皇子様と俺(前編)
この回には皇子登場できず・・・。
『憲兵から護衛を付けよう。ラギ、目的地までの場所は分かっているんだね?』
ガリムさんから簡単な家までの地図と、今家を管理してもらっている人物を教えて貰っているが・・・。
俺は一瞬喋りそうになったが、王竜だと言ってないという事だったので、念話で伝えた。
『護衛はいらないと思うんだが・・・。制服で目立つ人たちを連れて行く事はしたくない』
憲兵の制服ははっきり言ってよく目立つ。濃い緑の軍服にベレー帽。その横には何の羽か分からないが、白い大きな羽が刺さっていた。
『ふぅん・・・。アストラ隊長とリックスここに残って。後は皇子殿下を探して』
「はっ!」
スキンヘッドに少し釣りぎみの目をした壮年の男性と、開いてるのか閉じているのか分からない目をした、痩身の男性二人が残った。
「黒竜殿、道案内ならお任せあれ。街の治安はわれ等の仕事。帝都のどのような場所でも安全にご案内致しましょう」
憲兵はどうやら、帝国では警察の役目をしているようだ。
しかし、やっぱり目立つだろう。どうやって断ろうか・・・。
そう思案していたら、リンシェルンが助け舟を出してくれた。
『いらないよ、私とラギの足に付いて来れるの? ラギの逃げ足は竜、一番だよ。リオンちょうどいいから今言っとくけど、ラギの街での護衛は私がする。悪目立ちさせたく無いんだよね。ラギもそれでいいね、バーミリオン達がアジトで待ってるはずだから、そこにも寄りたいし』
逃げ足一番て・・・何だか複雑な気持ちだ。
その言葉を聞いて、明らかにアストラ隊長とリックスはがっかりした表情になった。
『気持ちだけ、受け取っておきます。俺、暫く帝都に留まる予定なんで・・・。何かあれば助けてください』
何かある状況にはなってほしく無いがな!
俺の方をまたしてもポカンとして見ていた二人は、いきなり俺に跪いた。
ちょっと・・・止めてくれ。
『俺、この国じゃ何の役職も付いてないし。隊長さんに跪いてもらう事何て無いですよ。立って下さい・・・。後、俺の事はただのラギでいいです』
「竜は、帝国の宝。この国の兵士達、いや男子達の憧れの対象なのです。そういうワシも竜に逢いたくて憲兵になったようなもの。元はただの金物屋の倅でしてな・・・。あぁ、申し訳無い嬉しくていらぬ事を」
リイラがツンツンと俺の髪を引っ張った。
『おとう、かなものやって何? 』
『ん、お鍋とかヤカンとかな、食器とか暮らすのに必要な物を売っているお店だ。いかん、そういう物も揃えないと・・・』
何やら所帯じみたやりとりを聞いていたアストラ隊長の目がキラリと光った。
「ならば是非、ドストラ商会をお尋ねください。ワシの弟がやっておるのですが名前を伝えてもらうと融通を利かせるようにしておきますゆえ」
『・・・はぁ、ありがとうございます』
弟の名前がドストラさんと言うのだろうか。忘れないようにしておかねば。
俺とリイラは一階に下りて、竜園を出る準備をした。
カバンの中をもう一度確認し、ガリムさんから預かった手紙等の書類、銀貨の入った袋。着替え・・・あれ、着替えが増えてないか?気のせいか?。ばあさんが縫ってくれた服を持てるだけ持ってきたので、何が何枚とか確かでは無いのだが。まぁいいか、無くなっているワケでも無いし。
リイラが世話係の女性達に囲まれて、代わる代わる抱っこされていた。
リイラは面白がって、まだ抱っこしてもらっていない女性に向かって、両手を差し出している。
「リイラ様、どうぞまた遊びに来てくださいまし。おいしいお菓子と楽しい絵本をたくさん、たくさん用意して待っておりますから。ラギ様と一緒に・・・」
一晩滞在しただけだったが、すっかり女性たちの心を掴んでしまったようだリイラのカバンを覗いてみると、ムギが入るスペースを空けて、お菓子や可愛らしい子供服がキュウキュウに詰め込まれていた。
あー、俺のカバンも、何か衣類が詰め込まれたのかも知れない・・・。
「ラギ様・・・」
フィーナさんが、何か手に持って俺の傍にやってきた。
「差し出がましいと思いましたが。ラギ様とリイラ様のお着替えを準備させて頂きました・・・。これからの季節の衣類が一枚もありませんでしたので。勝手に持ち物を調べました事をお詫び申し上げます・・・それと」
俺の手の上に、ずっしりとした小さな袋が乗せられた。少し握ってみるとその中身が予想できた。金だ、銀貨か金貨かは分からないが、これは貰う事はできない。
俺は中身を確かめずに、フィーナさんに押し返した。
『・・・俺は金が欲しくて、ここに来たんじゃない。何処から出た、誰の金か分からないけど、貰う理由が無い』
「このお金は、この帝国に住まう竜に用意された物。陛下や王族方がラギ様やリイラ様にと予算を組まれて正式に用立てられた物です・・・」
『ラギ、みんな君に関わりたくて仕方ないんだよ。もちろん、受け取らなくてもいいよ。でもフィーナの立場ってものがあってね、許してやって。それ、ジュリアンが準備したんだよ、突っ返したら心配するから僕が預かっておく。ラギが受け取った事にしておくから、フィーナ、口を合わせてね』
フィーナは一つため息を付くと、リオンに金の入った子袋を渡した。
「申し訳ありません、お願い致します」
『あの、俺の着替えやリイラの服。ありがとうございます。俺、本当にお返しできる物が何も無くて。まぁカバン探られたんじゃ何も持って無いのバレてると思いますけど・・・』
何か調べられたのだろうか。気を失ったのは本当にまずかった。
字の練習や文字の覚書で、こっちの言葉と日本語で書いた辞書的な帳面やら。
見せたくない物も多少はあるのだが・・・。
俺はチラとリオンの方を窺い見た。
リオンの目がすっと細められ、薄い唇の端が少し上がったような気がした。
『・・・気が付いたんだね。ラギには隠し事はしないよ、フェアじゃないもの』
リオンが一対一の念話をしてきた。
『ごめん、カバンを調べさせてもらった。確かにこの世界で主に使われている文字は知らないみたいだったけど、どこかの言葉は知ってるみたいだよね。それと難解な数式。お金の計算じゃないかとは思ったけど、かなりの高度な知識が居る・・・。一体君は何なの?』
この感じ・・・以前ユリアンから感じた物と似ている、逆か、ユリアンがリオンに似ているのか。
『知ってどうする? 捕まえて、鎖にでも繋ぐ? 』
『そんな事しないさ、僕はね、そのラギの心の色に賭けるよ。アルとシオーネに使ってくれたやさしさに。君は僕にも気を失っていても、やさしくしてくれた。その雰囲気、その知識、その力も神秘的で不思議で堪らない。・・・今はいい、いつか、話してくれる? この事は、僕の秘密にしておくから』
『いつか・・・』
話して、理解してもらえるのだろうか?
異世界から転生したと。
『ラギ、ラギ・・・。心が警戒色から寂しい色になった。どうしよう、えいっ抱きしめちゃえ!!』
リオンがガバっと抱き付いてきて、俺はびっくりして一歩下がったが。
テーブルの猫足の部分に引っかかってしまい、上向きに転倒してしまった。
「グフッ・・・」
しまった!! 変な声が出てしまった、まだこの場所には憲兵がいるのに・・・。
思わず指で、口元を押さえたがもう遅い、アストラ隊長とリックスの目が、今のは聞き間違えでは無かったかと言うように、こちらを凝視していた。
『あー!!、リオンずるいぞ、何ドサクサに紛れてラギを襲っているのさ!!私も入れろ!!』
『あっ、リンシェルンまで!!、私もラギの匂い嗅がせてーーーーっ!!』
『リイラも、おとう、おそうー!! 』
リンシェルンとシオーネ、リイラまで俺に乗りかかってきた。何だこの状況は!!
匂い嗅がせてとは何だそりゃ!!!
何で集中して、腰を襲う、お前ら!!!
声を抑えるのが大変じゃないか・・・!
『いい匂い・・・、落ち着くー』
『ずっとこうして居たいよね、朝は至福の時だったわー。ラギ、たまに遊びに行っていい? 』
『おとうにクンクンしていいのはリイラだけだもん!!』
お前ら・・・・。
そろそろいい加減にしないと俺も怒るぞ・・・。
あれ?リオンの様子がおかしい、何で苦しそうな顔をしている。
また一対一で念話が来た。
『ごめん、ごめん・・・怒らせてしまった。何だろう結構精神的ダメージ大きいな、胸が痛い・・・ラギ相手だからかな・・・』
リオンが俺から離れて、横に転がり胸を押さえて蹲った。
おい、ちょっとヤバイんじゃないのか?
「そっ、そろそろお前ら、どいてくれっ・・・、リオン、俺は怒ってない。ちょっとイラついただけだ。・・・さっ寂しくも無いっ、落ち着け! 」
リオンが急に息が荒くなり、震えだした。
俺は慌ててリオンを抱きしめて、額から竜力を送った。これで何とかなればいいのだが。リオンは・・・人の感情などに敏感に反応しやすいのかも知れない。
だから、人の感情を常にコントロールして、プラスにしようと努力するのだろう。人の心が見えると言うのは、ある意味、自己防衛の力の一つなのではないだろうか。
俺はいつの間にか、普通に喋っていた事に気が付かなかった。
『・・・何の騒ぎだこれは・・・』
アルファーがいつの間にか外から戻ってきたようだ。
この様子を見て、眉間に皺を寄せている。
アルファーがこちらに近づいてリオンを覗き込んだ。
『久し振りに出たな・・・、大丈夫だ。以前はもっと酷かったのだ。自分は鈍感なので分からなかったのだが、王族の跡目争いが激しい時、まだ幼い第三皇妃の子供たちを、これは自分の力を使って守りきった。残念ながらオウルまでは手が届かなかったのだが・・・』
『いいよ、そのお陰でアイツやたらと打たれ強いから。アホだけど』
『もう、大丈夫だよ。ラギ、そろそろ行きなよ。足止めしてごめんね・・・。リンシェルン、われ等が王を頼んだよ・・・』
俺はリオンを寝椅子に運んで横たえ、軽く頷き、リイラの手を掴み外へ出ようとした。
『ラギ、シャイナ殿下とオウル殿下がお前に逢いたがっている。この二人はもう契約竜が居るので拘束力は無い。アンジェラ姫の事で話があるらしいのだが、どうする? 自分は逢わせたくない、逢わないだろうと言っておいたが・・・。余りにもしつこいので、一応聞いておくと言っておいた』
竜園に来たのは、他の竜に逢うためだ。リイラをアルファーに逢わせたかったからだ。王族には関わりたくない、はっきり言おう。大きな力に巻き込まれたくない。どこかの街で、時に旅をして普通に働きながら、生きて行きたい。
「王族に会うのはとても名誉な事だと思うが、遠慮させてもらう。それから、俺のカバンの中見たんだったら、何処に行くかもバレてると思うが。知らせないでくれ、俺に関わる人たちに迷惑がかかる。・・・悪いな、アルファー」
アルファーの表情が明らかにホッとしたように見えた。
王族と俺達の間で知らない間に苦労を掛けたのかも知れない・・・。
『いや、それでいい。嘘をつかなくて済む、そのまま伝えられるから。・・・だが、ラギ・・・たまにお前たちに逢いに行っていいか?、リオンもシオーネも遊びに行っていいだろうか。目立たないようにするから・・・』
当たり前だ、竜とかで来られたらご近所にどう説明すりゃいいんだ。
笑って誤魔化すにも限界がある。
俺はまだ見ぬ我が家の前で、竜が首を揃えているのを想像してしいまい。
少し気が遠くなった・・・。
金なんかいくらあっても困りゃしないのに・・・ (リン子るん)
うるさいわ! 何か身売りした気分になったんだよ! (ラギ山ラギ太郎)
続く!!




