第六話◆別れ◆
ヨシュアの死……ジキルの前に現れる醜い道化。その全てに決着をつける為、彼は今旅立つ。ジキル、そして姫君の恋もまた、終局を迎える。
さっきまで、俺が見ていた物全てが……夢?
訳が分からなかった
理解しようが無いのだ。
たけど、違和感は俺の心に小さな影を落とす。
アイツが口にした
“幕あい劇”の言葉そしてヨシュアの……事。
俺には何故か、それ全てを確かめる義務があると感じていた。
そしてそれが、どんな真実であっても受け止める……そう決めた。
ふと気付けば、
意識を取り戻した俺の傍らで、わんわんと子供のように泣く彼女……
ただ、愛しいと思った。
俺は、そっと彼女の頭を撫でた。栗色の髪がサラリと揺れる
「ジキ……ル?」
『……ぃました』
彼女の、あの言葉は夢じゃなかったと思いたかった。
『俺はずっと……』
例えそれが
『貴女が……好きでした』
親友を裏切る事になっても……
そして――
『永遠に愛する事を誓います』
「……誓います」
俺達は
それから直ぐに、教会で二人だけの式を挙げた。
鐘の音も無い、誰も居ない二人だけの儀式
それは勿論、正式なものとは言えず【ごっこ】だったが、二人の中で永遠を誓うには充分だった。
不謹慎なのは分かっている。だけど、俺にはもう時間が無い。
だからせめて、最後に、最後に想いを遂げたかったんだ……
いつもの部屋、いつもの景色。だけど今日は何もかもが違う。
帰り道も、見上げた空も、揺れる木々も、何もかもが美しく見えた。
そして、隣にはスヤスヤと寝息をたて眠る彼女……
ただ、ただ
――幸せだった。
両親の顔も知らずに育った俺が手にした、最初で最後の幸せ。
愛しさで涙が出るなんて、知らなかった。
街の人達同様、
俺達も、互いにヨシュアの事を口にする事は、とうとう最後まで無かった。
だから彼女は、ヨシュアの死を未だ知らない。
それでいいと思った。これ以上悲しませたくなかったから……
寝静まったのを見計らい、俺は一人、ベットから抜け出す。
彼女を起こさぬよう、そっと……
愛しい寝顔を見つめ、その髪に小さなキスを落とす
(ごめん……ずっと一緒だって約束したのに……)
約束、守れそうにないや。
俺、貴女に出会えて本当に良かった。
どうか、俺の分まで幸せに……
外は白くなり始めた、もうすぐ夜があけてしまう。
(もう、行かなきゃ)
剣を強く握りしめ、俺は扉へ向かった。
何度も、何度も振り返りながら。
何も知らず眠る彼女を見つめ、そっと扉に手を掛ける
『さようなら。ウイユヴェール……』
――パタン。
こうして……
俺の短かすぎる幸せは
静かに幕を閉じた。
城を出た俺は、一人あの岩山へ向かう。
何があっても大丈夫、そう心に決めて――
しかし――
この時すでに、俺は大きな間違いを犯していた
そして
その事を……俺は
一生後悔する事となる。
〜* 別れ *〜