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Truth Over  作者: 柊 天音
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第九話◆秘め事〜由弥〜後編◆

 初めは、返り血で赤く見えたのだと思った。




「うっ……」

 蒸せかえる程の血の匂いに、思わず口を押さえるが、間に合わない


「げほっ……おぇ……」

 嘔吐を繰り返すあたしを、彼は不思議そうにただ見下ろしていた。



『ふん、こんな野郎斬ったら刀が腐る……』



 あたしと変わらないだろう背丈の少年は、無造作に転がる主の亡骸の腹を蹴り、吐き捨てた。 未だ嘔吐しながらも、あたしは、それを酷く滑稽だと感じた。

 どんなに望んでも果たせなかった事を、あたしの願いを、彼は意図も容易く一瞬で奪ったのだ……


 息を切らし、喉を掻きむしる程の衝動の中、それでもあたしは静かに瞳を閉じる。

 恐らく、この場に居合わせたあたしの末路は主と同じ……それだけは、痛い程に分かっていた。


 それに、あたしを一瞬でも救ってくれたこの人になら、斬られても悔いは無い。



 そう思ったのに……




『此処に居るのはおめぇだけだ――』




「????」

 ――ザァァァ。と、縁側の暗闇の向こう、笹が大きく葉を揺らす


『だから、何処へでも行きな』

 そう言って朱童子はあたしに背を向け、部屋を出ようとした

「……ま、待って!!」


 惨劇を目の当たりにし、上手く立ち上がらない足を奮い立たせ、あたしはその背を追い掛けた

 言いたい事、聞きたい事は沢山ある。


 なぜ皆を殺したの?


 なぜあたしは斬らないの?


 貴方は何の為に――



 違う

 あたしの願いは……



「……って」

 心を侵食されてからずっと、流す事さえ奪われていた涙が溢れて視界を遮る



「連れ……てっ……て」


 何故、そんな言葉が口をついたのかは解らない。この人はあたしから全てを奪った人だ。

 でも、殺してはくれなかった……。自由をくれた。


 なら、あたしは見てみたい



 外の世界……、無心で人を斬る貴方の生き方。



 貴方自身を……



『…………』

 漆黒の装束に身を包んだ彼は、ピタリと足を止め、まんまるの月を見上げ聞こえぬよう呟いた


『掟に背く……か』


(俺らしくもないな)



「……あたしを……救って……」

 声を絞り出し、そう言うのが精一杯で、あたしは膝から崩れ落ちた。



『……勝手にしろ』


 そう言って小さな赤鬼は、温かな手を差し出した。


『名は?』


「……由……」



 不意に


 あの人の顔が浮かぶ。


 何故だろう、あんなに憎んでいた筈なのに……



 でも、捨てなければ


 感傷や想いは邪魔。


「……由弥」



 名を捨てたその日、


 最後に浮かんだのは――



 

 主の


 優しい笑顔だった……



 **** ****


 あれから

 五年の月日が経った。


 あたし達はいつも一緒だった


 一番近くで見てきた



 出会いは必然。



 あの日からずっと貴方は、あたしだけの味方。特別な存在……



 だから許さない。



 あたしから貴方を奪う者全て――




 許さないから。




「ねぇ……火邑、あんたの体に染みついてる甘い香は誰のもんなの……?」


 言い知れぬ程の孤独の中、彼女は、人知れず唇を噛みしめ自制を保つ。


 それでも


 コントロールの利かない心は、いつか暴走し、止まらなくなる



 壊れ行く先は一体、何処へ辿り着くと云うのだろう……?


 破滅?


 孤独?



 それとも…………


「誰か……あたしを助けて」



 由弥もまた、例外ではない。



 いつか、藤乃の存在が、由弥を壊したとしても…………








 to be continue……?

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