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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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俺、唄う

プリシラ 2の俺視点です。

この村の人たちはとても早寝早起きだ。


大人の何人かは白竜亭へ一杯やりに来るが、一騒ぎすれば帰っていく。

陽気な酒飲みの親父連中ばかりだ。まぁそんな中に例の村長が紛れ込んでいたのだが。


この世界にも時計はあったが、上流階級の持ち物で、大きな商家や貴族、王族なんかが持っているそうだ。と、いうのも今まで時間に縛られて生きてきたもので、ちょっと気になって仕方ないのだ。


朝がリアル鳩時計ってどうなの、とか思う。

宿泊客の食事の準備をし、終わったところから片付け。それから酔っ払った親父達を見送って、店の掃除を済ます。

夜は食べ物はつまみ程度なので、楽だ。マールさんにも先に上がってもらって、多分三時間ほど一人で店をこなす。田舎なので泥棒が来ないのか何なのか、店の玄関の扉は施錠しない。

しかし、宿泊客の個室にはカギが掛けられるので、防犯的にはそれでオッケーなんだろう。


店から客が居なくなると、どこからか土鳩が出てきてた。

今までどこに居たのだろう。


俺は鳩を両手で持ち上げた。


「どうするのお前、外はもう暗いぞ」


試しに肩に乗せてみると、落ちずにしっかりつかまっているので、そのまま外へ出た。

この世界はびっくりするほど星が多い、満天の星とは正にこの事だろう。

ふと、もっと高い所から空を観てみたくなり、店の裏に回ってだだもれになり、ぴょんと屋根へ飛び上がった。


「あぁ、やっぱり凄いな」


今日は精神的に疲れた、もう一般人でいる気力は無い。

ペーターの鞄から、そっと卵を取り出して屋根の上に座った。卵はやっぱり、ほんのり暖かい。

屈んで頬を寄せてみると昨日より心音が高くなっているような気がした。

土鳩が、俺の頬に頭を摺り寄せてくる。

真似しているのか? ちょっとびっくりしたがスリスリしてくるのがこそばゆいが気持ちいい。


一度家に帰ったら、竜になって星空を飛んでみようか。ここで竜になったら絶対、屋根潰れる。

あぁ、卵を温めないといけなかった。後数日で孵ると言うが本当だろうか。

姉が出産一ヶ月前に実家に帰ってきた時に、大きなお腹をさすりながらニヤニヤして何かフンフン歌っていたな。竜も人と一緒だろうか、俺は姉が歌っていた歌を口ずさんだ。

心地よいと思うだろうか、俺ちゃんと親の代わりができるんだろうか。

生まれたら、母ちゃんは辛いので、父ちゃんでお願いしよう・・・。

断固父ちゃんでお願いします・・・。クッまだ彼女もいない上に結婚もしてないのに、子持ちとはこれいかに。もっと金、貯めたいな。村の人の親切に甘えて、今まで居続けたけど。街に出た方が良かったんだろうか。


ポーポー

肩に乗ったままの土鳩が、小さく鳴いた。


「ん、どうした? やっと巣へ戻る気になった? 」


ヤツは肩から、ボテッと降りると、チョコチョコ屋根の端に向かって歩き始めた。

おい、鳥目だから見えてないんじゃないのか、落ちるんじゃないのか?

鳩に目が釘付けになったその先には、昼間ホットケーキを食べながら花をとばし、アンジェラとやり合っていた少女の、目から上のみが覗いていた。


かっ壁を? どうやって。


「え?」「あ、」


あまりの突然さに思わずガバっと立ち上がって、一歩足が引けたが。


「ごめんなさい、キャッ」


という声と共にいきなり視界から消えた、おぉぉ落ちた!!

ええい、間に合うか。

俺は屋根を蹴って少女の方へ飛び降り、地面ギリギリで抱きとめた。

普通の人間だったら絶対無理だが、今の俺なら片手でも何とかなった。やれやれ。

よくぞ受け止めた俺。


確かプリシラ、だったな。

プリシラがそっと目を開いたので、俺は目線を合わせないために地面を見た。

彼女はいきなり手をばたつかせたと思ったら、カクッと脱力して目を閉じた。


これは一体、どういう? 意識あるよな、動いてたもんな。

どないせいと?


「起きて・・・、卵も抱えてるから」


夕方から店の方に2、3人兵士がウロウロしていたのは知っていたが。どうやら白竜亭を見張っていたようだ。ザッザッと数人の足音が聞こえ、物音がしたのが分かったのかこちらに向かってくる。

面倒事はごめんだ、さっさとズラかろう・・・。プリシラは、あぁそっちの事情など知ったこっちゃないが。腰が抜けてるのか?


「ここに居たら、君も俺もマズいね」


プリシラは目を閉じたたまま、ウンウンと首をふった。

部屋へ行くか、迷ったが。もう一度屋根に跳んだ。


指の先が少し、ジンとしていたが、痛い程では無い。

ジジババや村の連中、子供たちに触れても平気なので、やはり王族限定か。

俺は彼女をそっと降ろして、2、3歩下がった。


「・・・逃げないで、逃げないでお願い・・・、怖がらないで。貴方にたくさん謝らなければなりません」


この人は特に俺に何もしていないと思うが。


「アンジェラの事? それは君じゃなくて、あの人から」


どういうつもりだったか、聞きたい事も無かったが。対等に話が出来るかは疑問だ。


「それでも、ごめんなさい、あの、とても厚かましいのですが、呼び名を教えて頂けませんか? あぁ、もちろん、もしよかったら、よかったらなんですの」


「プリシラ姫、俺の名前はもう知ってると思うよ。今日、花を摘んできてくれたろう? 」


プリシラが、えっと言うような顔をした。

呼び名だが、あまり自分から名乗りたくないな。ヒントは与えた、自分で考えてくれ。


「ラ、ラギ、さん? 」


俺は小さく頷いたが、何故か彼女が真っ赤になった。

あぁ、屋根の斜めの所に下ろしてしまったから、足踏ん張ってるのか。


「お昼は、たいそう煩い事を、申し訳ありませんでした。わたしくし達が王族である事は、気配で察せられましたのね」


そうだな、気配はアンジェラの時もあったよ。初めてだったからかなり戸惑ったけど。

物陰からいきなり飛び出て来られたくらいの衝撃ではあった。

ただ、一度この感じ覚えてしまうと。気構えができるので、手が震えるほどではない。

慣れは必要。そして、王族が竜に対する執着心も多少は影響するのでは無いだろうか?

支配欲と言うべきか。


「そうだね、でも・・・。アンジェラ姫とプリシラ姫では、重さが違う。他の竜も、こんな感じなのかな」


プリシラは他の竜と契約者について、簡単に説明してくれた。

契約すると、この威圧感は消えるのか。

竜という種族の、生きるための本能と言うのか。

まず人であって竜である、ではなく。竜であって人の心を持つ。

本能の奥底に野生の血が息づいているのだろう。

この先、これで俺はちゃんと生きていけるのか。誰か、を、見つける事ができるのか・・・。


あぁ、プリシラの足元がグラグラしている。やっぱり足元が悪いようだ、顔がさっきよりも真っ赤だ。

悪かった、もう少し上に連れていこう。

俺はプリシラの手をそっと取った。


「ああああ、あのぅ、私は平気なのでしょうか」


何かこう、このプリシラという少女は妹に雰囲気が似ているんだよな。

いまいち調子が狂うと言うか、憎めねぇ。


「平気じゃないけど、嫌うほどじゃない、君は俺に、・・・多分酷い事はしないだろうから・・・」


プリシラの顔がサーッと青くなった。

赤くなったり、青くなったり。具合が悪いのか、大丈夫なのか?


明日会う約束をして、俺は彼女を抱えて一度地上に降り、部屋の窓に送りとどけた。


見回りの兵は気が付かなかったようだ。俺はそのまま、ジジババと住む家に向かって走って帰った。

肩に土鳩が乗ったままだ・・・。

何だか、もう違和感が無くなってきたぞ、いいのかこのままで。


家に帰り、ばあさんが用意していた夕食のような、夜食のような物を食べて。

タライに湯を張ってさっと水浴びをし、さて寝るかと卵を抱えて。

ふと、卵をクルクルと回して見た。


そこで俺は、衝撃を受ける事になる。


卵に、


ヒビが入っていた・・・・。


















大変だー。

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