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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
24/42

俺、旅立つ

風がだんだんと温かくなり、地面から雪の面積が減った頃。

プリシラとユリアンが帝都に帰る事になった。

2人は一緒に帝都に行かないかと誘ってきたが、断った。

ユリアンは帝都の簡単な地図と、王宮の場所、竜園の位置を書いた紙をくれた。


「王宮で待ってるー、絶対遊びに来てよ」


ユリアンはニコニコしながら言っていたが、俺は帝城と呼ばれる場所には行くつもりは無かった。

とりあえずは、竜が住まう竜園へアルファーに逢いに行く事。

そこから先は、マールさんのご主人との話の中で、とあるギルドに個人登録をして街から街へ旅をしてみるつもりだ。


チャーリーを覚えているだろうか。実はあの人、宝飾の加工と流通を一手に纏めるギルドマスターで、本店は帝都にあるのだが、宝石を運ぶ輸送と護衛を探していて、世界各地にある支店やお得意様に品物を届ける仕事をする人物を探しているとの事だった。


マールさんのご主人は、チャーリー御用達の宝飾品護衛人、ジュエルガーディアンという仕事をしていて、俺も一緒にどうか? という話だったので、何の仕事もせずに、世界中ブラブラするのもすぐに金銭が尽きるだろうし、渡りに船と引き受けた。


俺一人だったら、自由にできたかも知れないけど。

リイラがいる。

竜だからって金がどこから沸いてくるワケでも無し、お腹も普通に空くし、ある程度ちゃんとした生活をしていきたい。

金が貯まったら何ヶ月か街に腰を落ち着けて、住んでもいいかとも思っている。

そうしたら、この世界にある学校のような所に通わせてやれるかも知れない。

本当は竜園で帝国の最高学府の教授とか博士や、竜たちの間で教育していくのだそうだ。

放浪の旅に連れて行くのもアレだが、この世界の人々から離して育っていくのもあまり良くないと思う。


ギルドに登録するのは帝都で無くてはいけないらしく、どちらにしても行かないといけない場所ではあった。

竜は向こうの世界で言うところの、戸籍が無いらしい。俺は登録するのに戸籍がいると聞いたので、村長にたのんで麓の村出身という事にしてもらった。


俺はガリムさんと一緒に遭難していた事になっていたので、何の疑いも掛けられずあっけない戸籍収得だった。




『おとう、今日も飛ぶ練習する? 夜にする? お昼に飛んじゃだめなの? 』


最近リイラの言葉が増えてきた。

村のチビ達に遊んでもらって、色々と知恵がついてきたようだ。

昼間はやはり目立つので、夜の訓練が多かったのだが、明るい日の中で飛びたいとずっと思っていたようだ。


リイラは土鳩と一緒に、俺の仕事を店の隅で眺めていた。


「今日はバーミリオンが、プリシラ達を隣街まで護衛して明日の朝に帰ってくるから、お休みにしよう」


『おとうとリイラも、もうすぐみんなと、さようなら、するの? リイラとおとうはここに居たらいけないの? 』


俺はリイラの前に屈んで顔を覗き込んだ。

紫色の瞳が涙で揺らめいている。

ユリアンとの話を聞いていたのかも知れない。

俺はリイラの両手をそっと握った。


「あぁ、ここには居られない。いつか村のみんなに迷惑を掛けてしまう。捕まると、誰かを傷つけてしまうだろう・・・」


『おとうを誰も助けてくれないの? 』


「そんな事は無い、助けてくれるよ、リイラもいるし」


俺は少し声が震えていたかも知れない、リイラにとってはなにげない一言だったかも知れなかったが、心の奥底に閉まっていた、漠然とした不安に気づかれたのだろうか。

チビのくせに何て鋭い事を言うんだろう! 、

俺はリイラを抱きしめた。


「一度、竜園に行ってリンシェルン以外の竜に会うんだよ、大事な話をいっぱいするんだ 」

『怖いところ? 』



俺はリイラを見ながら、軽く横に首を降った。

今は不安に思わせないようにしたい、俺の不安が伝わりませんように・・・。



『あー、お腹減っちゃった 』


リンシェルンが、白竜亭の扉を大きく開けて入ってきた。


「あれ? 一緒に送って行ったんじゃなかったのか」


リンシェルンは胸が見えそうな大きな長袖のシャツと、下は膝丈までのスパッツを履いていて、ふくらはぎまで編んでいくサンダルを履いていた。

おしゃれなんだか、何なのかよく分からない服装だ。


『なんでー、私はあれ達の契約竜じゃないし、自分の足があるんだから自力で帰って貰わないと。リオンとの約束があるから、最低限の護衛は付けるけどさ。・・・ラギ、何か食べさせて』


俺はお昼の定食用のシチューとパン、それと、多分ラディッシュって言うんだと思うんだけど、こっちの人は小さな赤いカブって言うんだよな・・・、そのサラダをリンシェルンの前に並べた。


モグモグ・・・『・・・んで、ラギはいつ旅立つの? 私、一緒に行こうかと思ってるんだけど。

長距離飛んだ事無いでしょ? うまく風に乗れば、どこかで一泊して休憩すれば二日で着くから』


俺はリンシェルンの前に水を置いてやりながら言った。


「えっ、そんなに早く着くのか」


『飛ぶと早いのさ、それで、バーミリオンが一緒に帝都に行きたがってたけど、どうするの? えらい気に入られちゃったじゃない。・・・相性も悪く無いんじゃないの? 』


「相性はともかく、リイラを俺の背中に一人で乗せるのはちょっと怖いんで、どうしようかなとは思ってる。バーミリオンは教え方はうまいと思うよ、分かりやすかったから。どこかの誰かはドーンと飛び上がって、バーンと飛んで、バシっと降りるとか、分かるような、分からないような説明だったから・・・」


そして、その感覚でやったら、バーミリオンが着地した時に前方にブッ飛んだ。

まだ雪が深くてクッションになり助かったが、雪に埋もれて足だけ出たその姿は何とも言えない哀愁が漂っていた・・・。


リンシェルンは額の横をポリポリ掻いて苦笑した。

リイラがリンシェルンの空になったパン皿に、パンを追加している。

彼女は、リイラの頭をくしゃりと撫でた。


『リイラも飛ぶのがうまくなったな、でも、まだ障壁が張れないから、やはり誰かが抱えて飛ぶか、私は荷物を運びたいから無理だし』


バーミリオンに頼むしかないか。

俺はあんまり、人見知りをするタイプでは無いのだが、やはり女性を目の前にすると若干緊張する。きれいなお姉さんとか、かわいい女の子とか、どう接すればいいのやら。

これで、前の世界では色々と失敗しているのだが・・・。


『・・・ラギって晩生(おくて)だよね・・・。かなりの男前なのに惜しい、本当に惜しい、恥ずかしがり屋と言うのか。・・・これは色々と大変だな』


「なっ! 何を思っていきなりそういう話になる ! 」


リンシェルンのシチューをすくっていた手が止まり、眼を半開きにしてジーっと見て、スプーンをいきなり俺に指した。


『仲間のよしみで教えてやろう・・・、仕方ない。あのな、竜力抑えてない時の人型だけど、ありゃかなり・・・ヤバイ。王族とか関係なく、人を魅了する 』


・・・・あぁ、知ってるとも、俺は半日気持ち悪くなって寝込んだ。恥ずかしくてだ !


『もっと、自信持ったほうがいいんじゃない? ラギなら誰でも選び放題だ。本当は分かってるんだろう? ・・・でも分かってない振りして避けてる。どうして? 』


「これが本当の自分じゃないって、知っているからだ。でも・・・」


意識した訳では無かったがここから念話になった。

『〔その時〕が来たら、形振(なりふ)り構わないと思う・・・。 』


リンシェルンがスプーンを持ったまま、今度は俺の心臓の辺りで止めた。


『ラギの(しんぞう)を手に入れた者、それが世界を手に入れるのか』


「何を恐ろしい事言ってやがるんだい・・・! 」


俺は思わず自分の左胸を掴んだ。

この世界の人たちは、心臓に心が宿ってると思われていて。まぁ向こうの世界でも、似たような表現はあるよな。


『何百年も前はあったらしいぞ、竜の心臓を食べたら、とてつもない力を手に入れるとか言う迷信が。・・・多分食べたら普通に食当たりして死ぬと思う・・・、でも他国のおとぎ話なんか面白いぞ、竜殺しの勇者とか王とか居るんだから。竜がお姫様に一目ぼれして誘拐して連れ去り、勇者だか王様だかが助けにきて、悪の竜は退治されちゃうという仰天ストーリーだ。本当に面白い 』


それはおとぎ話だからだろうが、心臓欲しさで追われるとか勘弁してほしい。

そして、そんな吃驚(びっくり)トラブルには巻き込まれたくない・・・。


「・・・迷信と、架空のお話でよかったよ。・・・村を出る日なんだけど明日の夜中にしようと思う。バーミリオンには俺から頼んでみる、リンシェルンも一緒だとそりゃ心強いけど」


『了解、じゃあご一緒しましょう 』


リンシェルンは優雅に一礼して、土鳩にパンくずをやって遊んでいたリイラの手をとって、くるくると楽しそうに踊りだした。

俺はその様子を眺めながら、後片付けをした。 


リイラが静かに話しを聞いていたらしい。


『おとう、ムギちゃんも連れていっちゃだめ? リイラがお世話するよ 』


「・・・ムギちゃんって誰だ? 」


リイラは必死にパンくずを突いている土鳩に向かって指を()した。

オイ・・・・いつの間にそんな、俺と一字違いの珍妙な名前を付けたんだ。


『ムギちゃん、リイラのカバンに入るって 』


                 

ポーポー

土鳩・・・いや、ムギがリイラの頬にスリスリしている。

こいつら、いつの間に意思の疎通ができる様になったのか、ずっと一緒にいるなとは思っていたが。

でも、リイラの遊び相手にはなるかな、あまり居ても居なくても気にならないし。


「いいけど、リイラが守ってやらないとダメだぞ。分かった? 」


『うんうん、よかったねムギちゃん ! 』


ポッポー


そして土鳩も連れて行く事になった・・・。






今夜は満天の星空だ、

こんな美しい夜に旅立つのもいいだろう。



昨日マールさんにお別れを言った。

何度もありがとうと言ってくれて、また思ったより多い給料をくれた。リイラにとかわいらしい髪留めをいくつか渡され、それはマールさんが昔亡くした小さな娘さんの物であると教えてもらった。マールさんの旦那さんは十日ほど前に旅立っていて、ギルドで俺が来るのを待っているという事だ。

マールさんは後で村の人たちに、俺が急に村を旅立つ事になってしまったので、挨拶が出来なくて申し訳無いと伝えてくれるそうだ。


文字通り裸一貫でこっちに来た俺を、受け入れてくれたジジババは、すっかり言葉数が少なくなって、それで無くても老けているのに、更に老け込んでしまって元気が無くなってしまった。

じいさんはポツリポツリと今まで話していなかった事を語ってくれた。


ばあさんが宮殿で関わっていた竜は、当時の帝王と契約していた炎竜と言う竜で。

色は違えど、俺とよく似た風貌であったらしい。


いろいろ俺と重ねて観てしまったと、じいさんは言った。


「まるで、ラギを見ていると、昔の楽しかったり悲しかったりした事が、昨日のように思い出されての、また竜と一緒に居られると思うと、わしら嬉しくて仕方なかったんじゃ」


じいさんは、俺の手に自分が若い頃に使っていたという、騎竜用のゴーグルを渡してくれた。


「わし、これでも騎竜兵じゃったの、偵察とか言って、いろんな所に連れて行って貰ってな、でもよく考えたら、友達みたいに気安く遊んでもらってたんじゃなぁ。・・・『お前と一緒にいると楽しい。オレもお前たちのように、大きな声で一緒に笑えればいいのに、歌えればいいのに』とよく言っていらした・・・」


「じゃから、ラギがたまに機嫌がいい時に歌っておるのを聞いて、その言葉を思い出して涙が止まらんかった」


俺の鼻歌か・・・。

聞いていたのかじいさん・・・。


「わしら、本当に幸せじゃったよ、この家に来てくれてありがとうな・・・」




俺は厚着をさせたリイラと、旅支度を済ませたリンシェルンとバーミリオンと一緒に村外れまで来た。


見送りはジジババとマールさん。

ばあさんは昨日から一言も喋らない、俺は念話を送った。


『ばあさん、じいさんと仲良くな 』


俺は竜力を抑えるのを止めて、一旦だだもれになり、皆から背を向けて服を脱いでいった。

ばあさんが何も言わず、縫ってくれた服を集めてくれた。ブーツも脱いでバーミリオンに渡してカバンに入れてもらう。


風を巻いて竜体になると、バーミリオンが俺に竜具をつけた。

額には例の水晶の角が輝いている。

全身鋼鉄の、まるでどこかに戦いに行くかのようだ。



ばあさんが近寄って、そっと俺の鼻を撫でてくれた。


「ラギは、ラギだけの人を探しに行くんじゃなぁ・・・、うんと幸せになるんじゃよ」


〔俺だけの人・・・!〕


ばあさん、最後に爆弾発言じゃないか、俺は眼に涙が溢れた。


『男の竜って泣き虫ばかり、ほら、しっかりして! 』


いつの間に竜体になったのだろう、リンシェルンがそっと近づいて、俺の涙を舐めた。

バーミリオンとリイラが俺の背に乗り込む。



「じゃあ、元気で ! 」


俺は翼を拡げて高く舞い上がった、リンシェルンがそれに続く。


そして俺は・・・、村を旋回している時に気がついてしまった。


それぞれの家の前に何人もが、蝋燭を片手にゆらゆらと振っていたのだ。


「・・・! ! 」


空の上から小さくなったマールさんが、星明かりの下、親指を立てているのが分かる。

ばかだなぁ、俺だけだったんだ、村人に竜だと気が付かれて無いと思っていたのは。

みんな知っていたのに、俺と普通に接していてくれたんだな・・・。

知らない間に、俺とリイラは沢山の人に守られていたんだ。


この村なら、穏やかに暮らして行けるかも知れない。

でも今はだめだ、全てが終わったらいつか必ず会いに来よう。



バーミリオンが、水平飛行をして、スピードを上げてもいいと、クイッと手綱を引いて合図した。




さあ、行こう! ! まずは帝都へ! !






一章   完




一章を読みきって下さいました読者様に心からの感謝を。

誤字脱字、校正等を助けて下さいました皆様に心からの御礼を申し上げます。


これからもよろしくお願いしますエヘ(*´・∀・`*)ゞ

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