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Truth Over  作者: 柊 天音
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第四話◆幕開◆

「岩山に来い」と言われたジキルは覚悟を決める。そんな中、彼女はジキルの元を訪れる。そして、悲劇は幕を開け始め……

 この城の敷地内には、左右に塔がある。

 東の塔の最上階には俺の部屋が、西の塔には未だ帰らぬ親友の部屋……

            

 今まで暮らしていたあの小さな教会には、もう随分と足を運んでいない。

 毎日の稽古やら、任務やらで暇が無いのも理由の一つ。

            

 此処は少々手狭だが、最上階だけあって見晴らしもいい。

            

 俺は錆びて堅くなった窓を開けると、遠くに見える森を見つめた。

 その先に在るのが、奴が言っていた場所……

            

 岩を切り崩したようなそこは、岩山と呼ばれ、中は深い洞窟になっているらしい。

            

 “らしい”と言うのは、今だかつて誰も足を踏み入れた事が無いからだ。 

 足を踏み入れたが最後、帰っては来れぬとも言われている場所。

            

 そんな所に何が在ると言うのか……

            

 それよりも、彼女の傷は癒えただろうか。熱は?

 傷が残らなければいいが……

            

 あの日から数日が過ぎたのだが、俺は彼女の様子を見にいく勇気が無い。

 正直、会わす顔もないんだ。

            

 外には西日……

 もうすぐ日が暮れる。せめて最後に……逢いたい。

            

            

            

「…ジ…キル」

            

――!?

            

 ベットに横になり天井を見ていた俺の耳に、聞き覚えのある声が……

 見れば、壁にもたれ肩で息をする彼女の姿が、そこには在った。

            

 熱が苦しむのか、ふいに倒れるその体を受け止める。

            

『こんな体で!!どうして……』

            

 その言葉に彼女は顔を埋め、静かに言った

            

「ただ、逢いたかった……」と。

            

『……え』

 思わず押し黙る俺を、彼女の潤んだ瞳が見上げる。

            

「……貴方が……好き」            

 夢……みたいだった。

            

 こんな日が来るなんて

            

 でも……

            

『俺……は』

 長い沈黙の中、ゆっくり口を開くこうとした俺は、思わず顔を上げた。

            

 兵士達の慌ただしい声がする。おそらく姫を捜しているのだろう……

            

            

「ジキル、何?言って?言って下さい……」

 彼女が俺の服を強く握る。

『……』

 俺は、ぐっ、と目を閉じた。

            

『俺は……騎士です。貴女とは……』

 兵士の声が近くなる

            

『……身分が違う』

 彼女の体を勢いよく引き離した瞬間扉が開き、兵士が部屋へと入る。

            

            

『……お連れしろ』

            

「はっ」

 片膝をついていた兵士達が立ち上がり、彼女に近づく。

            

「嫌!!……嫌よ、離してっ!!いやぁぁぁ」

 兵士に抱えられ、彼女が叫ぶ。

            

 俺は背を向けまま、それを見送った。    

                        

――パタン

            

 と、扉が閉まり、彼女の声が遠くなる。

 俺は扉にもたれたまま、ズルリ……と座りこんだ。

            

            

 愛しているのに

 想いは同じなのに……

            

 俺の頬を、静かに涙が伝っていた。

            

 ****          

            

 それから、

どれ程経っただろうか……ふと、嫌な感がして目を覚ます。

 どうやら俺は、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

            

 それにしても、何だか外が慌ただしい。

 何事かと俺は窓を開けた……が

            

『――!!?』

            

 窓に立つ俺の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

            

 さっきまでの静かな夜は、一瞬にして消えさっていて

 緑が美しかった街は火の海と化し、人々は悲鳴をあげ逃げ惑う。

            

            

 俺は息を飲んだ

            

            

 まさに……地獄絵図だ。

            

            

            

「さぁ、幕あい劇に興じよう……」

            

            

『!!!!』

 俺の頭の中に“奴”の、薄気味悪い声が響いた……

            

            

「クククッ……」

            

            

            

 悲劇は幕を開ける

 静かに……            

            

            

            

            

            

            

            

〜* 幕開 *

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