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Truth Over  作者: 柊 天音
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第十話◆裏切り者は誰?◆



「火……はん」



『――――ん』



「火邑はんっ」


 少し鼻にかかる声で名を呼び、雪のように白い手で寝ぼけた俺の頭を撫でる。


『…………ぅん?』

「見て」

 そう言われ、未だ開かぬ目をこすり部屋の外へと向ける。



『――うわぁ』

「綺麗やねぇ……」



『あぁ』



 その日は、もうずっと降り続いていた雪が止んでいて、今も忘れえぬ、雲一つ無い快晴だった。








 *** ***




 ――ドシャッ!!



『――――冷てぇっ』  晴れ晴れしい空を見上げ、深呼吸する俺の頬に冷たい雪玉が当たる。



「火邑ってば間抜け〜」

 悪戯に舌を出し、俺を指差し笑う由弥と日向。




『……かっちーん』

 俺は足元一面に広がる雪を右手で掴み、思いきりぶん投げた。



「うわっ!?」

 そう声を上げたのは、呑気に雪だるまを転がすカガリと雪定。

『やっべ……』

 バツの悪い俺を見て、さらに笑う馬鹿二人。



「火邑ぁ〜?」

 ニヤリと笑うその手には特大の雪玉……



『わ、悪かったって、な?カガリ、雪定〜』



「問答無用!!」



『痛い、痛いって』

 そして丸腰の背中を一方的に狙われる俺。




 響く皆の笑い声



 忘れえぬ、何処までも高く澄み切った青空




 何よりも大切だと思える仲間



 誰よりも幸せなのだと思えた



 そんな日…………




 だけどそれは




 束の間の安息に過ぎない。



 ――ガタンッ



『――――ん』



 やがて夜になり、朝方澄み切っていた筈の空は、いつの間にか吹雪に変わっていた。

 それは戸口をガタガタと鳴らし、俺の睡眠を妨げる。



『……はぁ』

 そう小さく息を吐き、頭を掻く。


(くそっ)



 何だか今夜は眠れそうにない……




 ふと隣を見ると、いつもなら、スースーと寝息を立て眠っている筈の日向の姿が未だ無い。



(妓の所……か?)

 呑気なもんだ。

 そう思い、目を閉じた瞬間、“ガタン!!”と何かが大きな音を立てた。



『――!?』



 すかさず枕元の刀を手に取り、静かに構える。

 部屋を小さく照らす、たった一つの灯りがユラユラと揺れた。 ――瞬間、漂うのは鼻を突く(おびただ)しい



 血のニオイ。




 ガタンッと何かが倒れ込む音と共に目に飛び込んできたのは、血にまみれた仲間の姿だった。




 異変に気づいた皆が駆け寄る。

「おい、どうしたんだよ!?」

 震える声でその体を抱き起こす。

「……大丈夫?」

 と、心配そうな言葉が飛び交う。




 そして…………




『聞こえる?……一体誰に……誰にやられた!?』


 始まりの言葉を口にしてしまったのは――




「うっ……げほっ」

 血塗れの震えた指先は、俺達の間をすり抜けた……

 皆の視線がその先に集まる。




「……嘘だろ?」

「…………そんな……」



 信じられなかった




『……何で、アンタが?』




 仲間が仲間を手にかける理由など何処にある?



 それとも、




 この時既に、何かが狂い始めていたのだろうか?

 ずっと後の話になるのだが、全てを失った俺がたった一つ、理解した事がある。




キーワードはこの【俺】そして……【あの夢】




 だが、そんな事今はどうだっていい。俺はただこの現実から逃げだしたかった。




 “誰にやられた?”




 それは、決して口にしてはいけない禁断。






 それはきっと







 ……始まりの言葉だから。

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