光の軌跡(番外)
飛ばされても大丈夫ですが、読んで頂けると世界観が広がります。
帝都から進軍して3日経った。
明日には隣国ルズラムに到着するだろう、精鋭100人を引き連れて来たが、70人を国境に残して行くことになる。
まぁ、アレなら一人で30人位の働きはしてくれるだろうが。
帝都を出た時は、帰りたいオーラが出て凄かったが、何とか落ち着いてくれたようだ。
「シャイナ殿下、アルファーは兵の訓練中ですか」
うん、あれ、と私は草原の真ん中で兵20人あまりに囲まれている、金の髪の男を馬の鞭で指した。
「30人でも良かったのでは無いですか?」
「馬鹿言わないで、これ以上、兵をへたらせるわけにはいかないわ、あぁ、アルー!、手加減してちょうだい、荷物になるのに訓練用の大剣まで持ってきたの」
訓練中に怪我をさせないように、両刃が潰してあるのだが、振り払われると鈍器で強打されるほどの衝撃がある。
兵達が持っている剣は本物だ。
喋れないアルファーが、片手を水平に上げて、指で、来いと指示を出す。
アルファーの得物は両手剣、素手でも戦えたろうが、武器があると微妙な力加減ができるので愛用している。
「先に一撃を与えられた者を、騎乗偵察に連れて行くって言ったもんだから、最初は5人くらいだったのが、あんなになっちゃって」
ワッとアルファーに兵が掛かる、大剣相手では先に間合いを詰めた方が有利だ、それくらいは基本動作と言える。あれは接近戦には向かない。
元来持っている、剛剣ほどの長さは無いがそれでも充分威力はある。
刃が潰してあっても、痛いのは痛いので、うまく剣腹を使ってなぎ倒している。
後ろから掛かってきた者に、足で蹴りを入れ、剣で殴り飛ばす。
10人くらいに減ったようだ。
いつもは王宮と帝都の上空を偵察に飛ぶのだが、今回は雄大な自然の中だ、彼等は何とか光竜の背に乗る栄誉を得たいと必死だ。
「フフッ、誰も適わなかったら、私が乗ろうかしらねぇ」
二人になった。
細身の剣を巧みに操る女性剣士と、騎竜の腕もそこそこで数少ないアルファーの話が聴ける青年が残った。青年は剣から左右に持つダガーに持ち替えた。
アルファーの金色の眼が険しくなった。眉間にシワがよって、顔が怖い事この上無い。
おや、細身の剣の方は援護に回るようだ。盾の使い方がうまい、陛下の傍で見た事があった。親衛隊の方から何人か来たから、そのうちの一人だろう。
虎の子を貸すから、さっさと問題を片付けて帰って来い、と言う事か。
盾で抑えて、間合いからダガーで切り込むつもりだったのだろうが。
だが、アルファーの剣の打撃の重さが勝って、彼女はシールドごと飛ばされた。
「正に狂戦士ですな」
竜でそれってどうなの、とかも思うが。参謀の言葉を聞き流しながら勝負の最後を見届けるために、集中した。
彼は竜に逢いたくて、近衛兵になった青年だ。
あの仏頂面に多大な憧れを抱いており、心話が出来た時には涙を流して感動した。
妨害する者が居なくなったアルファーは、一度後ろに飛び退り、間髪入れず大剣を体ごと一回転させ、青年に殴りかかった。
あんなデカ物、そんな素早い動きが出来るとは想像もしなかったに違いない、彼は中腰の姿勢になり下から突きを入れるつもりだったのだろうが、これもまた後ろに吹っ飛んだ。
あの仔を倒すには、もっと組織的に動かなければ。
私だったらどうするかなぁと考えたけれど、アルファーの周りをピクピクして倒れている兵たちを何とかしなければと思って、馬を進めた。
「そこまでにしなさい、アルファー、最後に残った2人乗せて行きなさいな」
彼女は青年を抱き起こし、背中をさすっている。ま、そういう関係なんだろう。
『・・・重い、飛ぶのが遅くなるぞ』
「・・・空気を読め、そして眉間を揉め、怖いから」
チクショウ、いいなぁと周りから声が上がった、彼女と青年は顔を真っ赤にしている。
「何て重い剣、手の痺れが治まりません。私は辞退させていただきますので、彼を・・・」
「これも訓練と思いなさい、私は竜には乗れません、では困るんでね。立位と座位で乗ればよろしい、君はアルファーから立位訓練を受けていましたね」
「はっ、竜具を準備します」
青年はまだヨロついていたが、弾かれるように立ち上がり去って行った。
私はそっと彼女に近づき、そっと耳元で囁いた。
「たまには、良いだろう、アルファーは・・・」
「はい?」
彼女は続きをもっと良く聞こうと、顔を近づけた。
「鼻の頭をそっと撫でると、機嫌が良くなる」
『・・・聞こえているんだが・・・』
風をまとって竜体に変わったアルファーが、ヌッと顔をこちらに向けた。
あぁ、兵服やらベルト、靴やらが地面に散乱している。後で拾わなければ・・・私が。
「すまないが、難民がどこにキャンプを作っているかついでに確認してもらえるか? 危ない場所だと移動させたい。崖の下にキャンプ作って脱走兵に襲われて、崩落されたのは記憶に新しいだろう」
やっとこの間、停戦協定を結んだ二国。
中立である我が国に難民が流れこんだ。まだ彼らは自国に帰る力を持たない、リオンがたまたま視察に行って、崩落から1000人救った。支援金も馬鹿にならず、国庫を脅かすわけにはいかない。
後にも先にも、リンシェルンによって運び込まれたリオンを見て、あんなに絶叫したジュリアンを見たのははじめてだ。私も死んでいると思った位だったが、竜達が三日三晩、リオンに竜力を与え続け、ぽっかり目を見開いた時は、王族全員の腰が安心で砕けた。
緑竜が張り切りって竜力を与え過ぎて、前のめりに倒れていたが、回復したろうか・・・。
アルファーに着々と竜具が装着されていく。額当ての部分には竜力を込めて、障壁を展開するための金剛石がはまっている。
リオンの額当てのエメラルドは、竜力を込めすぎて、砕けてしまった。
ジュリアンの双子の弟、ユリアンが代わりを探しているはずだ。
神山にでも向かっているかも知れない・・・。卵も追って・・・。
『承知した、行くぞ』
二人が乗り込み、騎竜用のゴーグルを装着する、青年が立式で振り落とされないように手綱を持ち、彼女は竜具をぐっと掴んで座り、背を低くした。アルが何か青年に指示したのかも知れない。
離れろ! と誰かが叫ぶ。
金に光る鱗を持つ竜は、ふわりと2、3回はばたき、上空で一度旋回して国境に向かっていった。
光の軌跡を作りながら・・・。
リオンが怪我した下りは本編でも書きます。




