第九話◆決着◆
幼いながらも、決意を胸に出場を決めたジキル。民衆の歓喜の声が包む中、彼を待ち受けていた相手とは……?
扉を抜けたジキルを、民衆の歓喜の声が包んだ。
あの部屋から出たからなのか、やけに空気がうまく感じる。
そんなジキルの目の前には、
戦うにはただっ広い……
荒んだ色の石で造ったような即興の舞台、そして
それを囲む何十人もの街の人々の顔があった。
耳が痛い……そう思いながらも、少し遠くに居る相手を見る。
暗い部屋から出た事で、相手の顔は良く見えない。
彼は一人佇んでいた。
だが、誰だかは直ぐに察しがついた。
間違いない……あれは
『ヨ……シュア』
嬉しくて、言葉を交わそうと彼に近付いた。
だが……
そんなジキルの目の前にはもう、刃の切っ先が迫っていた。
咄嗟に剣を抜き、それを弾いた。
互いの剣を交えて力を押し合う。
(ヨシュア……どうして)
力では無く、戸惑いから腕が震えた。
長く感じる程の押し合い。ジキルは躊躇した。
(何で……何で…何で!!)
何のためらいも無く、自分に刃を向けたヨシュア……
ジキルは目の前が暗くなった気さえした。
(どうして……)
だが
(えっ……)
葛藤するジキルは思わず顔を上げた。
(これは――)
間違いない。
あの時と同じ……
あの…甘い…香り。
交えた剣の先に彼を見た。彼もまた、自分を見ていた。
――ゾクッ
瞬間ジキルは、暑さからでは無い汗を感じた。
親友の目が……殺意に満ちていたから。
綺麗だった筈の碧い瞳は血走り、思わずジキルは凍りついた。
蛇に睨まれた蛙……
正にそれだった。
次の瞬間、剣はジキルの手から離れていた。
いとも簡単に……
民衆の手によって撒かれた花びらが、彼の鼻先を霞めては舞い落ちる。
見つめた先には弾かれた剣があった……
それを見るジキルは、唇を頑なに閉じる。
決着が着いたのである。
暫くぶりに見る……勝者である親友の姿。
耳辺りの長さだった筈の金色の髪は、今にも肩にかかりそうな程伸びていて
胸板は厚く、袖から露出している腕は
自分よりもずっと逞しかった。
ほんの2ヵ月程しか離れていなかった筈なのに、
久しく見るその姿は自分よりもずっと“大人”に見えた。
座りこんだままのジキルに、ヨシュアが近づく。
呆然としたままの自分の前に、手が差し出された。
ジキルは、恐る恐る彼を見上げた。
その顔には昔の自分を見るような、温かい笑顔があった。
ジキルが手を取ると、彼は前のように無垢な笑顔で、ジキルを引き上げた。
さっきのは何かの間違いだ。
ジキルはそう思う事にした。
だって
今、自分の手を取って笑っているのは
紛れもなく自分の大切な親友、ヨシュアなのだから……
そう――
彼は大切な親友だ。
何があってもそれは変わらないと思っていた。
何が……あっても。
〜* 決着 *〜
少しややこしいですが、第一話と第二話の流れを詳しく書きました。