第一話◆我は忍びなり◆
生きた時代も風景も、大きく異なる彼の生き様を描く。彼の世界とジキルの世界は、どうリンクしていくのか。ジキルの末路は……彼が握っている――――
時は変わって文久3年。此処は京の都、也。
長屋が密集し、水路の側では柳が風に揺れる。
外灯の燈らぬ町並には今宵も月がよく映える。
武家の屋根瓦から見上げた月は、今宵も絶景かな
――と、まぁ、堅苦しい言い回しは抜きにするか。
キャラじゃないんでね。
それよりも、この国の行く末には眩暈がするね。
世間じゃ今や、尊皇派と佐幕派に別れ、戦が耐えない。
まぁそれ全て
影忍である俺にとっちゃ、関係のないこった。
そう言えば今朝方、可笑しな夢を見たがよく思い出せない……
う〜ん、気になる。
「火邑何してる?行くよ」
俺をそう呼ぶのは、頭から頭巾を被った女、由弥。歳は同じ16だ。
小さい頃から俺はよく、コイツと組まされる。
呼び名についてだが、勿論お互い本名じゃない。
生業の為の所謂“あだ名”
本当の名なんて、当の昔に捨てちまった。
『おう』
まぁ、いい
少しばかり俺達の事を話すとしよう。
早い話、俺達は忍びだ。
忍者と聞けば、格好いいやら、色んなイメージを抱く奴が居ると思う。
だけど実際じゃあ、俺達忍びは、
透波者や、乱波者なんて呼ばれてる。今で言う“スパイ”みたいなもんさ。
俺達は姿を見せちゃならねぇから、敵とは滅多に真っ向から戦わない。
飛び道具なんかも使うし、卑怯な手段だって使う。
だから、いつの間にかそんな異名が着いちまったんだろうなぁ。
戦がある内はまだいい。忍びの末路なんて、たかが知れてる
仕事が無くなりゃ、乞食になるか盗賊になるしかない。
今だってそうさ。
食うもんが無けりゃあ、掻っ払うまで。
「火邑、何それ……」
由弥が、俺の右手の獲物(※武器の事)を見て言う。
『これかい?』
俺達は屋根の上で立ち止まった。
『かっぱらった』
「…………」
由弥は呆れて物も言えない。といった感じ。
『まぁ、見ろよ……』
俺はニヤリと笑うと鞘から本身を抜き、空高く掲げた。
それは月に反射し、ギラリと光る。
「……綺麗」
由弥が呟く。
『だろ?二尺二寸五分の名刀“鬼火”さ』
俺は刀を仕舞った。
「鬼火?……ふふ、あんたにピッタリだね」
『――だろ?』
俺の名は火邑。
その由来は、火のような赤みがさしたこの髪の色
「あんた、髪切ったら?」 風に靡く、俺の纏め髪を見て由弥が言う。
俺は華奢な方だから、あまり違和感はない。
『やだね。女術に便利なんだよ』
「あっそ。……ねぇ、そろそろ屋敷だよ」
由弥が指さす林の先に、俺達の暮らす集落が見えてきた。
そこは、高い山に囲まれた場所。
『気が重ぇなぁ……』
俺はポリポリと頭を掻いた。
「ふふ、頭はアンタに厳しいからね」
『……うるせぇ』
――今日は満月。
様々な任務をこなし、俺達は生きている。