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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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幕間 旅の途中で

花の中の竜を書いてみたかっただけ。

「ラギ、一度降りて休憩しよう、リイラが汗だくだ、腹も空いたしな」 


バーミリオンが昼前に声をかけてきた。

そうだな、村を出てから飛びっぱなしだった。かなり高度を飛行していたので、地上から自分たちの姿は小さな鳥のようにしか確認出来なかっただろうが、降りるとなると、どこにするか。


『リイラお腹すいたよー、あっちちだよー』


「バーミリオン、降りるところを指定してくれるか? 俺も一度人型に戻って飯にする。リンシェルン、聞こえているか! 降りるぞ! 」


少し前方を飛んでいた赤い竜がチラリと後ろを振り向いた。


『そうだな、』


南に行く度に、気候が春めいてきて、気温も上がってきた。

村が寒かったので、リイラに厚着をさせてきたのだが、そろそろ着替えさせなければならない。


眼下は色とりどりの花が咲き乱れる草原が広がっていた。

まだ街らしきものは見えない。

俺は旋回してゆっくり高度を下げていった。


バーミリオンが叫ぶように言った。


「この辺りにしよう! もう少し先は街に近いし民家もある、ここは家畜の放牧地だが見通しもいいし小川が近い」


俺はゆっくり花の中に降り立った。

バーミリオンに竜具を外してもらう。重くはないのだが、体が締め付けられるような気がするのだ。


凄い花畑だ、こんな景色見たこと無い。

リイラが俺から降ろされたと思ったら、いきなり両手を広げて走り出した。


「こらっ! 待て! ! 」


俺は竜のままでリイラを追いかけた。


「ラギ! リイラ! あんまり遠くへ行くなよ」


バーミリオンが荷物から、昼食の準備をするために、材料を出し始めた。

その横でリンシェルンがでかいシャツをボソッと人型になって被るのが見えた。

いいな、あれ、男があの格好するとマヌケだが、女の子は何だかかわいくていい。


いかん、チビでも竜、リイラがすごい速さで走っていく。

雪に閉ざされた村に居たので、この景色が楽しいのだろう、俺だって何だかワクワクする。ちょっとした観光地だな。


少女と竜の追いかけっこが花畑で繰り広げられる。だめだこのままだと小回りが利かない。というか、花をかなり踏み潰してしまった。


「リイラ ! 」


ええい、もう!


俺は人型になって追いかけようとして、己の髪の毛を踏みつけてしまい。

「グワッッ! !」

と、変な声を出しながらうつ伏せにこけた。

竜の時にドタドタと走り回った余波で、花や花びらが辺りを舞っている。


『おとう ! お尻丸出しだよー! 』


「・・・・・・クッ。」誰のせいだ、誰の・・・。


俺はうつ伏せになったまま、何だか無性に笑えてきた。

クックッという喉からの笑いが止まらない。逃げ回っていたリイラが動かない俺を心配したのか、トコトコと近寄ってきた。いつの間にか両手に一杯の花束を持って。

『服持って来てあげる、まっててねー』


本当にこの髪の毛は邪魔だ、どうやら竜力に関係するらしいので切らない方がよいらしい。

ちなみにリンシェルンの髪の長さは腰辺りまでだ、俺もあれ位が良かった・・・。

髪の長さが自分の身長より長いってどうよ、ファンタジーにも程がある。

よいしょ、俺は小さく呟いて腕をついて座り、顔の前にバッサリ覆っている前髪を片手で払った。豆粒ほどの大きさでリンシェルン達が見える。


暖かい陽気の中、待っていると(まぶた)がだんだん重くなってきた。

眠い、これは学生時代、大学の講義を聴いている最中に耐えようも無く眠くなったあの感じに似てる。


ちょっとだけ、ちょっとだけ横になって目を(つむ)ろう・・・。


地面も暖かい、気持ちがいい・・・。



※      ※          ※      




『服持ってきたよ、あれ? おとうどうしたの?  寝ちゃってる』


「夜中飛んだから疲れてるんだろう、上着をかけておこう、リンシェルンも昼寝しちまったからリイラも一緒にお昼寝していいぞ。・・・竜はたまにこうやって大地からも力を分けてもらってるんだそうだ」


『竜はみんなお昼寝タイム? 』


「アハハ、そうだな、しかしリンもラギも寝顔がまるで子供みたいだな・・・」


浅い眠りの中で、リイラとバーミリオンの声がしていた。

それと同時に、いつかの子守唄が頭の中で響く。





愛しいあの人の 傍にそっと寄り添うは

 やさしく囁くその言葉(ことは)





あれ、その先の歌詞は忘れたな、旋律は覚えているんだけどな。


いつか思い出せればいい、そう遠くない未来に・・・。

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