2人の長いプロローグ 『ミアという少女』
少し暗い話になります。ご注意ください。
それは幸せな家庭だった。
ある国の騎士と強くてかっこいい父
料理上手でいつも笑顔の母
2人に囲まれて幸せだった。
いつまでも続くと信じていた。
いや、疑ってすらいなかった。
あるとき、父が仕事で家を出行った。
父は国に仕える騎士であり戦争に行ってしまったのだ。
この国はよく戦争をしていると、母は教えてくれた。
『戦争がはじまる』と母は悲しそうに父を見送った。
母と2人の生活になった。
母と2人で父にの帰りを待ちわびた。
もう数日で私は誕生日をむかえる。
両親に祝って欲しかった。
だから、帰ってくると当たり前に信じていた。
そしてその日……幸せな時間が終わった。
◇◆◇
そこは地獄だった。
周囲は炎に包まれていた。
建物は崩れ、瓦礫があちこちに散乱していた。
そして、動かなくなった人々が……散らばっていた。
あたりに怒号や悲鳴、泣き声が絶えず響き渡る。
「おかあさん……おかぁぁぁさぁぁぁん!」
小さな私は泣きながら必死に叫ぶ。
母を探して瓦礫の中を歩く。
ついさっきまで一緒に逃げていたのに。
警報の鐘が鳴り、急いで着の身着のまま避難所まで逃げ出したのだ。
手を繋ぎ、一緒にはしっていたのに。
大きな爆音ともに体に襲い掛かる衝撃。
気がついたときは一人だった。
母を捜して来た道を引き返す。
「おかあぁぁさん! おがぁぁぁざぁん!!」
泣き叫びながら必死に探す。
既に靴はぼろぼろ、体のあちこちから血が出ている、痛く無い所なんて無い。
それでも泣き叫びながら探す。
「おかぁぁぁざぁん!!! ……おがぁぁぁさぁん!」
声をあげども見つからない、見つからない。
そんな時、不意に目に入った色があった。
母が着ていたストールと同じ色。
お母さん!そう必死に駆け寄った。
見つけた母は人の形をしていなかった。
何を見ているのか解からなかった。
だからか、ナニが近づいているのかわからなかった。
地響きのような足音とともにソレは現れた。
大きな双角を有した大きな大きな獣
家を超える大きさのその獣は、形のわからないナニカを踏み潰し、進んでいった。
それが私の覚えているあの地獄の出来事
私……ミアが三歳の、いや、もうすぐ四歳の誕生日を家族とともに迎えるはずだったころの、そんな日の出来事。
奇跡的に助かった私だが、私の住んでいた国『オーレア』の都市機能は壊滅状態となり、多くの孤児があふれていた。
私も母をなくし、父は戻ってこなかった。
壊滅した都市部では孤児の受け入れが取れず、周辺国家に難民が押し寄せた。
私も難民の中に加わり、国を離れ、しかし、幸運なことに、ある老冒険者に引取られた。
生きるために色々教えてくれた。
料理だけは全然上手くならなかったけど、それでも老冒険者との生活は楽しかった。
ある日、私の住んでいた国が壊滅した理由を教えてくれた。
王の命令で魔獣を呼び、その魔獣に相手国を滅ぼさせるつもりだったと。
しかし、魔獣は命令を聞かず、自分たちの国を襲ったのだと……。
私は国を離れ、引取ってくれた養父に師事しながら冒険者になる道を歩んだ。
養父は厳しくも優しかった。
生きるための知識を教えてくれた。
冒険者になるための知識を教えてくれた。
そして、毎年誕生日を祝い、喜んでくれた。
その養父も数年前に他界した。
あるダンジョンに挑み、そして帰らぬ人となった。
生前、養父はこんなことを言っていた。
『ダンジョン報酬には神々の奇跡を引き出すものが存在していての、中には死の運命をも覆すものもあるそうだ。死者を生き返らせる秘宝もあるかもしれのぉ』
私はその言葉を胸に、家族にもう一度会うために。その日、私は冒険者となった。
◇◆◇
「レクス! 前方より蟲型三接近! 接触まであと十秒……五、四、三」
「了解、カウス。目視確認した、俺が引きつける! ベオ弓で牽制を! ネーネ、俺がヘイトを取ってから炎魔術で攻撃を!」
あるダンジョンの中、五人の冒険者が魔物と相対していた。
斥候、カウスの情報を元にレクスと呼ばれた冒険者が仲間に指示をかける。
その掛け声とともに五十センチはある巨大な蟻が迫ってきた。
このダンジョンに頻繁に発生する代表的な魔物だ。
「「了解」」
指示を受けた仲間が即座に応え、それぞれの役目を果たそうとする。
「行くぞ、おら! かかってこいや!! 害虫ども!」
その蟲を罵倒する掛け声とともにレクスの盾が振るえ『挑発』のスキルが発動する
彼はレクス。職業は[ガーディアン]で盾役の青年だ。
このスキルは意思をもって挑発を行った場合自身が装備している武具より音を立て対象注意を引きつけることができる。
スキルを駆使して敵を引きつけるレクス。
相手の蟲型魔物、その蟻のような外見に備わっている大あごを盾で受け、剣で捌きながら巧みに受け流す。
受 け流し損ねた魔物の攻撃には、レクスに届く前に後方から牽制を任されたベオが蟲の頭部に向けて矢を放ち牽制する。
『衝撃矢』
このスキルはクラス[狩人]が使うことが出来るもので、威力は通常の弓矢と変わらないが、矢が着弾時に衝撃を放ち、相手を怯ませる効果がある。
「ナイス! ベオ!」
「うぃ~」
そんなやり取りの直後、3体の魔物を火柱が襲う。
「いきますよぉ~【フレアサークル】!」
仲間の魔術師の火炎魔術が放たれ、魔物を焼く。
「あぶね!! 巻き込む気か!」
「ごめんごめん~。大丈夫~?」
危うく巻き込まれそうになり、レクスが慌てて後方に回避する。
魔術を放ったのは[魔術師]のネーネ
その名が示す通り、魔術に特化したクラスだ。
ごめんごめんと軽く謝りながらも顔は笑っている。
「相変わらずいい加減だな」
斥候として出ていた[軽戦士]の少年、カウスも折り返し戻り、ボヤキながら短剣を構える。
うん、いつも通りの光景です、きっと反省していませんね。
と、そんなことに気をとられている場合ではありません。
私の役目はこのあとの追撃をし敵を仕留めることです。
私は片手剣を構え、燃える蟲を見据える。
「いきます!」
私はそう声を上げながら魔物に切りかかっていった。
あれから十数年がたち……私は十五歳になっていた。
私は父と同じ職業[騎士]になり、願いを叶えるため、ダンジョンをめぐっている。