2人の長いプロローグ 『ネクという男』
修正と加筆をしました。
俺の名前はネク
本名ではない。まぁ愛称のようなものだ。
会議とは退屈だ。くだらない話を延々と議論しないといけない。
実にくだらない。
例え、それが俺をことを話していても、だ。
白い大理石で出来た大きな会議場。
正面に議長席が鎮座しており、そこを基点として整然とテーブルが並んでいる。
その全てが部屋と同じ、大理石で出来ている。
見る者がみれば荘厳で美しい様式なのだろうが、そこに座るのは議長と他10数名ほどである。
俺はというと、その空間から隔離され、傍聴のみが可能という状況であり、この場での発言権が無い。
どれだけ無意な話が続いただろうか?
既に会議場は紛糾し、怒号が飛んでいる。
テーブルに拳をうちつけ、砕きながら男が吼える。
「こちらの被害は甚大だ! 管理するソイツが責任をとらんでどうする!」
そう怒鳴り散らしているのは……えと、ダレだっけ?
二メートルを越す大男で見事な剃頭を真っ赤にしてまくし立ててる。
……名前わすれたからまぁ『ハゲ』でいいか。
会議の内容は、
「俺の失態について、責任の所在を明確にせよ!」
というモノだった。
叫んでいる、あのハゲの言い分を訳すとはこうだ。
「お前の部下がオレの土地で狼藉を働いたから、その責任を取れ」と
ふむ。其だけを訳すと道理ではあるな。
そんな事は、すごくどうでもいいが。
そんな事を考えていると別の声が響く。
「そなたの言い分はわかる。しかし、そもそも呼び寄せたのはそなたの陣営ではないのか?」
そう発したのは議長席に座る男、高身長、精悍な顔つき、鍛えられた体。
皆から『オル』と呼ばれ、俺の昔なじみで兄のような男でもある。
しかし、あらためて真正面から見る。
……チッ、相変わらずムダにイケメンめ。
身長は俺と同じくらいなのだが、圧倒的に違う。
イケメンオーラが滲み出ている。
まぁ、さておき。
この発言の通り、問題の存在を呼び寄せたのはあのハゲの陣営だ。
しかし、呼んだはいいが制御出来ず、大暴れ。
ハゲの管理している土地に甚大な被害がでてしまったという顛末だ。
自業自得ではないのか?という意見がだされ、再び騒がしくなる議会。
「そうかもしれません。しかし! 野放しにしていたのは事実! 早急に介入していればこのような事態にはならなかったはず!」
再びハゲが発言する。
この発言に、周りからも同意の声が上がる。
まぁ、言わんとすることはわかるのだが、俺から言ってもヤツの自業自得なのだ。
議会が俺に対しての責任の処遇をどうするかと、もめているとき、議長の大きな声が響く。
「皆、静粛に。これより処分を言い渡す」
周りが水をうったように静かになる
「第一級神『ネク』。そなたを現任から解き、無期限ダンジョン管理職に就くものとする」
俺の名前はネク
一応神の一柱であり……今左遷された。
◇
「お前にとっては災難だろうが、しばらくは我慢してくれ」
会議が終わり、他の神が出て行ってから、そうオルが声をかける。
「まぁのんびりさせてもらうよ」
そう俺は嘯きならら答える。
そんな俺の答えに苦笑しながら
「お前ならそう言うと思ったよ」
と返された。
「んで、迷宮勤務ってことだが……?」
人界に存在するもので、その名が示す通り、『ダンジョン』である。
迷宮運営は神族や魔族が行っており。人界の各地存在している。
内容は管理者によって様々であり、同一内容の物は存在しないとも言われる。
迷宮を訪れる目的は様々。
鍛錬のため、名誉のため、富のため。
人々は胸に夢と野望を抱き……
ある者はソレを得、ある者は夢半ばで朽ちていく。
……当然のことではあるが、神族も魔族慈善事業で迷宮運営を行っているのではない。
迷宮で発生した魔素。
簡単に言うと倒された魔物の魂や、道半ばで死んだ冒険者の魂。それを回収する施設である。
そもそも迷宮で魔素を集める理由が自身の陣営の強化だ。
自分を信仰する勢力が無い神魔が活動するため、そのエネルギーを手に入れるための施設というのが本来の姿である。
無論、人間も馬鹿ではない。
相応の餌が無いと迷宮にはやってこないし、餌がよくても難易度が高ければ以降寄り付かず、魔素の回収効率が落ちる、ということになってしまう。
ともあれ、それは下位神魔が維持する場合である。
上級神が趣味として高難易度ダンジョンを建設。趣味として運営している物も存在し、また、許可証が必要ではあるが、他の陣営が管理している迷宮の攻略を楽しみにしている神魔も数多く存在している。
「まぁ、そうだな。ごまかしても仕方ないし、それに解かっているのだろ?」
「そうだな」
言いにくそうにするオルに対し、解かっている。と苦笑をなげる。
俺をダンジョンにやる理由、それは一つしかない。
今回の処遇について、その意味にも見当がついているのだが、オレは確認を込め聞いた。
「まぁ、簡単に言えば封印だよなぁ、コレ」
そう、封印である。
ダンジョン勤務ということは、神としての権能をダンジョンのみに限定させるということ。
そして同時にダンジョンから出ることが出来ず、自由も奪われる。
そうすることで半ば封印状態にまで追いやられたわけだ。
「そう言うな。無期限だがそう長くなることもあるまい。何より、これはお前のためでもあるんだぞ?」
「あぁ? なんでだ?」
俺のためというオルに対し、訝しげに眉を寄せる。
オルは哂いながら
「下手に騒いで眷族共々、神格剥奪などになるよりもマシだろうよ。長引かせればベルクはそこまで要求しだしただろう」
(……ベルク……ダレだ?)
そう思いながらなんとか思い出す。
(そうか、ハゲはベルクって呼ばれてたな。完全に忘れてた)
当の本人に忘れてたことを言うと、また茹でダコみたいになっただろうが……
そんなどうでもいいことを思っていると、
「それに、業務としてのダンジョン勤務だ。お前の主神としての権利と義務は失われてないよ」
そうフォローをいれてきた。
確かに、コレを提案されることは避けたい。
こう見えて俺は三体の眷属と二族の庇護対象がいる。
神格剥奪ともなれば、形式だけとはいえ、その眷属も庇護対象も全て奪かねなかっただろう。
それだけは流石に避けたいことであった。
「そうか、それは助かる。いや、ホントに」
迅速な判断でピンチを回避してくれたオルにそう言いながら、
「もし、そんなことになったら、終末戦争を引き起こさないといけなかったよ」
と、俺はそんなことを漏らした。
「それが怖いから早く動いたんだよ」
苦虫を噛んだような表情でそうオルは答えた。
オルと雑談気味に今後の話をしていたが、肝心のことを聞いていなかった。
「おい、ダンジョンったけど、何処に作るんだ?」
当然、俺はダンジョンなんて創ったことは無い。
権能的にジャンルが違うのだ。
「ああ、ソレは大丈夫。少し遠くではあるが、『樹海の神』の管轄下のを1つ譲り受けた」
「ほう、手回しがいいな。どんなダンジョンだ?」
今後しばらくの棲家となるのだ、いいところであることを期待したい。
……元の管轄が樹海の神ってのが気にはなるが。
「現物は見てないがいい所……だそうだぞ?自然豊かで、食べ物も美味しい。
ああ、あと温泉があるそうだ」
……ソレって……秘境だよね?
◇◆◇
まぁ、過ぎたことは仕方ない、どうせ数世紀のことだろう。
そう思いながら件のダンジョンに赴く。
見渡す限りの森・森・森。……ホントに樹海でした。
樹海の開拓はさておき、着任したダンジョンは昔ここに住んでいた部族が鉱石の発掘のために使っていた坑道だそうだ。
ソレをどこぞの神が増築し、積層型のダンジョンにリメイクしたそうだ。
無論、こんな秘境に人が来るわけもなく、守護している部族がいなくなるとともにダンジョンも閉鎖されたそうだ。
信仰失った神魔は存在ができなくなる。下位の神魔はダンジョンなどで存在をアピールしつつ、その運営でエネルギーを得て存在している。
俺やオルをはじめとした上位神魔は自身への信仰を糧として存在している。
そのため、俺はダンジョンに人が来なくても平気ではあるのだが……あるのだが……コレはあんまりだな。
「ダンジョンに関連すれば俺の権能は使用可能なんだよな……なら……」
俺は自身の権能を用いてダンジョン周辺の開拓を開始しはじめることにした。
◇◆◇
「大神、よろしいのですか?」
そう聞いてきたのは秘書として傍らにいる眷属だ。
「よろしい……とはどういうことだい?」
そう俺が自身の眷属に問い返す。
「いえ、今回の件、わざわざイシュ様に管理地を空けてもらわなくとも、神界の一角での謹慎でよろしかったのではないでしょうか?」
そう。今回、樹海の第一級神『イシュ』に頼み、管理地を分けてもらいネクに渡したのだ。
ペナルティーを考えれば今回の件、神界の一角で謹慎程度で済むことだ。
そもそも、ネクの眷属を召喚したのはベルクの庇護国家。
彼らはその眷属を戦争のために召喚し、相手国にぶつけようとしたのだ。
しかし、結果は失敗。彼の眷属は大暴れし、相手の国どころか召喚した自国を蹂躙した。
まさに自業自得。
しかし、相手はベルク。彼は力の第一級神であり、大の戦争狂。
逆恨みの対象がネクに向かうのは想像に安いことであった。
「ベルクは必ず何か行動を起こす。そのとき、ネクが神界いると大きな不具合が起きる……必ずだ」
神族の長を取り仕切る私の神託。間違いなく騒乱は起こる。
そのことに顔をこわばらせ、しかし、再度問われた。
「しかし、ネク様にそこまでする意味を見出せません。たしかに古くから存在する古神ではありますが……」
そう口にする。
……そうだ、皆は知らないのだ。
かつて世界を二つに割るする大戦が起こった。
神族と魔族、二種族間での争いは人界を巻きこみ、世界を砕く寸前にまで追いやった。
以降、世界を再び割らないために、我らは神魔は和平条約を結んだのだ。
オレの眷属もそしてベルクも大戦後に生まれ出でた神だ。
彼らは知らないのだ。あの大戦の悲惨さを。
彼らは知らないのだ。ネクという存在がどういう物なのか。
彼らは知らないのだ。どういう災厄なのか。
彼らは知らないのだ。どれほど慈悲深い、悲しい神なのか。
彼は一見平凡な神だ
強靭な肉体を持つわけでもない
強大な魔法を放つわけでもない
大きな信仰を一身に浴びるわけでもない
普段の言動からは威厳も何も感じない。
しかし、彼の唯一無二の権能の前では、全てが色あせる。
なにせ、彼はその気になれば一柱で世界を壊せる神なのだから。
この10数年後、このダンジョンにてネクは1人の少女と出会うこととなる。