俺、やっと服を着る
俺はガリムさんに、やたらと長くて面倒な髪の毛を自分の腹と俺の背中にはさんでもらった。
「兄ちゃん、いい肩と腕してんなぁ」
ガリムさんが俺の右の肩をペンペンと叩く。
人間の姿になったのだが、竜の時のように体に羽が生えたようで、非常に体が軽い。俺はぴょんぴょんと、木の根や岩の上を走ったり飛んだりしながら移動していた。
「背も高いし、がっちりしとる、顔も男前だし、帝都の軍人さんみてぇだ」
おや?、王都と帝都は違うんだろうか。複数の国家があると言う事かな。
あんまり、トンチンカンな質問して怪しまれても何なので、というか、すでに得体の知れないこの身、これ以上内外共に要注意人物になるのは避けたいところだ。
「ガリムさんは、帝都に行った事あるんですか?」
「若い頃は住んでたよぉ、華やかだったなぁ、帝都の軍人さんは、器量よしで強い人ばっかりだったから、女も男も、ちびっ子も爺さん婆さんまで大ファンでな」
大ファンときたか、ガリムさんはククッと思い出し笑いをしている。
「兄ちゃんは、どこから来たんだぃ?」
とうとうその質問きたか、それもちゃんと考えてあるよ、適当だけれどな!
「俺、天涯孤独なんで、あっちこっちウロウロ旅してます、金無くなったら適当に仕事して稼いで……」
嘘はついてない天涯孤独だ、ここじゃ一人ぼっちだ。旅だってこれからしようと思ってる、一ヶ所には居ない方が多分いいだろう……。
あんまりあからさまな嘘ついても、俺は器用じゃないから話している最中におかしいと気がつかれる。
「へぇ、それは寂しいこったな」
俺はちょっと苦笑してみせた。
「お、村外れの小屋が見えてきてた、あんた、そのかっこうで村の中行くと、大騒ぎになるから小屋で待っててくれるか?狩猟小屋なんだけんど、中に毛布やら保存用の食料やらあるから使ってくれ」
俺が不安そうな顔をするとガリムさんは続けて言った。
「ゆっくり歩けば村まで行けそうだし、助けを呼んでくるわ、ワシの恩人だぁ悪いようにしねぇから」
そう言ってさっさとガリムさんは行ってしまった。俺はとりあえず小さな木造の小屋の中に入ってみる、入り口入って奥に暖炉が見えて、煮炊きできるようにか大きな鍋がかけてある、その右と左にごちゃごちゃと狩りに使う罠みたいなのとか、ロープ、薪、毛布が置いてあって、箱があったのでそっと開けてみると、固そうなパン?のような物とベーコンみたいな肉のカタマリがあったけど、食欲がなくて、また箱を閉じた。
ここまで来るのに、2時間ほど走ったかなぁ、暖炉のそばに何の生き物か分からん毛皮の敷物が敷いてあったので、拝借した毛布を肩からかぶり、そこに座った。
生活水準はそんなに低く無いみたいだ、中世のヨーロッパ位か、窓にガラスがはまっているので、ガラス工芸技術もあるようだし、そうなると俺というファンタジーな存在は、この世界でどう位置づけされているのだろう。
本当はな、まだちょっと心の片隅に、ここ日本じゃないかって思ってたりしていたんだ。
俺は腕の中に顔を埋めた。
「こんな話、誰も信じねぇだろうなぁ……」
親、姉妹、会社の上司に同僚、小学校からの友人達たくさんの人たちがまぶたの中で浮かんでは消えた。
彼女とかはいなかったけど、いいなぁと思う人はいた、きれいでかわいくて気が利いて話もしやすくて、俺を含めた男共が牽制しあって、うまく近づけやしなかったけれども……。
だいたい、こんな体、俺じゃねぇし。ガリムさんも言っていたが、ガッチリした体型でこれは世に言うガチムチ系?
服着てしまえばそんなに気にならないのか、体も何だか白っぽい。元の俺はどうなのかは聞いてくれるな、悲しくなる、ガキの頃ちょっと体が弱かったもんで、空気のいいところに一家総出で引っ越したくらいで、まぁひょろひょろだった。
ヘロヘロすんな!肉を食え!と言う姉ちゃんの怒鳴り声が今となっては懐かしい……。
何か色々想いながら、ウトウトしていたらしい。ドンっという扉を開ける音ではっと顔を上げた。
「あらあら、まぁまぁ」
座ったまま見上げると、そこにはかっぷくのいいおばさんが大きな籠にこれまた大きな風呂敷包みを入れて立っていた。
「おぉ、これは何という僥倖じゃー、ばぁさん、ばぁさんしっかりせい!」
「じぃさんわしゃ生きててよかった……」
上を見ていて気がつかなかったのだが、座った俺の目の前に小柄な老人が2人佇んでいた。小柄と言うか……、小さくてかわいいお年寄りがウルウルと目を潤ませながら俺を見ている……。
ばぁさんが、俺の頭を愛おしそうに両腕で抱きしめた。すまん、俺は色々とびっくりで固まって動けない。
「何と、きれいな竜の仔じゃ、じいさん、この仔は黒竜さんじゃぁ、かわいらしいの……」
えっ……、俺はフゥっと一瞬気が遠くなった、脳内パニック中。
謎の老人とかっぷくのいいおばさんが、俺を包囲する。
「髪と瞳が黒じゃからな、黒竜さんじゃ、」
じいさんがニコニコと俺の髪を撫でた、じいさんばあさん、俺触り放題だ。
「はいはい、どいとくれ、ほらビックリしてるじゃないか、服持って来たよ、自分で着れるのかい?」
おばさんは、風呂敷を床に置いて、そこから服やベルト、靴まで並べてくれた。
「寸法が分からんもんで、適当に持ってきたけど、とりあえずそれで我慢しとくれよ」
おばさんはニカッと微笑んで、俺を覗き込んだ。
ばぁさんが俺抱きしめたまま、おいおい泣き出した、落ち着け俺、落ち着けばあさん。
「ガリムの話から、あたし達はもしかしてって思ったけど、予想通りだったね、よかったよ」
何がよかったんですか、俺、バレてるんですかこの状況、てか、何で?何で分かるんだ? ばあさんが俺を離してくれて、前掛けで鼻をかみはじめた。
「この人、静かだねぇ、喋れないんだっけ」
「竜は喋れないよ、親しい人と仲間にだけ心の中で語ってくださるのさ」
「……──喋れますが……」
黙ってるのも何なので、とりあえず声を出してみた、その瞬間に、じいさんとばあさんが腰を抜かして、小一時間ほど動けなくなったのだが、その動けなくなってる間に俺は着替え、ホカホカのパンを貰い、とある力の使い方を初めて聞いて、ズルズル髪から開放されたのだった……。
俺、いきなりバレてます。ジジババの眼力すごす((´∀`*))
いや、ちゃんと理由はあるけどまた今度(笑)