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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第二章  竜園
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竜園と俺

『リオン、王宮の方は大丈夫なのか? シオーネはどうしたの』


『シオーネは竜門に待機してもらっている。王族、諸侯、一人も入らせない任せてって言っていた。それとジュリアンから憲兵を借りたよ、契約前の竜に接触する事は違法だからね。もしもの事があったら即、拘束してもらえるようにしておいた』


帝城から、庭を挟んで建っているその離宮に、俺達は入った。

居心地の良い居間に通され、リイラは早速世話係の女性たちからチヤホヤされて、食事の世話をされていた。

その隣で、アルファーが腕に食べ物が付かないように袖をめくってやってる。


モグモグ・・『アルファーさん、ありがとー。えーおとうさん? あたしのお父さんはラギって言うんだよ。え? アルファーさんもお父さん? ・・・・』


念話できるので、食べながらでも通じ合える。

リイラはもくもく食べながら、部屋の入り口で立っている俺に目を合わせた。


アルファーは広域範囲の念話が出来ないのか・・・。

何を言っているのか気になるな、会話に入っていけないのが何とも難点だ。

最近になってだがリイラも出来るようになったのに、一体どういう事だろうか。

俺何かリイラとリンシェルンに特別な事をしたかな。


『ラギ、とりあえずどこかに座りなよ、落ち着かない。ほら荷物降ろして、ここは私達の巣なんだから、もっと力抜いていいんだよ。ここはね、ラギが思い描いているような場所じゃないよ』


リンシェルンが俺の腕を引っ張って、長椅子に座らせた。

俺が座った隣に、リオンと呼ばれた男が座った。足が辛そうだ、事故にあったと聞いたがどうしたんだろう。リオンはそっと自分の右足を撫でた。


『僕の呼び名は、青竜のリオン。リオンって呼んでね。初めましてだねラギ、ユリアンとプリシラがお世話になったみたいだね、あの二人は王族だけれども、僕が育てたんだ、だから家族みたいにしている。気安くて慣れ慣れしくしたかも知れないから、気を悪くしなかったかい? 』


「いや、俺も色々と教えてもらったから、いいんだ・・・」


俺は知らず知らずの内に、リオンの足をジロジロ見てしまったようだ。


『あぁ、これかい。僕ね、人が大好きなんだよ。弱くても、愚かでも、醜くてもね・・・。今、この時でも住む所も無くお腹を空かせて、戦争で国を追われて彷徨っている人たちがいてね。僕、何か出来る事が無いかと思って見に行ったんだけど、その人たちの中に僕らの事が嫌いな人たちが居たみたいで、ちょっとトラブっちゃった。・・・いや、僕も馬鹿だったんだ、竜体で行ったから。・・・・ラギ、そんなに心配な顔しないで』


リオンが人懐っこい笑顔を俺に見せたけど、やはり足が痛いのか、少し口元がヒクっとなった。


「竜力で、楽になるか? 俺、傷を治癒させるとかはやった事無いが、少し元気にする事なら出来ると思う・・・」


『ラギ、その気持ちは嬉しいけれど。君もお腹空いているでしょう、僕ね、気持ちの色が見えるんだよ。今竜力なんか使ったら、倒れちゃうんじゃないかな、凄い警戒しているのも分かるけど、お願い、何か食べて欲しいな。・・・世話係の人が、リンシェルンから君達が今晩来るって聞いて、腕を奮ってご馳走作っていたんだよ。彼女たちは庶民から選ばれてここに仕えている、ラギとリイラ専属の人たちも今日決まったみたいだよ』


俺はそう言われて、チラっと近くにいる二人の女性を見た。

竜体から人型になって、彼女達が俺の傍から離れなくなった。リイラは子供でまだまだ世話が焼けるからか、五人ほど付いている。


これはちょっと甘やかせ過ぎでは無いだろうか、過保護ってやつだ。

これでは、自分の事が何も出来なくなってしまう。


「リオンには、隠し事出来ないってことか。便利な力だな・・・、俺には世話係はいらないよ、ここには住まない。・・・・俺、それ言いに来たんだ」


俺は立ち上がって、アルファーの近くに行った。

一つ、試してみたい事がある。竜力使って腹が空いて倒れるのなら、その前に・・・。


「アルファー、ちょっと顔、貸してくんないかな」


必死でご飯を食べているリイラ以外が、息を飲んだ。


『な・・・に? 』


さすがにアルファーも戸惑っているようだ。顔が険しくなった、眉間に深い皺が刻まれる。


俺はグイっとアルファーに顔を近づけた。睨み付けるようにアルファーも顔を近づける。


『どうしたの? 怖いよ二人とも、ラギまで目を吊り上げて。どうしたんだい! 』


リオンの焦るような念話が飛んできたが、俺は真剣だ。

更に顔を近づけようとした時に、アルファーがガシっと俺の手を組んできた。

まるで力比べをするように、お互い手に力を入れて突っ張り合う。


「アルファー ! ! 違うって ! 何もあんたと争うとか言うんじゃない! 」


『だったら、何だと言うのだ ! 突然、顔を貸せとは穏やかでは無いぞ! 』


床がミシっと変な音がした。

リンシェルンがハッとして一歩下がった。

『みんな ! 下がって ! リイラ! こっちおいで・・・』


俺と、アルファーの足元が、俺たちを中心に力を入れすぎたのか竜力故か、円形にバシっと少し沈んだ。部屋のあらゆる物がカタカタと、小さな地震が起きたように動く。お互いの足元に何だか分からない煙まで立ち上る。


「アルファー ! 違うんだって、俺だってな ! 男の額に自分の額引っ付けたいとか普通は思わない ! 」


『・・・は? 』『な・・・何なの? アルファーと何の話しているの? リンシェルン止めて! 』『いや、だめだ、アルファーとラギの間になんか割り込んだら私多分死ぬ! ! 』


『おとう ! やだよ、アルお父様とケンカしちゃだめだよ ! 仲良しになって』

リイラが両手にスプーンとフォークを持ったまま、声を出さずに大きな口を開けて、ヒューヒューと息をしながら泣き始めた。

それを見たアルファーが一瞬怯んだ隙に、俺はアルファーの頭を両手で挟み、自分の額に合わせた。


『ラギ? 』 アルファーの消え入りそうな小さな念話が来た。


正直、ここまで大事(おおごと)になる必要はまったく無かったんだな。

俺が、説明不足だったんだ。・・・でもな、恥ずかしいじゃないか。


(アルファーの想いが、皆に聞こえますように。寂しい思いをしませんように・・・)

俺は、何度も何度も力を込めて願った。


いつの間にか、周りは静かになって、アルファーは俺に頭を支えられて脱力しており。俺は変な格好で踏ん張っていたので、両足がプルプル震えていた。


リイラのヒックヒックという声がする。


『リンちゃん・・・おとうさん達・・・仲直りの、ちゅう、するの? 』


『あ? ・・・・ちゅう? 』


『こうやって、こうやって、ギルとミリーのお父さんとね、お母さんがね・・・、仲直りするのよ?』

リイラがむちゅっと唇を突き出し、ぎゅっと両腕で誰かを抱く真似をした。

途端に、周りに居た者全ての目が飛び出んばかりに見開かれ、世話係の女性が真っ赤になり、リオンが椅子からずり落ち、リンシェルンが微かに『あー』と念話した。


『「するかーーーーーっ! !」』


俺とアルファーが同時に叫んで、みんなが体をビクっと震わせた。


「ん? 何とかなったか・・・、フッ、新しい技を習得した。足がガクガクするがな! 」


『お、みんな今アルファーの声、聞こえた人 ! 』

リンシェルンがみんなを見渡して、そして優しくアルファーと俺を見つめた。

みんなの手が、にこにことしながら上がる。それをアルファーは信じられないと言うように見渡した。


『あ、・・・ラギ、何と言っていいのか分からないが、感謝する・・・』


「いや、何喋ってんのか気になっただけだから。ごめん、ちょっと言葉が足りなかったな。あんなに無暗に竜力使わなくても、多分できた。ハハハハ」


本格的に腹が減ってきた、無駄にいらない力を使ってしまった・・・。


『そうだ、シオーネ ! 。ラギ、もう一人居るんだけどダメかな、凄く苦労してるんだよ、帝国最高の苦労人なんだよ。契約者が滅茶苦茶でね・・・いい人なんだけど・・・』


いい人のところで、苦労しているとは、どういう事がいまいち分からんが。

リオンがヘタっている俺とアルファーに近づいて来た。


「いいけど、とりあえず何か食べさせて貰っていいでしょうか・・・」


『もちろん ! この部屋はもう使えないから。みんな、移動しようか』


『もう、竜の男って本当に・・・、よいしょっと』


リンシェルンが俺と、アルファーを片手ずつ抱え上げた。


『ラギ、こんな時になんだが。ここに住まないか? 契約者が居ないと、体が辛くないか? 自分は、シャイナに逢うまでこの竜園から怖くて出れなかったのだが。ここは、契約者の居ない竜は徹底的に保護される。王宮と竜園の間には竜門と言って、決められた者しか入れないようになっている』


アルファーが静かに語った。


『リイラの部屋も準備した、シャイナやプリシラ姫が色々と整えてくれた。自分には女の子が好きそうな物とか分からなくて、あのドレスも・・・』


俺とアルファーは同じ長椅子に下ろされた。

アルファーの目線の先のリイラは、今度はカップケーキのようなお菓子を貰ってご機嫌だ。


『今度は、決して、リイラから目を離さないと約束する』


リイラはニコニコしながら、両手に一つずつお菓子を持って来た。

俺とアルファーに渡される。俺は腹が減っていたけど、菓子を指でクルクルとして、眺めながら考えていた。


ここには全てが揃っている、俺はもしかして思い上っていたのだろうか。

リイラは俺と居る方が幸せだと。ここで同じ竜と、世話係に囲まれてそれなりの教育が受けられて、安全も保障されて楽しく暮らした方がいいのだろうか・・・。

俺と一緒に居たって、何もしてやれない。

不安定でフラフラしてて、不確かな物を探し続ける旅に連れて行っていいのか。


ここは・・・、牢獄じゃない・・・。

竜の(いえ)だ。


「リイラ、お前ここで、ここにいるみんなと暮らすか? 」


リイラがきょとんとして俺を見た。


『おとうも一緒? 』


俺は軽く首を横に振った。


「おとうは王竜だ、この世界を大切にしてくれる人を探しに行かなければならない・・・。きっと、おとうがずっと一緒に居たい人が何処かに居る。この世界にしか居ないから、この世に来たんだよ・・・」


『リイラ、われ等と一緒に住もう。ここには全部ある 』


『やだ、だって、アルお父様やリンちゃんもリオンさんも、たくさん家族が居るけれど、おとうは一人ぼっちなんだもん。さみしいからリイラが一緒に居てあげるんだ。おとうは、泣き虫だからね ! 』


「泣き虫か ! そうかもな。俺こっちに来てから涙腺ゆるくなった、確かに!」


俺の涙腺が崩壊しつつあった・・・。

リイラが俺にしがみ付く。

『置いていかないで・・・! ! リイラ、何もいらない、おなか空いてもいいよ、おとうがいいよ・・・! ! 』


リンシェルンとリオンが近づいて来た。


『アルファー、諦めなよ、僕は構わないよ。ただし、多少は干渉させてもらうよ、だって六体しか居ないんだから僕たちの同族は。気楽にここに遊びに来てくれる事、それと困ったときは遠慮しない事。僕だって、アルファーだって、リンシェルンもシオーネも、この帝国じゃちょっとした力を持っているんだよ。うんと頼ってくれていいのさ。それとね、王族の事なんだけど。・・・・大昔からの呪いで僕たちが好きで堪らないんだけど、今の帝国の王族に関しては、お互いを牽制しあっているのもあって、あからさまにラギとリイラに近づかないと思うんだ・・・問題は・・・』


『諸侯と言われる貴族達だ。直系ほどの拘束力は無いけど、やっぱり魅力があるらしい・・・、私の亡くした契約者も諸侯で国境沿いの辺境公爵だった。戦で亡くしてしまったので、王族への警戒心だけは解けたままで、契約は強制解約したが・・・。その話はまた追々話すよ・・・』


アルファーがリイラを切なそうに見つめている・・・。

この人は、俺よりもずっと長くリイラの卵を抱いていたんだ。

リイラは俺がアルファーを気遣っているのが分かったのか、そっと離れてアルファーの手を取った。


『ラギ、旅をして色々なところに行くのなら、諸侯に気をつけてくれ。王竜という立場からしても、慎重に頼む』


「分かった・・・、色々とありがとう・・・」


『さあさ ! 夕食をやり直そう、アルファーも広域展開出来るようになったし、楽しい食事になりそうだね、シオーネには悪いけど・・・』


リオンが世話係の女性たちに色々と指示をしている。

リイラは何時の間にか俺たちから離れて、自分のカバンをゴソゴソしていた。


『おとう ! 』


「どうした? 」


『ムギちゃんがいない、カバンのフタ開いたままだった・・・』


「えっ、どこに行った?」


『分かんない・・・』


リイラがベソをかき始めた・・・。

俺はまだまだ飯を食えそうに無い・・・。








土鳩(ムギ)行方不明、緊急事態発生。

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