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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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碧色の海(番外)

お気に入り件数4000件御礼 ありがとうございました。

冬の海は荒れ気味だ、海からの風も強く今日飛ぶのは勘弁。


しかし、飛び石のように広がる島々の人々に会いに行くのは楽しい。


「シオーネ! 」


私を呼ぶのは、契約者の部下クリフ、声のする方に振り向いて軽く手を上げた。

クリフは海からの強い冷たい風で、顔が強張り腕を組みながらやってきた。


「頼んでいた薬がやっと着いたぞ、今直ぐにでも運んで欲しいんだが、オウル殿下は何処に行った? 」


海軍が着用する黒い軍服は詰襟で、上着はベルトを肩から斜めと腰に締める。

腰には湾曲した刀が装着されていた。

この季節には、あまり居ないのだが、春になれば海賊が横行するのだ。


広い海峡を挟んだ先にある同盟国を行き来する商船を狙って・・・。


クリフとは念話が出来ないので、服の中からゴソゴソとヒモの着いた帳面を出す。


《多分、ゴンじいの居酒屋、私迎えに行く》


こんな寒い日には、一杯飲まないとやってらんねぇわ!

と、たっぷりと毛皮が襟と裾に使われたコートを肩にはおり、オウルは朝から出て行ってしまった。


「シオーネ、殿下の世話任せてしまってごめんなぁ」


《皆がアレの分までがんばっているので、いいの、それに力技で勝てるの、私しかいないし》


「それもそうなんだがなぁ・・・、ハハッ」

クリフが軽く頭を掻きながら笑った。

「ここから近い島には、もう船を出したって伝えといて、それと仕事溜まってるから連れて帰って来てくれ、参謀の血管が切れて脳卒中起こしそうで、最近は海賊よりそっちの方が怖い」


私は少し肩をすくめて、軽くクリフに手をふった。




オウルの仕事が溜まってしまったのは、私にも責任がある。

リオンの怪我を治すために、竜園に行ったはいいが、力の使い加減が分からず倒れてしまった。

いつもいい加減で、ふざけた事が大半のオウルが、ジュリアンに嫌味を言ったらしい。

内容までは教えてもらえなかったけれど・・・。

『気にするな、リンと自分では無理だった、もっと我らが居ればいいのだが、こればかりは言い争っても仕方ないのだろうよ』

アルファーは大事そうに卵を抱えながら、呟くように彼にしては長い念話をした。

『アルファー、その卵、連れて行けばいいのに、一年がんばったんだから、ダメだって言われたの?』

アルファーは長い金色の髪を左右に揺らしながら言った。

『自分の手枷になってしまう、それに危ない。・・・・シオーネでは無理だぞ、力加減がこれでも難しいのだ、一歩間違えれば竜力が殺がれすぎて、脱力感が凄い。心配だが、神山に送るしかあるまい』

何色の仔だろうね、と言うと、何色でもきっとかわいらしいとアルファーは目元を緩ませながら答えた。






この国で南に位置する最大の港町カーナ、数々のギルドの建物、倉庫、軍港、商業港、繁華街、歓楽街、帝国の二番目に大きい都市で、オウル殿下の統治領の一部でもある。

本来ならば、領邸で偉そうにふんぞり返っていなければならない男は、場末の酒場で昼間から酒を浴びていた。

漁から朝に帰ってくる漁師たちのために開けてあるのだが、夜の職業を生業としている者たちも、仕事終わりに一杯飲むために訪れる。


「だからよぉ、俺様は言ってやったの、ウチのを利用するなってよ、他にも色々言ったけど忘れちまった~。そしたらよ、アイツ、さっさと海へお帰りくださいお嬢のお世話も僕がしますから、だってよ! あ?、もちろんウチのお嬢が一番に決まってる、あいつらバカにした目しやがって春になったら覚えてろうぇ・・・」


ろれつも回らなくなってきているようだ。

半地下になった店の入り口の、入ったところで立っているとゴンザレスが私を見つけて、困ったような、ホッとしたような表情を見せた。

店の中の顔馴染みの客から声が掛かる、シオーネちゃん、今日もかわいいね、髪形変えたのかい、その頭の上で2つに分けてるのもいいね。軍服じゃなくて、もっとかわいい服着せればいいのに、旦那も無粋だねぇ、夜の仕事のお姉さんや、漁師から声が掛かり、にっこりしながら軽く手をふった。


「シオーネちゃん、ごめんよ、止めたんだけどだいぶ飲ませてしまったよ」


とうとう酔いつぶれて、カウンターに撃沈してしまった。

服の中からゴソゴソと帳面を出して、書き、ゴンザレスに見せる。


《ご迷惑をおかけしました、仕事が溜まっていて参謀殿の血管が切れそうなので連れて帰ります。ツケは溜まっていませんか? 今お支払いいたします》


もう一度服の中をゴソゴソして、手の平ほどの大きさの、ピンクのがま口財布をパカッと開けた。

銀貨が5枚、まぁ足りるだろう。


財布の中身がチラっと見えたのだろうか、ゴンザレスがちょっと戸惑ったしぐさをみせた。

えっ、これ以上のツケがあるのだろうか。


「ツケはちゃんと旦那の方から、払ってもらうからいいんだよ。いつになってもいいのさ、この方には本当にみんなお世話になっているんだから。みんな感謝してる、さあさ、起こせるかい? 」


私は財布を握り締めながら、すみませんと頭を下げた。

あーあ、喋れればいいのにな、無理だけど、せめてリオンみたいに念話を広域展開できればいいのに。


『オウル、起きて、薬が届いたって運ばなくちゃ、誰が乗って運ぶか決めて。参謀殿が怒ってるって、おーい』


オウルの肩を揺すってみたがピクリとも動かない。

だんだん腹が立ってきた。


『起きろって言ってんだよ! このボケナスがぁっ!! 』


ガッ!!!


頭を軽く叩いたつもりだったが、けっこういい音がした。


「なんだぁぁぁぁぁ!! 海賊かぁぁぁっ!? しまった刀持ってくるの忘れたぁぁぁっ!!」


ガバっと飛び起きたオウルは、身構えるような立ち方で左右を見回した。寝ぼけてる・・・。

ツンツンの濃茶の髪と、同じ瞳を持ちその頬にはうっすらと斜めに昔の刀傷が残っていた。

顔の凶悪さ王族ナンバー1、これでも実は王子様、すみません世の中の夢見る女性(オトメ)たちよ。


『口元のヨダレをふいて、恥ずかしいから。・・・・行くよ』


「おぉぉ? お嬢、迎えに来たのか、チッ仕方ない・・・ゴンまた来るわ」


腕を強く掴んで逃げられないようにして、ズンズンと店の外に引っ張り出した。


『しっかり歩けるの? 抱えて走ろうか、その方が早いし』


「アホか、そんな恥ずかしい事できるかぃ、歩けるわ。お嬢ー、この前買った草みたいな色のワンピ何で着ないんだ、かわいいのに」


『・・・あれは若草色と言う・・・。勿体無くて着れないの、そんな事はどうでもいい、薬着いたって、そんで仕事して』


腕を引っ張りながら領邸の方へ進んでいたが、いきなり腕を掴みなおされ、凄い勢いで走り出した。


「よし、これで流行病を止められる、ジュリアンも思ったより早い仕事しやがるな。これでこの冬は亡くなる子供の数が減るだろう」


碧い海が見えてきた、冬の間は色合いが少し暗い。


『酔っ払いを乗せて事故するのは嫌なんで、クリフに頼んでよ』


「何言ってんだ、俺が乗るに決まってるだろうが。お前の指定席は俺様なのさ! 」


アホだ、このアホさ加減どうにかならないものだろうか。

春になれば、正式に契約者になる。

王族や貴族の中で今まで色々と歯痒い思いをしてきたこの人を、これまで以上に支えて行くことだろう。



冷たい風の中に、ふーっと春の気配を感じたような気がした。

空高く飛べばもっと強く感じるかも知れない。


碧色の海の上から・・・。




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