故に、この結末も、出来の悪い家畜を、遊び半分で嬲ろうとしたら、思い通りには行かなかった。という以外に思いつかないのだ。
「だが……オレが直接ケダモノを殺処分するのは……神として沽券が傷つく」
ある意味、唯一の救いは。この自分勝手なプライドのおかげで、直接的に神の猛威が振るわれることが無かった事だろうか。
いや、その場合は、むしろ此処まで戦禍が広がることが無かっただろう。
「くそ……背に腹は変えられん。あいつらに頼むか」
そう呟くと、ベルクは今も観戦しているだろう神物へと連絡をとる。
「少し頼みがある。……ああ、そうだ。構うものか、所詮はただ老いているだけの製造系神だ。こちらには軍神がついているのだ、問題にもならん」
そんな言葉と共に、ある魔法を依頼する。
人界で使用を禁止されている。いや、正確には自粛を促がされている魔法。
コレを限定的に使うことが許可されているのは、ある最古参の神に連なる者たちだけだ。
しかし、ベルクは背後にある神群、そしてその長を妄信し、強行する。
ベルクは知らないが。事実、それを責められることが無いだろう。むしろ、その長の目的から考えるなら確実に不問になる。
だが、それこそが引き金になることを、ベルクは知らない。
この身勝手極まりない行動が、既に限界寸前まで、耐えている神の。その逆鱗に触れることになる事を。




