俺、揉まれる
髪の色は薄い茶色、零れそうな大きな瞳も薄い茶色だ。
軽くウェーブした髪は背中の半分位か。
膝丈の濃いグリーンのAラインのドレス、靴は履くのも脱ぐのも大変そうな、編み上げブーツと言うやつだ。
「おねえちゃん、大丈夫? ここ座る? 」
少女は、えぇ・・・と弱く返事をして、椅子に座ったかと思うと、ガンッと頭をテーブルに打ち付けた。
おぉ、今、かなりいい音したぞ、俺はひっそり額に流れた汗を拳でふいてジリジリとキッチンの方に移動した。
しかし、アンジェラに対して感じた、威圧感ほどキツイものは来ない。
俺をまだ竜と認識していないからか? それとも、王族によって違うと言うのか。
一番上の子が、少女や兄弟たちに水を配っている、俺はホットケーキの準備をしながら、チラチラと様子を見守った。
彼女はいっきに水を飲んだかと思うと、もう一杯!とコップを指しだした。
立ち飲み酒屋の、目の座った酔っ払いのオヤジのようだ・・・。飲んでいるのは水のハズなんだが。
さっき打った衝撃か、オデコが赤くなっている・・・。
「○○、料理はスピードよ! そして箸を渡すのは一番最後。何故だか分かる? それはね、テーブルの上に置いていった皿から平らげられて行くからよ! 」
最後にご飯を置いた、その時にはオカズが無くなって居た我が家。
箸は最後に渡す、これ鉄則。
まぁ姉が作ったメシが美味かったのもあったのだが、兄弟姉妹というのは遠慮が無いものなんである。
姉が結婚する前に、こんなことも最後だろうからと3人で香港に旅行に行った。
今となっては、いい思い出になったが、俺は一人フラフラする姉妹を抱え地獄を見た・・・。
「ギル、一番小さな子からあげてくれ。あのお姉さんは最後でいい・・・」
水差しを変えに来た、長男ギルバートに声をかけ、俺は皿が3つ乗ったトレーを渡した、後は俺がフォークと一緒に持って行く。
「ありがとうございます・・・、あの、お代はいか程でございましょうか?」
アンジェラで王族の印象最悪だったのだが、俺はちょっと戸惑った。
いや、分かれば態度が急変するかも知れないのだが・・・。
「いらない、貴女も、花摘んできたろう、それがその子達の代金だったんだ。だから気にしなくていい」
俺は背を向けながら言った。
「そうでございますか? それではお言葉に甘えまして・・・ムゴムゴ・・・・・・・」
「ギル、ギルバートちょっと来て」
「何?」
「俺、仕事に戻るから後は頼むよ」
「分かった」
面倒な事にならない内に、退散しよう、そうしよう。
まぁ、これは何と美味なんでしょう、そうだわ、レシピをいただきましょう。ジュリアンお兄様とリオンに食べさせてあげたいわ・・・。
独り言か・・・、ウフフフフと笑いながら、フォークを咥えている。
チラリと振り向くと、少女マンガのように花が跳んでいる幻想が見えた・・・。
「ラギにいちゃ、お父さんに頼んでいたの手に入ったから訪ねてくれって言ってたよ。最新のじゃなくて悪いけどって、でも・・・」
ギルバートが不安そうな顔をした、俺はその頭をクシャっと撫でた。
何か問いたげで、でも聞いてしまうと後悔してしまうような、そんな気がしているのかも知れない。
俺はずっと、この状態は夢なんじゃないかと、思っていた。
毎朝起きるたびに、長い髪がベットから零れているのを見るたびに、自分の周りに風が纏わりつくたびに。自分は変わってしまったのだと思わずにはいられない。
俺は、すごい漠然としているのだが、こっちに来る前、何かを探していたような気がする。
いや、違うな、誰かに逢おうとしていた?。
こちらに来た原因は何だと、暫く考えた結果、確かにそういう事を一瞬考えた。
まだまだ、知らない事が多すぎる。
「ギル、俺にもっと沢山の字を教え・・・」
バタン!!
いきなり店の扉が全開で開いた。
「プリィィィィィィ!! こんなところに居た!」
ハアハア言いながら、アンジェラが飛び込んできた。
ギルがびっくりして俺の足にしがみついた、逃げられねぇ・・・。
「プリ!、お前、陛下からイルナス王女殿下の接待役を仰せつかっていながら。どうして、どうして!」
「食事中ですわ、お控えなさって」
お控えなさって、って一瞬任侠映画のお控えなすってが脳内を横切る、どういう人だこの人は。
どこから出して来たのか、レースのハンカチで優雅に口元を拭きながら。いきなりの姉妹対決がはじまった。
「簡単な事ですわ、どこかのアッホーな王族が、早まって竜の仔に名前を聞かないように、監視役ですわよ、契約式まで本当は王族は決して一人で竜に会う事は許されないのよ。どうしてアルファーが泣きながら卵から手を離したと思っているの? リオンが守れなくて済まないと何度も謝っていたの、見なかったの、これではどこかの自害したという賊と、目的は一緒ではありませんの? 」
ホットケーキを食べて、頭に糖が回ったのだろうか・・・。
ペラペラと凄い速さで喋り始めた。マテ、待ってくれ、俺の情報収集能力が追いつかん。
監視役だと? 。
「でも、少し遅かったようですけども、貴女、黒竜の君に失礼を働いたようですわね。ルフォーも最低ですけども、平身低頭、誠心誠意、謝らなければなりませんわ。きっと怖かったはずですもの・・・」
おぉぉ? いきなり俺の話題へと発展したぞ、これはどうするべきなのか。しかし黒竜の君て・・・どうなのそれ・・・。この仔、あの仔と言われてきた俺、いきなりの地位グレードアップ、道端のペンペン草から胡蝶蘭へ、いやペンペン草にだって風情があるのだ悪くない、いやいやここでペンペン草について熱く語っている場合では無い。
アンジェラが唇を噛んだ。
「さあ、連れて行ってください。貴女もフードか何かで眼を隠さなければなりませんよ」
プリシラが右手をスッと前に差し出した。
「ルフォー、ルフォーは居りますの? 貴方の方がいいわ・・・」
プリシラの言葉で、アンジェラのした事がどのようなことで、王族が竜との関わりをどうしているのか。
一端が見えたような気がしたが・・・。
ここで騒いで欲しくない、そして俺も関わりたくない。
「店で騒ぐのなら、出て行ってくれ。迷惑だ」
分かった、拘束力があるのは竜としての自分に向けられた声と眼だ。
それが分かっただけでも、この人達と関わった甲斐があったというものだ。
まず眼を合わせること、そして声は後でそれに付随する形で拘束するのか、なるほどな・・・。
今、意識して語りかけてる相手が違う事と、俺をこの少女がまだ竜と認識していない事で、そういう力は発動しないという事だ。
でも、これって、竜に呪いを・・・と言うよりも・・・。
竜に好かれない様にする、王族に対する呪いじゃないのか?
実際、俺は引いてるし。
プリシラの様子から、その力を好んで使っているようには見えない。
契約する事に何か変化があるのか、それは相互に意味がある事なのだろうか。
「誠に申し訳ありませんでした、お騒がせ致しました。アンジェラ、この事は陛下にお伝えしますわよ」
ルフォーは居ない様だったが、アンジェラが荒く腕を掴んで二階へ上がって行った。
ちょいとプリシラがんばります、そして真の追っ手は登場できず・・・。




