声で表情が想像できる親しさ
昼食を終え教室に戻ってくると、いつもは清水さんと隣のクラスでお昼を食べているはずの菅谷が何故か私の机で寝ている姿が目に入った。
(何してんだか……。)
近づいてみるも起きる様子のない菅谷。
悪戯心が働いて、買ったばかりのペットボトルを相手の首裏にやれば「ヒィッ」と間抜けな声を上げて飛び上がった。飛び上がった際に足を机にぶつけて教室に居た人たちに笑われるあたり、流石菅谷だ。
「ななな、何して……!?」
「飲む?」
「あ、サンキュ。って違ぇ!!」
「飲まないの?」
「や、飲むけど。ってじゃなくてさ、伊藤、お前昼食どこで誰と食ってた?」
「お昼? 部室棟で一人で食べてたけど?」
「はっ!? 一人で!? 何で!? ってじゃなくて、先輩とかとは……?」
菅谷の意図することが分からなくて首を傾げ、分かりやすく言うように促すが、対する菅谷も何故か言いにくい理由があるようで頭をガシガシ掻きながら、歯に何かが詰まった時のように顔を歪める。
「どうしたの?」
「だからっ!! お前が――っやっぱいい」
釈然としない菅谷の様子を気に掛けつつも、予冷が鳴ったことで席に戻ってしまった相手に訪ねることなど不可能で、私は結局あまり集中できないまま午後の授業に臨んだ。
身に入らなかった授業も終わり、購買に飲み物でも買いに行こうと教材を机にしまったとき、耳が、スタスタとどこか特徴的な足音を捉えた。
(この足音……先輩のだ!!)
そう判断した瞬間、近くに居た友人に「誰が来ても、伊藤はもう帰ったって伝えて!!」と状況を把握できていない相手に半ば強引に取り付け、カーテンの後ろへと隠れた。
部活に向かう生徒と帰宅を急く生徒で入り乱れる廊下の喧騒の中、たった一つだけの足音を捉えることが出来たその理由を理解することもなく……。
「わっ、中西先輩!!」
「こんにちは、えっと伊藤さんいる?」
「あ、はい。えっと……あれ?」
「あ、あのっ!! 伊藤さんなら授業終わってすぐに帰りましたっ!!」
「……そっか、ありがと」
(あ……、今苦笑した。)
見ていないのに、相手の表情までが口調から易々と想像できる。それくらい、いつの間にか私は先輩と親しくなっていたんだ。
そんな些細なことを考えていたら、いつの間にか先輩の声は聞こえなくなっていて。
ほぉっと下を向いて息を吐き出す。
先輩の私に対する想いに気付き、それから避けだして一週間――
いつまでもウダウダグジグジしてる自分には呆れるものの、それでも先輩の前に顔を出す決心がつかない。ひどく自分勝手だとは分かってるけれど……。
(どうしようかなぁ……)
心の中で呟いた瞬間、頭に影がかかる。
へっ?と間抜けな声を上げながら見上げた先には、いつになく真面目な顔をした菅谷が居た――
「伊藤、行くぞ」
(どこへ――!?)
今回は微妙なところで切りました。申し訳ないです。
終わりも近いのでクライマッスクへもっていくために仕方なくorz
しかし、書いた本人もこんなところで切ったら面白くない(-_-;)