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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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俺、他の竜の話を聞く

 うちの村は、神山と呼ばれる霊峰の麓にある。


 100軒ほどのとても小さな集落で、周りをそんなに高くない山々に囲まれているが、一番近くの街からは、峠を歩いて5時間ほどかかる。


 その峠は何とか馬車が一台通れるくらいの広さだそうで、途中馬車がすれ違えるように何箇所か道が広くなっていると言うことだ。


 街には宝飾品を扱う大きな専門ギルドというのがあって、ギルドと言うのは個人でやってる商人達が組合を作っている名前みたいなもんだ。

 大きな工房も、小さな工房もギルドに入って登録しておくと、色々と情報交換ができるのでとても便利らしい。


 もうすぐ冬になって峠の道が閉ざされてしまうので、最後のかきいれ時と最近は白竜亭も商人さんの出入りが激しい。  


 いつもの倍の10人前後が宿泊していて、店はてんてこ舞いだ。

 5部屋しかないので相部屋をお願いして対応している。


 そのお客さんの中に、一人、帝都と呼ばれるこの世界で一番大きな街から来ているおじさんが居て、俺を見つけるとニコニコして親しく声をかけてくれた。


「ラギさん、私の部屋に毛布足しておいて下さったんだな、ほんのり暖かい袋が一緒に入っていて抱いて寝たよ、ありがとう、あの中身は何だね?」


 俺は店の裏で、遅くなったお昼を食べようと、昨日の夜中に収穫したマツタケを焚き火で焼こうとしていた……。

 店で焼くと臭いと言って怒られるのだ。


「いえ、」


 俺は座りながら振り向いて、ペコっと会釈した。


 とても品がいいおじさんで、口に立派な八の字の髭を整え、髪は真ん中からきっちり分けている。

 シャツの上は紺色の膝丈までの長い上着でコールテンのような生地なので光沢がある。


 俺は影でこっそり、チャーリーと呼んでいる、特に深い意味は無い……。


 困ったぞ、チャーリーにマツタケの臭いを嗅がすわけにはいかない、何故かみんなこの臭いに怒るので、チャーリーも怒るだろう。


「熱くした石を布でグルグルにしただけですから……」


「ほぅ、そうか、国に帰ったら陛下にお伝えしよう……、あの方は寒がりだから喜ばれる事だろう」


 今、さらっと陛下と言ったか、チャーリーよ。


「チャ、あいや、商人さんは帝都の偉い方だったんですね」


「偉かないよ、ただの宝飾商人だから、王宮にもたまに商品を持っていく事があってね、いつも買ってもらえるワケでは無いので、お喋りしに行くみたいなもんだよ」


「女王陛下はご兄弟が多くて、お誕生日やら、士官学校卒業される記念やらで、よく御利用下さっているんだよ」


「そうなんですか……、それでもすごいです」


 俺には遠い国の話だ、おとぎ話のお城を想像した。

 でも、女王様というところで、違うイメージが頭をよぎった、スマン大人の想像だ気にするな。女王様の想像上の、オーホホホホホという笑い声が脳内を駆け巡る。


「春に予定されている、オウル殿下の竜のお披露目があるから、それに向けて、神山の水晶でサークレットを作るんだよ、緑竜様は額に竜紋があるんでね、どういうデザインにするか迷って毎晩寝られなかったんだが、ラギさんの袋のおかげで昨日はぐっすり眠れたよ」


「───………。」


「……ラギさん?」


「竜って、」


 俺の声は正直、かすれていたと思う。


「いっぱい、居るんですか?」


 田舎者の素朴な疑問にチャーリーは、子供に説明するように教えてくれた。


「さぁ……、この世の神様が創られるって言うからね、でも帝国にいらっしゃるのはその緑竜様を合わせて4体だ、3年前に見つかって騎乗訓練なされてたそうだな、でもとてもお小さい方だそうで、将軍職も兼ねてらっしゃるオウル殿下が、戦闘で役に立つのかと心配していらした」


 そうなんですか、と俺は小さくつぶやいた。


「竜って見つけたら、どうしたらいいんですか?」


「そうだなぁ、まず、ここだったら、レオフレイド大公国だから隣町で駐留している帝国の軍人さんに相談するしか無いかな」


 でもまぁ、まず居ないって、と言いながらチャーリーは笑った。

 居ますがな、ここに。


 マツタケどころでは無くなっていた……。

 お披露目って何だ?、竜紋?、戦闘?、ジジババもマールさんも何も教えてくれなかった。


「お、俺、米洗わなくっちゃ……」


 この世界に米は無いというか、今のところお目にかかってない。


「す、すいません、お話ありがとうございました、米洗ってきますんで……」


「ラギさん?」


 じゃぁ、と言って俺は足早に店の中に戻った。

 胸がドキドキする、俺って、ここにいちゃいけないのか?


 マールさんに色々と聞きたかったけれど、他のお客さんの相手をしていて忙しそうで、そのまま夕飯時になって、もっと忙しくなって、余計なこと喋る暇が無いまま、トボトボと家に帰ったのだった。


 家に帰ったら、ばあさんがシチューの鍋を掻き回していた。

 俺はだだもれになって、暖炉の前にぺちゃんと座り込んだ、何も考えたくない、疲れた。


 あら、まぁまぁ、とばあさんが俺の髪の毛を器用に編んでいく、速えぇ、スルスルスルって感じだ。

「ばぁちゃん、慣れてるなぁ」


 俺はちょっと笑いながら言った。


「わし、ずーっと前に王宮にいたんよ……。竜さま方のお世話係じゃったの」


 ばあさんが初めて、俺に竜の話をしてくれた。

 何か感じ取ったのかな、しょぼくれてるの、分かったのかな。


「大きな、(いくさ)があってなぁ……、戦闘に駆り出される雄竜さんは、いつもひどい怪我をされていて、雌竜さんはそれを見て、水晶みたいな涙をポロポロ流されておったい……」


「ばぁちゃんも、竜さま方と抱き合って泣いたよぅ……、喋れないから、声を出さずに泣かれるの」


「竜さん達は、どんなひどい怪我をしても、王族に逆らわない呪いをかけられておったから、きれいな鱗を血で真っ赤にして戦っておられたのぅ……」


 俺も泣きそうだ。


 ばあさんは、そんな俺を見て、最初に出会ったときにしたように、頭をきゅっと抱きしめて、


 昔々の話でもう怖いことは無いようと、背中を撫でてくれたのだった……。










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