第一話◆想い◆
子供達が消えていく……不可解な事件を解決すべく、二人は森へ行こうと話し合う。だが、親友の口から出た言葉は意外にも……?悪夢へのカウントダウンが、今始まる……
部屋の真ん中に位置する大きなテーブルで、俺達は向かい合っていた。
大理石で造られた、しっかりとしたテーブルは、ひんやりと冷たい。
「森には俺が行こう。ジキルは残ってくれ」
テーブルに両肘をつき、ヨシュアが口を開く。
『なっ……』
急に立ち上がった為、椅子はガタンっと、音を立てた。
「聞け……俺もお前も歳は若いが、隊長だ。
それにお前は親衛隊、そうだろう?」
その言葉に、俺は渋々と椅子に腰をおろした。
『なりたくてなった訳じゃないさ』
俺は口を尖らせた。
何かとかったるいしね……
「確かにな。でも、お前の剣の腕を評価されての事だ」
『…………』
そう、
あの大会のもう一つの目的は、歳にこだわらずより良い騎士を選り分ける事。
そして、
ヨシュアは騎士団長に、俺は近衛兵長になった。
ただ、俺の場合は最初から隊長に任命された訳ではない。
悔しいけど、剣の腕は素人だったからね……
だから、ただひたすらに腕を磨き、その地位を手にしたのだ。
『でも、どうして俺が行っちゃダメなんだよ!?』
ま〜た子供扱いかよ。
「…………」
『な、何だよ!?』
「……親衛隊の役目を忘れたか?」
ヨシュアがニヤニヤしながら、からかう。
『ぐっ・・・・』
「親衛隊の任務は姫の護衛だ。俺が留守の間なら尚更だろう?」
『……分〜かったよ』
俺は頬杖をついた。
「くれぐれも彼女を頼む、彼女は大切な……」
『婚約者……だろ?』
流石に聞き飽きたよ。
「よろしい!!では、早速俺は出掛ける」
『えっ、もう行くのか?』
「善は急げってな」
ヨシュアはそう言うと、足早に部屋を出て行った。
『ハッ、流石……仕事が早いね』
一人残された俺は、テーブルに顔を伏せ、溜め息をついた。
『大切な婚約者、か』
そう、婚約者……だ。
半年経った今でもね。
何て言うか……
しきたりや準備なんかで、二人はまだ結婚していない。
それどころか結婚するまでは“顔を合わせてはならない”等と云う、ふざけたしきたりまであり、
二人は同じ城に暮らしながらも、顔を合わさないまま半年が過ぎていた。
それに引き換え俺は……
――10日後。
絨毯の敷かれた長い長い通路を、俺は急いで歩く。
用件は分かってる。
ヨシュアが城を出てから、もう10日が過ぎようとしているのに、
いつまで経ってもアイツは帰らない。
流石に彼女も心配になったのだろう。
そりゃそうか……
本当なら、今頃二人は式を挙げている事だろう
いや、そんな事は今、問題じゃない。
何だか胸騒ぎがする……何故アイツは帰らないんだ?
まさか――
いや、アイツに限ってそんな事は……
『……クソッ』
それにしても、相変わらず無駄に長い廊下だ――
ノックして部屋へと入り、俺はひざまずいた。
『お呼びで……』
――――!!
言葉を発したと同時に、彼女が俺の胸に顔を埋める。
『なっ……』
「――――ぃっく」
彼女の手が、ぎゅうっと俺の服を掴む。
『!!』
(……泣いてる)
俺は何も聞かず、抱きしめる事もせず、そのままの体勢でいた。
ふと部屋を見渡した俺は、思わず顔を上げた。
最後に彼女の部屋へと入ったのは10年程前だろうか。
俺は親衛隊……つまりは彼女の護衛が仕事だ。
だからヨシュアと違い、毎日顔を合わす。
だが、部屋に呼ばれた事等これまで一度も無い。
驚いた――
この部屋は、あの頃のままだ……
昔と何一つ変わらないこの空間は
俺達が思春期の年頃を迎えると共に、身分の差から会う事を許されなかった事への淋しさ
そして……
孤独な彼女の心を表しているようだった。
時間の経過を恐れたのが見て取れる……
彼女らしい真っ白な壁には、花で結った冠が造花になり飾られていた
あの頃と何一つ変わらぬまま……
〜* 想い *〜