プリシラ side 1
私が竜卵が狙われていると知らせを受けたのは、ちょうど隣国の姫殿下の付き添いをしている時だった。
数年前からあった隣接する二国間の争いが、やっと終結を向かえ、中立を保っていた我が国での終戦締結の調停式の最中だった。
青空の下、大きな舞台の上で、左右に金と深蒼の竜がいる、我が国の力と知の象徴でもある2体は静かに調印の様子を見守ってた。
光竜の足元には、陛下の同腹の妹であるシャイナ殿下が、アルファーの持ち物である身長ほどの大きさの剣を背中に斜めに差している。
生まれつきの武人のような鋼の体を持つアルファーは、人型になっても剣技では誰も敵う者が居ない。
表情が乏しいので、いつも気難しく怒っているようで、竜になったその姿も威圧的なのもあって自分から近づく者は居ない。
唯一の例外はシャイナ殿下だったのだが、臣下の関係と言うより同僚というところだろうか。
騎竜としての腕も竜の中では最高で、シャイナはもとより、近衛兵と時間があれば陛下の親衛隊の訓練もしているようだ。
青竜の足元には私の同腹の兄、ジュリアン、兄は双子でもう一人はそのうち紹介しよう。
ジュリアンは陛下の片腕である宰相職に着いており、私も末席ながらその任を請け負っている。
双子のもう一人は外交の折衝などを得意としているので、始終国内外をうろついており、めったに見かけない。
青竜のリオンはコミニュケーション能力が発達しており、人の心を読むのがうまい、心の中で何を言っているのか、という具体的な事ではなく、心の色で心情が分かるのだそうだ。
人を楽しませたり、喜ばせたり、慰めたりする事が大好きで。意思の疎通が苦手な光竜と違い、広範囲で心話を展開する。私のもう一人の兄と言っても過言では無く、実際宮殿で一人になる事が多かった私の面倒を見てくれていたのはリオンだったりする。
『そこの、かわいらしいお嬢さん、僕と一緒にお茶しませんか? 』
建物の影でしゃがんでいても、見つけるのが上手かった。まぁ王族の気配を手繰っていたのかも知れないけれど・・・。
どちらの竜も、その性質からか、やさしく人を抱擁し仲間を大切にしている。
大昔はその性質を利用しようとした、愚王が居て、竜が全滅し国が滅んだと聞く。
その教訓から、我々は己から決して契約名と言われる名前を竜からは聞かない。
竜は、自分の力を抑える事ができるので、気に入った王族が入れば自分から近づき、そっと名前を教える。例え、身の破滅が待っていたとしても。
『僕がおかしくなったら、止めてね』
人の心を持っていても、やっぱり獣なんだよね。
僕も、アルファーも精神的には弱いのさ、大切な人を傷つけないようにするため、契約は
必要なんだ・・・。
でも、虚しいね、だって契約しているから、命令されて何でもやってると思われてるんだから。
好きで勝手にやってるって、プリは信じてよね。
信じるも信じないも、小さい時から双子の兄の頭を、ど突きながら勉強を見たり、仕事を手伝ったりしているのを見て育ってきたので。あんまり実感が無いのだが・・・。
信用の無い契約は、人間間であったとしても軋轢を呼ぶ。
私たちは兄弟が多い、母が違うだけで、その育つ環境が違うだけで。勘違いをしている者がいる。
アンジェラ姫、陛下の命とは言え卵を持って、彼の地へ向かった。
それを知ったリオンは一瞬眼を見開いた。
「間に合うわ、任せて、止めてみせますわよ。私あの人に負けた事無いの」
「もし、契約するとしても、唯一の存在とするべきですのよ、生まれたての仔に何が分かりますか」
『かわいい僕のプリシラ姫、だけど、危ないのはそれだけでは無い。卵を盗もうとした犯人が分かっていない、リンシェルンが調べてはいるけれど、何も分かっていないんだよ』
孤高の赤い竜リンシェルン、彼女は私と変わらない年齢でありながら、その赤い髪を翻し
国境の傭兵部隊を率いている。
今のところ国境も落ち着いているので、帝都に戻ってきたのは知っていたけど。
密偵みたいな事してたのね・・・。
内部調査などはアンジェラの仕事だけど、竜達も彼女は信用出来ないと言うところか。
『僕が飛べればいいんだけど、翼がボロボロでだめだ・・・。僕の竜具も金具から何から潰れているから、もう一度造ってもらわなくちゃならない』
竜具とは、竜の鎧みたいな物で、竜に騎乗する時の馬具の代わりにもなる。
「大丈夫、行ってきますわ。リオンは早く怪我を治療して元気にならなければなりませんわよ、兄様方のしょぼくれた顔、景気が悪くて仕方ありませんわ。リオンは私たちの家族で兄妹ですのよ、早く元気になって兄様達をいつものようにブッ飛ばしてください・・・」
いや、いつもブッ飛ばしているワケでは・・・。と言いながら、きれいな碧い竜星眼が溢れそうな涙で揺らめいていた。
乗馬は得意だ、街から街、馬を乗り継いで走り、とうとう軍の駐留地へ到着し、ルフォーを見つけて、卵は村に住む昔の世話係に出会い、そこに居た黒い竜にあずけたと言う。
何と言う事、無理に契約名を聞こうとしたですって?
アンジェラ、あの人は何を勘違いしているのかしら、お慕いしている殿方の名前を聞いているわけじゃないのよ。厚顔無恥とはこの事だわね。何故か自慢げに話すルフォーの足を思いっきり踏んで、走り潰れそうな馬に無茶をさせて走らせた。
馬はフラフラになってしまい、きっと後から迎えに行くからと、道の途中で放牧した。
それから色々とあって、追ってきたアンジェラに捕まり、白竜亭の二階に連れ込まれた。
明日に必ず会わせるからと言われたけれど、夜になれば抜け出すつもりだ。
宿の窓から空を見上げると、満天の星空が輝いている。
竜星眼と言われる、竜の瞳の謂われとなった星空は街の様に明かりが無いからか、まるで宝石箱のようだ。
二階からなら屋根づたいに降りられそうだと、足をかけた時、男性の低く優しい声のハミングが聞こえた。
俺のターンに戻れるのか!!
そしてのん気に鼻歌を歌っていていいのか!!
続く!! m9(*´∀`*)




