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君に届くは竜の声  作者: 月野安積
第一章 麓の村
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俺、温める

「丸一日、持ってなくてもいいんだよ」


 卵をドーンと、座っている目の前に置かれ、途方に暮れている俺にアンジェラは説明した。

 もともと、この卵を主に温めていた竜は、光竜と言う男性体であったらしい。


 帝都と王宮の空中警備を近衛兵と一緒に担っていて、ルフォーも当番の時は光竜に騎乗して、一緒に空を飛ぶんだそうだ。

 卵と毎日接している内に、わが子のように愛着が沸いてしまって、ほぼ一年どうしても無理な場合が無い限り、片時も離さなかった。


「光竜から手紙預かってきたんだけど……」


 俺は手紙が読めなかったので、じいさんに読んでもらった。

 光竜は俺の存在を知らないので、ジジババに宛てた手紙だったけれど……。

 在り来たりな挨拶から始まって、何度も何度もよろしくお願いしますと書いてあった。

 先日竜園と呼ばれる竜たちの住居に不審人物が入って、卵を盗もうとした。ちょうど光竜は仕事中で、世話係に任せていたのだが、少し目を離した隙の事だったらしい。


「姉上に頼んで、光竜は直接ここに来るつもりだったんだけどね、飛んできた方が安全だったから」


 しかし、隣国へ向かう予定が繰り上がり、仕方なくアンジェラとルフォーに卵を託したのだった。


「ここは冬、要塞になるし、雪深くなると、飛んでくるしか方法無いから、王宮よりここが安全なんだよ、それと姉上の計らいで越冬訓練と称して、一師団峠に駐留する事になった、私は一週間で帝都へ帰るけど、ルフォーがそちらに残るよ」


「神山には竜気が満ちているから、そのままでいても、一週間ほどで孵るんじゃないかとは聞いていたけど、君が温めてくれるとなると、少し生まれるのが早まるかもね」


 俺はふと、疑問に思って聞いた。


「どうやって、竜力を入れてたんだろうか……」


 アンジェラがうーんと腕を組んで、卵を見つめた。

 竜力を入れていたかどうかは分からないんだけど、と。


「夜は抱きしめて寝てたらしいよ。姉上が心配して様子を見に行った時に、そうしていたらしい」


 俺はそーっと卵に手の平を当ててみた、ほんのり暖かくてトクトクと鼓動が指先に伝わり、一瞬手を離したけれど、両手で持ち直しながら膝の上に置いてみた。

 昔、子供の頃見ていたテレビで、小学生くらいの男の子が、鶏の卵を温めて孵す……というのがあった。自分の体に晒しか何かで、卵を固定して24時間温め続けるというものだったと思う。

 この世には雄が卵を温めるという鳥もいるが、何やら男としてのプライドが邪魔をして複雑な気分。


「ラギや、お前が留守の間に大工が来て、窓をなおしたのでもう寒くないぞい」


「よかった、毎日大変だったから……」

 やっと、あの貢物地獄から抜け出せるのか。

 今までの苦労の日々を、ふと思い出し、ありがとう大工さん!と心の中で手を合わせた。


 辺りはそろそろ、暗くなってきて、はあさんが蝋燭の日を灯し部屋の中がふんわり暖かくなった。

 一緒に夕ご飯をどうかと、じいさんが誘ったが、2人は白竜亭ですませるからと辞退して、家を去っていった。


「なぁ、ばあちゃん、じいちゃん」


「なんじゃい」


「俺、あの人たちに連れて行かれるのか?、鎖で繋がれて飼われるのか、あの人、言わなかったけど王族だろ、すげぇ威圧感があるんだ、目を逸らせてたらそれ程でもないけど、無条件に言う事聞きそうになる」


 ジジババは顔を見合わせた。

 俺は、ずっと疑問に思っていた事を聞いた。


「どうして、あの人に会わせたの?」


「偶然ではあったんじゃよ、お前が居るのもいないのも関係なく、竜卵を預かって欲しいと手紙が来たんじゃ、」


 俺は、ばあさん達を睨んでいたと思う。

 返答次第では、俺、卵持って逃げるつもりだった、あては無かったけど、この人たちは悪い人達では無い、ただ、この世界の理で俺という存在を蹂躙させるつもりは無い。この卵も。


 もともと、一ヶ所に居続けるつもりはなかった。


「──寂しいとおもったんじゃ……」


「えっ……」


「お前を隠す事も考えたんじゃが、それは本当に幸せなのかと思ったんじゃ、王族はな、竜が好きで好きでたまらない人達なんじゃよ、」


「それこそ、鎖で繋いで閉じ込めて、ずっと傍に置きたいと思う程の激情なんじゃよ、」


 俺、そんなのは、そいつらの勝手だと思った。

 だからと言って支配下に置いていいのか、思い通りにするために、それは違うだろう。

 名前がスルっと出そうになったあの恐怖、髪を捕まれても払えなくて、硬直した体。


 竜と王族の底知ぬ、呪縛。


「無理やり、名前聞かれそうになった……」


「うぇぇぇぇぇ!!??」


「ア……アンジェラさま、それはかなり強引な事をなさったんじゃなぁ、よっぽどラギが大好きになられたんじゃ」


 ばあさんが、いきなり奇声を発したまま、固まっている。ばあちゃん、アゴが外れるから口を閉じて欲しい……。


「家畜としてしか、見てないようだったよ、仕方ないか、俺、竜だしな」


「ラギや……」


「俺、寝るわ、飯いらない、」

 俺は卵を小脇に抱えて、居間を後にした。


 その後で、ジジババが、「お見合い大作戦、大失敗じゃったわい……」

 と、呟いていたのは、さっぱり知らない事だった……。


 俺はそのまま、ストンとした、ただ上からかぶるだけの寝巻きに着替え、

抑えていた力を開放してだだもれになり、卵を抱えて横になった。


 今のところ、この卵だけが俺と同類の存在であり、守らなければならないものだ。

 どうして俺は竜になったのか、家畜になる為だったのか。

 理不尽なこの世界に抵抗するために、俺はどうすればいいんだろう。


 ぎゅっと抱きしめると、トントントンという心音と、ほんわりと温かい感じが気持ちよくて、俺はそのまま眠ってしまったのだった……。


 どうやら、ぐっすり朝まで眠ってしまったようで、気がついたら窓から眩しい朝日が照りこんでいた。


 あ、卵。


「ヴッ!!」


 卵はあった、あったが、俺の長い髪の毛がどうやってかグルグル巻きになっていた。

「えぇぇ……何なのこれ、寝床から落ちないようにってこと?、どうやって解くよこれ」


 髪を卵の上からはずしていこうと、指を置いたその瞬間、俺は視線を感じて、ふと窓際を見た。

 これは本当にいつもの習慣で、丸にしか見えないスズメみたいな鳥とか、リスかモモンガか?といった小動物、変わったところではヘビが一文字になって窓枠に挟まっていた事がある、今でもそいつが一体何をしたかったのか、分からない……。まぁそんなのが窓によくへばりついたいたのだが、大工さんのおかげか、今日は何もなかった……。


「気のせいだったか……」


 ポ……ポッポー


 えっ!、俺は髪の毛でぐるぐる巻きになった、卵を持ち上げてガバっと立ち上がった。


 えっ、窓、入り口、天井と見て、そして床で俺の視線は釘付けになった……。


 俺の部屋の床は、板が張ってあるのだが、節の穴が一つ開いていて、親指と人差し指で丸を作ったのと同じ大きさなのだが、そこから首だけ出して、あいつが覗いていた……。


 ホッポー、ポッポー

 必死にもがいているのだが、首が挟まって出れなくなっているらしい。


「おまえ……何をやっている……」


 あまりに苦しそうなので、頭を指で押して出そうとしたが抜けない。


 この土鳩一体どこから入ってきたのか、俺は寝巻きのまんまで、部屋を出て外に出た。


「おぉ、ラギや起きたのかい?、卵預かるぞい……」

 じいさんが声をかけてくれたが、俺は卵を小脇に抱え、床下を探した。

家の横にブロック2つ分くらい、高さの隙間があって、そこにホフク前進で進んで行く。

 一体、朝から俺は何の訓練をしているのか。


 しばらく行くと、首から下だけの土鳩を発見した、俺は片手でズボッと引き抜く。

 そのまま、片手で卵を持ち、反対で土鳩をつかみ、今度は膝と肘を使ってズルズルと後退した。


 やっとの事で、ずり出て、はぁはぁと息が荒ぐ。

 土鳩を手から離してやると、そいつは逃げもせずに、俺を見つめたと思うと、いきなり卵の上にちょこんと座った。


「………」


 じいさんが俺を探しに来て、ホコリと蜘蛛の巣だらけの俺を見てびっくりした。


「何しとるの?」


 それは俺が、この土鳩に聞きたいわ。

 こうして、卵抱き二日目がゆっくり始まったのだった……。






















鳩の名前、考えなくっちゃ・・・。

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