始まりの邂逅 (20150421リメイク)
第一話を差し替えてみました。
……目の前の光景を少女は忘れることが無いだろう。
天井から、まるで巨大なツララの様に、幾重にも重なり、生えている水晶。
石畳で出来た、このの空間に差し込む神秘的な光。
光源はそこしかないはずなのに、この広大な空間を照らしている。
その広い空間に、甲高く響く、剣戟の音。
そして、ソレを一心に見つめる一人の少女がいた。
年頃は十代半ば。赤金色のショートヘアーでまだ幼さが残り、美しいよりも、むしろ可愛らしい。
彼女のたった十年と余年。その人生の中でも類を見ないほどの衝撃だった。
それは、想像することすら出来なかった情景。
実際は数十秒間の事ではあったが、彼女にとっては数時間にも及ぶ光景であった。
彼女の視線の先には二人の男女。
年頃は二十代になった頃だろうか? 黒髪に黒眼、黒いローブと全身を漆黒で統一した男性。
彼は緋色の劫火を身に纏い、苦虫を噛み潰したかのように、顔をしかめつつも、それでも拳を握る。
相対するは二十代半ばだろう。紫の燐光を纏い、顔を歓喜に染めながら、二振りの大型の短剣を振るう美しい女性。
二人から離れた場所に居るにも拘らず、少女の立ち尽くすそこにまで、衝撃が、熱波が到達しようとしていた。
彼女の眼ではもはや捉えることが出来ないほどの高速の軌跡。
そして、理解の範疇を超え、その紫光を迎え撃ち、捌いていく技量。
しかし、眼で追えずとも、理解が及ばずとも、その光景は人間には決して眼にすることが出来ない、神話の中の世界。
……御伽噺ですら、語ることが出来ないであろう、その光景にただただ、眼を奪われてて居た。
「ははははははっ! 流石です! これならどうですか!」
短剣を振るうその声が、周囲の石畳に響き渡る。
彼女は顔を更に歓喜に染め、前傾姿勢をとると、一直線に駆け出す。
後ろで束ねた紫髪を靡かせ、しなやかな肉体を駆使する。
その姿はさしずめ、美しい狼。
通常、人の目では決して追えない紫光の軌跡。
それが帯となり、黒づくめの男性を襲う。
彼の真正面へ繰り出される、剣戟の乱舞。
駆け引きなど一切無い。
ただ圧倒的な手数をもって、男を正面から喰い破ろうとする。
「しゃらくさいっ!!」
男は気合いを入れると共に、両の拳を握り、襲い来る紫光を弾いていく。
その動きは洗練され、短剣の一撃、一撃を受け止めず、その側面へ力を掛けることで、全てを弾き、受け流す。
しかし、簡単にやってのけてはいるようだが、速さでは完全に目の前の女性に上を行かれ、また、弾くとはいうが、あの短剣の一撃は相当重く、それを逸らすだけでもかなりの膂力がひつようだろう。
ソレを補うかのように、纏った劫火がまるで生きているかのように動き、捌ききれない斬撃を柳のように受け流していく。
だが、その剣戟は徐々に速さをましており、彼が捌けなくなるのも時間の問題だろう。
当然、彼はその事に気がついている。
……この状況を打破するための一手。
「あははは! 楽しいですねっ! もっと! もっとやりましょう! ネク様っ!」
「うるさいなッ! 少し落ち着けっ、こっちは本来戦闘系じゃないってのに!」
そう口にしつつ、ネクと呼ばれた男は彼女へ向かい、無数の火焔弾を降らせていく。
女が火焔弾を迎撃する為、意識が逸れた瞬間を狙い、高速移動術で彼女への接近を行う。
正面からの高速の一打。
だが、彼女の反射神経はその僅かな隙すらカバーする。
自分の攻撃範囲内へ、その顎の中へ飛び込む得物。
彼女は余裕をもって反撃に出ようとして……そして、その短剣が空を切る。
「なっ!? フェイントっ!?」
正面から肉薄しようとしていたネクの姿が急に掻き消え、そして、同時に側面からくる威圧感。
「くっ!」
視界の外からの不意の一撃。
超速の反射神経と、持ち前の敏捷性を活かし、無理やりに短剣を滑り込ませると、剣腹で劫火を纏うその拳を防ぐ。
だが、体勢を崩されていたこともあり、その威力を削ぐため、彼女は後方へと飛び衝撃を逃がす。
「まだだっ!」
ネクにとっても此れまでの流れは想定済みである。
彼にとっても良く知る存在である彼女はこの程度難なく防いでくる。
それはある意味信頼だろう。
故に、彼はこのチャンスを活かす為、更に畳み掛ける。
ネクは周囲に特大の火焔弾を複数精製、それを一斉に射出する。
サイズこそ違うものの、先ほど同様、瞬時に産み出された火焔弾は、彼女へと殺到する。
先ほどモノとは違い、此れはしっかり防御するか、回避しないと流石の彼女でもダメージを受けるだろう。
だからこそ、彼女は短剣ではじき、あるいは回避することで、対応していく。
だが、それはネクを押し切れるチャンスを失うことと同じ意味を持つ。
ネクへの攻撃する暇を与えず、しかし、彼にとっては彼女が脚を止めたいまこそ絶好のチャンス。
そして今。この状況を打開する一手が投じられる。
「出て来いっ! 【クリエイト:ヴァーユ】っ!」
ネクのその声と共に、彼の傍らに青い髪の少女が現れる。
まるで踊り子のような姿の少女は、踊るように空を舞うと、周囲の風を靡かせはじめる。
「ちょっ……ちょっと! 本気ですか!? ネク様」
その光景を眼にし、初めて動揺が走る。
だが、次の瞬間、空より振り下ろされる擬似的な天災が彼女を襲う。
「……あの子、確かミアって言ったか? ちゃんと無事……だろうな?」
巻き込むことを前提として放たれた一撃。
先ほどまで、彼らを観戦していた少女……ミアも当然ながら、攻撃の範囲内に入っていた。
地形を変え、周囲に粉塵を撒き散らしながらも、ネクはそんな事を呟くのだった。
◇◆◇
人界・神界・魔界
この三世界が隣り合わせで存在する世界。
その名も『アムサルクティア』
その中でも、“人間”が勢力を誇る人界。
ここでは、多くのな種族が暮らし、お互いを支えながら共栄している。
この人界では、数多くの人間がコミュニティーを築き生活している。
そして、人々は富を求め、名声を求め、夢をかなえるため、ある場所へ集っていく。
その場所こそ、『都市国家』であり、そして『迷宮都市』なのだ。
この物語はある南の、遠く遠く、地の果てのとある迷宮で二人が邂逅したときから始まる。
実際は、二人が出会うまでには長い長い時間がかかるのだが……。
今、身もふたも無く、全てを薙ぎ払った男……ネク。
そして、人知の及ばぬ戦いを傍観していた少女……ミア。
二人がどのような軌跡を歩み、出会い、そして更に歩いていくのか。
これから綴るとしよう。
旧第一話は設定に収録しています。