第七話◆夢の始まり◆
此処は……どこだ?
吹き抜ける風に目を開き見渡せば、此処がどこまでも広がる大きな森林の上、高く高くに聳える足場の悪い崖だと気付く。
その森林の先には、白く大きな建物が見受けられた。
薄汚れたような灰色の壁からは、2つの塔のような物が見える。
(どうなっちまってんだ?)
見た事も無い景色……感じた事の無い風
なのに……
この感情は何だろう?
悲しくて
悔しい……
“カツン”
――??
妙な金属音が足元にぶつかり、不意に目をやると、赤錆にまみれた仮面のような物が転がった。
まただ
また、あの夢
そしていつも、転がる仮面に手を伸ばそうとすると、決まって光に包まれる。
現実へと引き戻される。
『う……ん』
と、大きな伸びを一つ。目を覚ました瞳に映るのは、眩しい程に差し込んでくる朝日。
俺は頭をかきながら起き上がり、大きなあくびをした。
「くすくす」
『おっと』
あの夢を見る時は決まっていて……
『見てた?』
「えぇ、しっかりと」
藤乃と会うようになってからだった。
『おはよ』
「おはようございます」
あの夢が何なのかは分からない。懐かしいような、悲しいような……けど、そんな感情を抱いたって、きっとそれに意味なんて無いと思う。
『んじゃ、俺はそろそろ行くぜ』
着物の帯を結ぼうと立ち上がると、すかさず藤乃が手を伸ばす。
「はい、出来た」
ポンっと帯を叩き、柔らかく笑う。
『ど……ども』
それがちと、照れくさい
『じゃ、またな』
暖簾をくぐり、一歩足を踏み出すと、途端に冷たい風が駆け抜ける。
(寒ぃ……)
あれから季節は変わり、冬になった。
今日も今日とて、此処では男と妓がすれ違う。
相変わらずな別世界。その賑やかさは変わらなかったが、それでも町は白く染まり、太陽が雪に反射しキラキラとしていた。
俺と藤乃はと言うと、あれからずっと逢瀬を重ね、笑顔で過ごせるようになっていた。
俺の周りの野郎共は相変わらずだが、それでも何も変わらない日々を送ってる。
結局の所、変わった事と言えば、完璧だと思った呑馬での任務が失敗に終わったって事だけ。
結局、いくら待ってもあの男は現れなかった。
俺の腕が鈍ったのか、あの男には効かなかったのか……まぁいい。
そん時は流石に、ジジィの雷が落ちるんじゃないかとビビってたんだが、珍しくそれも無かった。
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「火邑、おかえり。あんたに文が届いてるよ」
里へと戻った俺に、由弥が駆け寄る
『文……?俺に?』
「女じゃない?甘い香みたいな匂いがするよ」
と、握り締めた文に鼻を近づけ愛想無く言い、由弥は屋敷へと入って行った。
(?……変な奴)
『ま、いいや』
大きな伸びを一つ。屋敷へと雪を踏みしめ歩く。
変わらぬ毎日。変わって行く季節
それでも
雪は月日をかけ、ただ静かに、しんしんと降り積もる。
それはまるで
直ぐそこまで来ている大きな変化を覆い隠すように、ただ、ひたすらに……
ずっと……