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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第二章  竜園
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光竜と俺

帝都に着いたのは夜だった。

アッシュハーン帝国、 帝都 ウインディア。


この世界の(すべ)てが集まり、この世界の(すべ)ての国の監視者たる女帝(クイーン)が住まう都。


昼間飛ぶと目立つので、夜間を(えら)んでの旅だった。

夕方一度、人気(ひとけ)の無い湖の麓で、リンシェルンとバーミリオンと別れた。

その時に竜具を預け、俺は腕にカバンを持ち、リイラを竜体にさせてそのまま夜になるまで待った。


リンシェルンは先に竜園に行っていると言う事だった。バーミリオンも一緒に行こうかと言ってきたが、そこまで付き合わせる事も無いし、どうやら帝都に傭兵のアジトがあるらしいので、そこに行ってもらった。


『おとう、お腹空いたよう 』


「あぁ、先に何か食べておけば良かったな、こっちに来い竜力を分けるから」


俺はリイラに額を当てて、力を送った。


『おとうがお腹空かない? 大丈夫? 』


「これ位どうってことない、心配するな、それよりここから大きな街まで飛ばないといけない、失速せずに着いて来れるか? 俺が掴んで行こうか」


『がんばってみる 』


夜の(とばり)が完全に落ちた頃、俺とリイラは飛び立った。

大体の地図は頭の中に入れてきた、最後に竜体になる時に、もう一度ユリアンのメモを見直した。


眼下は人口の明かりが無数に見える、飛行機から街を見下ろしたような感じだ。

ただ、それは電気の煌々とした輝きでは無く、ロウソクや獣油などを使ったランプのほんわりとした明かりで、天の高い所まではその光は届かない。


真っ黒な俺と、地味な紫の色合いのリイラで、目立たないように帝城の裏手にある竜園を目指す。


城が近くなった時、キラキラする物体が城から上がった。

暗闇の中、金の粉をぱっと散らすように、何だあれは、えらい目立つ。


金の粉を纏ったように発光したそれは、空中をこちらに向かって移動してくる。


「リイラ ! 俺の見える範囲いでいいからもう少し高いところで待機だ ! 」


『あいっ ! 』


リイラが上昇した、アレは俺に向かっている、近くに居れば巻き添えを食らうかも知れない。


何だこれは、敵意、違う、好奇心、に近い何か。

グワッと押し寄せる思念の渦。


敵、では無いと思うが俺は爪を開いた。戦闘形態というのか、爪が長くなり、鱗が逆立つ。


闇夜に一直線に飛翔してくる、光りの軌跡を残しながら。

それは俺の近くまで来て止まったまま、ゆっくり翼を上下させ、フイッとリイラがいる上空を見上げた。


そいつを見た俺の第一印象は、・・・スマン・・・金のシャチホコだった・・・。鱗が金、何とまぁ。

マブシイ・・・。


光ってる! キラキラと ! ! いや、もう神々しいとはこの事を言うのか。

黒い俺とは相反する存在だ。

金色の竜は俺の周りをグルグル回り始めた。


『おとう ! ピカピカさんが挨拶してきたよ ! 』


「えっ? 待て、まだこっちくんな ! 」


リイラがふらりと下降してきた。


『・・・そんなに警戒しないでくれまいか? すまない、余りの嬉しさに、迎えに来てしまった・・・』


念話の広域展開が出来ないのだろう、リイラにだけ何か先に言ったようだ。

俺は爪を引っ込めた、しかし緊張からか鱗が逆立ったままだ。


『自分の呼び名は光竜のアルファー、漆黒の竜よ、私の事はどうぞアルファーと呼んで欲しい、我らが住まいに案内する、着いて来てくれ』


アルファーが俺より下に高度を取った、後で知ったのだが、この時アルファーは俺に彼なりの礼儀を取ったのだがさっぱり分からなかった。


アルファーの上を飛ぶこと、それは竜的に俺の方が力が上だという行動だった。

なので、地上で自分たちが飛んでいる姿を見た人々は、一瞬にして俺とアルファーの力差(パワーバランス)が分かった。


城からアルファーの飛び発ったのが分かり、夜空をこの時見ていた人達はあまりの事に息を呑んだらしい。


この帝国で一番強い光竜の上を飛ぶ黒い竜は何だと。


俺は飛びながら挨拶をした。

こちらもちゃんと名乗らないとな・・・。


アルファーはチラチラと俺の真横を飛んでいたリイラの事を気にしていた。


「俺の呼び名はラギと言います。この子はリイラ、俺が孵しました」


『ラギ、リイラ、いい名だ。ラギ、われ等は生まれながらにして兄弟、畏まった言い様は無用、兄弟が増えて自分は本当にうれしい』



アルファーは城に向かって飛行して、城の一番高い尖塔を迂回した。

俺もそれに続いて行く。


その帝城という建物は、俺が思い描いていた絵本の中のメルヘンな城では無く。

どちらかと言えば無骨な、要塞に近い佇まいだ。

緻密に石が組まれ、何層かに分かれてまるで結婚式で使われるケーキの様で、細ければ塔にも見えないでも無かったが、楕円形と円柱が組み合わさった、中世ヨーロッパの建築とはまた違う、この世界独特の不可思議な雰囲気を醸し出していた。


城の正面にある大きな門の左右に、止まり木のように円柱の塔が地面から突き出している。


この時は暗かったのもあって、気が付かなかったのだが。城壁にはあと何箇所かこういう場所があって、塔の上には非常時には竜が配置されて、障壁を城のために張るんだそうだ。


まぁ近年は、そういう緊迫した状況にはなった事は無いらしく、もっぱら門の塔は慶事や例祭、貴人を迎え入れる時の歓迎時などに、城仕えの竜が近衛兵と共に配置に付く。


今は竜の代わりなのか分からないが、かなり大きな国旗が塔に掲げられていた。


あの旗の紋章・・・どこかで見た事がある、どこだったっけなぁ。


ユリアンの書いた地図では、規模がさっぱり分からなかったが。

実際上を飛んで見て、全体を把握しないと、下手に地上から入り込むと自分の位置が分からなくなりそうだ。攻め入られた時には、迷い込むような構造にされているのだろう。





アルファーは城の裏手にある広い広場に降り立った。

俺とリイラもそれに続く。


『この場所は、城の一部の人間と竜にしか入れない、皆は竜園と呼んでいるが、今の所は自分ともう一体だけで住んでいる、後は休憩や宿泊に使ったり、遊びに来たりする・・・。昔はもっとたくさん居たらしいが。』 


そう言うと彼はふわっと風を起こし、人型になった。

リイラがそれに続く。


どこに居たのか、同じお仕着せの女性達が駆け寄り、金の髪の男とリイラに素早く服を着せた。


あれが、ばあさんが昔していたと言う、竜の世話係というやつか・・・。


頭をお団子に結んだ女性二人が、何か持ちながら俺を遠巻きに見ている。


『わぁ、ありがとう! 凄いお姫様みたいなお洋服だよ、ピンクでヒラヒラが一杯! 』

リイラがクルクル回って、スカートの裾を翻す。レースがふんだんに使われていて、確かにかわいらしいが・・・。

アルファーがその様子を、少し離れて目を細めながら見ていた。


「まぁ、何てかわいらしい仔なのかしら ! 後で髪も結わせて下さいませ」

世話係の女性の楽しそうな声があちらこちらからして、リイラとアルファーを囲み盛り上がっている・・・。


俺はと言うと、その様子を横目で見つつ、女性二人との間で奇妙な緊張感を醸し出していた・・・。

何だ、この食うか食われるかな緊張感は・・・、女性たちの顔が恐怖で歪んでいるのだが、ジリジリとこちらに近づいて来る。


あぇー、これは人型になって着替えをしてくださいと言う事なのだろうか。

知らない人に、それは非常に恥ずかしいのだが。


『そこの人達、ラギは思考はほぼ人だから恥ずかしがりなんだ、女性の前で裸を見せないよ、ハイハイみんな後ろ向いて ! 皆だって知らない異性の前で裸になんかならないだろう? 』

手をパンパンと叩きながら念話が来た。

リンシェルンだ。


『リイラの服はこちらで準備したよ、ラギのもあるけど・・・』



リイラのヒラヒラを見て、俺は何だか嫌な予感がした。

「いや、俺はいい、持ってきたから」


俺は右手にはめたカバンをちょっと持ち上げた。


女性たちの目がびっくりした様に見開かれた。

何人かは口に手を当てている、地面にしゃがんでしまった人も居た。


『キャー ! 靴もかわいいよ、おとう、みてみてー ! 』


「よかったな・・・そりゃ、汚すなよ、後で返さないといけない」


それを聞いてリイラが、スキップの途中の片足を上げた変な格好で止まり、えーという顔で俺を見た。


「すぐにここを発つ、今夜の宿を探さないと。ガリムさんから紹介してもらった場所に・・・。俺はこのままでいい、アルファー、話があるのだがいいだろうか? 」


長居するつもりは無い、王宮の方から何やら色々な気配がする。


・・・俺を遠巻きに兵を配置しているな、悪意は感じないが警戒しているようだ。暴れるとでも思っているんだろうか。

姿は見えなかったが、カシャンカシャンと剣の擦れる密かな音と、軍靴と思われる足音がする。


何かあれば、リイラを掴んで上空に飛び去ればいいだけの事。


『君、小さな姫君はお腹を空かせているようだよ、親なら食事くらい摂らせてあげてはいかが? 』


リンシェルンの後ろから、足を少し引き摺りながら青い髪の男が現れた。


こいつも竜か、目には片眼鏡をはめている。


『人型になって、建物の中に入りましょう、ここでは、ほら、色々と落ち着かない 』


間が悪いと言うのか、あっちにしてみればナイスタイミングと言うのか。

リイラの腹が、くぅーと鳴った・・・。


いっきに周りの緊張が解かれて、世話係の中からクスッと小さな笑い声が聞こえた。

・・・俺は竜体のままで、ガクッと頭を落とした。


「・・・男以外は向こう向いてくれ・・・・」


私は見慣れてるからいいよねー、とリンシェルンが何か言っていたがもう突っ込む気力は残ってない。

見慣れてても恥じらいは無いのか、竜の女には・・・。






続くドm9(*'д`*)!!

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