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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第二章  竜園
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幕間 契約式

『覚えてる? 覚えてるわよねモチロン。何時間練習した? あぁ?! 』


『ま、任せておけぃ。俺様は決める時にはバシッと決める男だからな!!』


そういうオウルの額には、タラリと一筋汗が流れた。


蒼天の下、大きな舞台の中央で硬直している男女の姿があった。

王族、諸侯、帝国内の全ての貴賓を集めたその契約式は今、正に正念場を迎えようとしていた。





壇上の中央の奥には、女帝が王錫(おうしゃく)を片手に王座に鎮座し、静かに見守っていたが、何となく目が笑っている。

その両側に、昨夜、舞踏会が始まるギリギリに帰って来たユリアン殿下とプリシラ姫。

壇上のすぐ下の左右には、竜体になったアルファーとリオンが、お互いの契約者と共にピクリとも動かず見守っていた。


特例として一代限りの爵位を持つ赤竜リンシェルンも竜の姿でリオンの隣に佇んでいる。


(オウル大丈夫か?!)


王族と竜はあまりもの沈黙の長さに、思わず駆け寄って契約文を教えてやりたい気分になっていたが、グッと堪えた。

この神聖な雰囲気の中に流れる、珍妙な空気に耐え切れず。

女帝の王錫が笑いを堪えてプルプル震えだしたのを、アンジェラ姫は目だけで確認して手をぐっと握り締め、視線を少しずらした。


ハラハラしてもう色々と耐えられん・・・。

アルファーが大きな体を少し動かした、慌ててシャイナ姫がアルファーの鼻を動いてはだめよとそっと指で触れた。

リオンの右前足も知らず知らずの内に、少し上がっている。




『昨日のアレの衝撃が大き過ぎたか・・・・クッ!!』


『最初だけ教えてくれぃ・・・・』


オウルから何とも情けない念話が飛んできて、シオーネは、小さくはぁと息を吐いた。


『仕方ないなぁ・・・。我、感謝する。ハイどうぞ』





オウルの声が、たくさんの帝国旗が(ひるがえ)る広大な庭園に木霊する。


「我、感謝する! 我の望みに応えし竜が現れん事を!!」


会場全体から、緊張が解かれたように、ほぅ・・・と小さなため息が幾つも聞こえた。


『汝、我とこの世に何を求める』


シオーネが昨日習得したばかりの広域念話を展開して、周りは少しざわめいた。

怪我で負傷していた、リオンまで飛べるようになった。

それは二日前に突然現れたと言う、黒い竜と関係あるのだろうか? 夜中だったので一部の者しか観る事は出来なかったようだが、諸侯が何人か竜門へ駆けつけたと聞く。公にはされていないが、子竜が竜園に居るとも伝え聞く。

その黒竜の姿は、竜体も人型も堪え様もなく神秘的で美しく、観る者全てを虜にしたとか・・・。

何人かの諸侯はこの契約式でその二体もお披露目されるのでは無いかと憶測していたが、どこを見てもその姿は無く、明らかに落胆して肩を落とした。




「我の望みはただ一つ!! ・・・・・・っ・・・・・」


んっ? とまた王族と竜が二人に注目した。

忘れたのか? 本当に忘れてしまったのか? あんなに練習していたのに。

契約式が始まる直前までオウルは口の中でブツブツ言っていたのに。


シオーネの額にはこの契約式のために(あつら)えた水晶のサークレットが煌めいていた。

オウルに恥をかかせないために、素敵なドレスも準備した。きれいに髪も結ってもらってクリーム色の小さいバラを一杯散らせて貰った。お小遣いを貯めて可憐な扇も揃えた。

明るい緑色のドレスにあわせて、淡いグリーンのエナメルの靴は、海の街の皆がお祝いに贈ってくれた真珠が飾りでついている。


オウルがんばれ、昨夜は皆がびっくりするほど素敵に振舞っていたではないか。

無理だ踊れねぇと言っていたのに、余裕綽々(しゃくしゃく)で美しいご令嬢一人ひとりと、嬉しそうに踊っていた・・・。

その様子をシオーネは、アルファーと共に見守っていたが。

知らない間に変な顔をしてしまったシオーネに、アルファーはそっとシオーネの手を握った。




本当に、いつも格好ばかり付けているのに、いざという時は私が助けてあげないといけないんだから!

固まったままでいる彼に、シオーネはパッと両手を差し出した。


オウルは一瞬戸惑った様子を見せたが、シオーネを高く抱き上げて宣言した。


「我の願いはただ一つ!! お前が俺様の傍にずっと居る事だ!! 小難しい事なんか望まねぇよ!! 」


途端にシオーネの瞳からブワッと涙があふれ、オウルの首にしがみ付いた。


『本当にアホだぁ・・あたしでいいの?本当に?!』


「当たり前だ、お前だからいいんじゃないかよ」                                                                      『・・・・えぐっ・・・その願い、我の命尽きるまで。・・・仕方ないから一緒に居たげるぅぅっ!!』


そんな彼らの様子を見守っていた女帝ヘレナは、にこやかに微笑みながら、軽く一つ頷いた。





リンシェルンが爪でチョンチョンとリオンを突っついて、一対一の念話をした。

『ねえねえ、あれで合ってるの?本当は何て言うのだったの? ラギの家がモノ凄過ぎて昨夜はこっち来れなかったんだよねワタシ』


『・・・・・・世界の恒久(こうきゅう)平和、云々だよ・・・・』


『はぁ、そりゃご大層な望みで・・・と言うか誰がそんなセリフ考えたんだい・・・』


『おっと、僕たちの出番だよ』


最初にムクリと光竜が立ち上がり、続いて青竜、赤竜と後ろ足に重心をおいて立ち上がった。


三対の竜は念話を合わせて宣言した。


『我等の立会いの(もと)に契約は完了した!  契約名は契約者のみの所有とする。相違無いか? 』


「ねぇよ」


『女神の名において、契約式を終える』


三体の竜は逢ったことも無い女神に向かって深々と頭を下げた。

この契約者と契約竜が、幸せに生きて行くようにと・・・。






「や・・・やっと終わった・・・」


控え室に入り、シオーネとオウルが精根尽きた様に、長椅子にもたれかかった。


『オウルー、もう海に帰ろうよ、疲れたよー。ラギにも会えたしもう帝都いいよ。精神的に疲れたよー』


「・・・・そうだな、だが竜持ちは一年の半分はコッチに居なくちゃならん。面倒だが仕方ない」


「お疲れ様だったわね二人とも。竜達がお祝いの花を街に撒きに行く準備をしているわよ」


女帝ヘレナが親衛隊を伴って、控え室に入ってきた。


「これはこれは、姉上。このような所に足を運んで頂き・・・」


オウルが片膝を付いて、臣下の礼を取り、慌ててシオーネも立ち上がりドレスの裾を両手で少し持ち上げ一礼した。


ヘレナはオウルの肩をそっと叩き、立ち上がるように促した。


「オウル、貴方に諸侯から何組か縁談が来ているのだけれど。どうしたらいいかしら・・・? 昨夜の夜会で貴方に一目ぼれしてしまったお嬢様達がお父様やお爺様に泣きついたみたいね」


「嫁は・・・いらね」


その言葉にシオーネは大きく瞳を見開いた。


『なっ・・・・・・? 』


オウルはヘレナやシオーネにはっきりと聞こえるように言った。


「嫁は、いらねぇ。跡継ぎならレオンハルトが居るだろう、男の王族は俺以外にも居る。俺はもうそういうのをこの先、勘弁してほしい」


「分かったわ、幸せは人それぞれ。お好きになさい・・・」


「スマン・・・」


「さぁ、貴方たちも空を飛んで。今日は皆、貴方たちを祝ってくれているのだから、姿を見せていらっしゃい」



◇         ◇



『えー、私に乗るのって何でユリアンなの』


「僕じゃダメなのかい・・・リンシェルンのイケずぅ」


赤竜(リンちゃん)の竜騎兵募集中!、今日は誰でも乗せてあげる。あ、でも男前で!!』


とたんに、リンちゃんコールが近衛兵と憲兵達から上がって。何と言う幸運、俺男前です!!私をお供にと沢山の声がした。


「それって誰でもじゃあ無いじゃないか・・・リンシェルーン・・・」


乗せる乗せないで揉めている赤い竜とユリアンを横目で見ながら、アルファーとリオンはお互いの契約者を騎乗させて飛び上がった。


花びらの一杯入った大きな花かごを搭乗者は抱えている。

今日はこれを何回も往復して撒くのだ。


「姉上!!今年のテリッセの花は不思議な事に、どこの地域のも桃色なんだそうですよ!!」


ジュリアンが並んで旋回しているアルファーに乗っているシャイナに聞こえるように大声で声をかけた。


「そうなの?、いいじゃない!。私はこの方が好きよ、可憐で可愛いわ!!」


「ははっ、そうですね僕もこの色の方が好きです!!」


『二人とも、そろそろいいぞ・・・』


アルファーの念話がして、二人は眼下に向けて花びらを撒いた。


後方から少し遅れて上がって来た、赤い竜と緑の竜が光る竜を先頭に旋回を開始する。







花びらは風で天空へ一度舞い上がったと思うと街の中心に吸い込まれて行き、広場からワァと歓声が起こった。


おめでとう!! おめでとう!! と、空高く響き渡りながら・・・。






『ねぇ、さっき聞きそびれたんだけど、ラギの家って? 』リオン

『そんなの・・・一言じゃ説明できないよ・・・フッ・・・』リンシェルン

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