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俺にしてみない?

 自分が、親友の幸せを心の底から喜ぶことが出来ない人間だと知ったのはつい最近のこと。

 そこには、その親友が私の好きな人だからっていう理由があるのだけれど。

 たとえそうだとしても、私を信用してるといった態度で笑顔を毎日向けられたら罪悪感というものが積もるもので……。


(泣いて、泣いて、泣きまくって。もう菅谷のこと応援できるって思ってたのに。)

「こんなにも自分が狭量だなんて思ってもみなかったなぁ……」

 気持ちを切り替え、相手の幸せを祝うように努めてはいるけれど、それでも時々、自分でも誤魔化しようのない痛みに胸を突かれる。


――なんで、菅谷の横に入れるのは私じゃないの? なんて図々しいことを思ってしまう。

「少しずつ、菅谷とは距離を取っていかないと駄目かなぁ」

 親友が自分の幸せを祝福してくれていないと知ったら、アイツは絶対ショックを受けるだろうから。

 せめて気づかれないように離れる努力でも……。



「いーとうっ!!」

「うっわ!? 何っ!?」

 突然目の前に翳された掌に思わず素っ頓狂な声を上げ、後ろを振り返れば視線の先に居たのは、それまで私の頭を占めていた菅谷。


「もう。なんなわけぇ?」

 急にこちらをビックリさせたことに対して非難する声を上げれば、菅谷は悪びれもせず、真っ白の歯を見せてカラカラと喉で笑った。

「ちょっとー!!」

「いや、俺悪くないっしょ。伊藤、最近ボーっとしすぎなんだよ。なんか悩みあるんなら聞くぞ?」


――あなたとの距離の取り方に悩んでます。

 なんて言えるはずもなく。


 胸中で大きなため息を吐き、菅谷に向き直る。

「ボーっとしてるのは前からですよーだ。それより、菅谷は随分と幸せそうだねぇ」

「そりゃあ勿論? 親友のお前はいるし、可愛い彼女もいるし?」

 真っ先に自分が言われたことに対して赤くなりそうな頬を必死でなだめる。


「……へー、そりゃあ光栄で。でも、カップルって付き合ってからが大変っていうからね。そんな余裕こいてられなくなるんじゃないの? スガヤくん?」

「おっまえ……!! 縁起でもないこと言うなよなー。大丈夫、李亜とは超順調だから」

「……あっそうですかー。惚気はいいからとっとと行きなよ。清水さん来てるよ」

 私の言葉に弾かれたように視線を扉へと向けた菅谷は、彼女の姿をその目にとらえると蕩けそうな顔を浮かべ、彼女へと近寄っていく。

「じゃあな、伊藤」

 返事の代わりに手を振りかえし、少ししてから席を立って屋上へと向かう。

 いつも通り、ピンで鍵をこじ開け、侵入し、空を仰いでから思いっきり空気を肺に取り込み、発散する。



「菅谷のバッカヤロオぉぉぉー!! 清水さんのことはあっさり呼び捨てにしてぇっ!! 私の名前は知らないのかってんだー!! ……なんて、そんなわけないんだけどさ」

 スガヤが自分の名前を知らないはずもなく。ただそれは親友と彼女の差なんだろうと溜息を吐いた。


「ははっ、面白いなぁ、お前。独り言が多いのなんの」

 突然聞こえてきた覚えのない声に驚いて振りかえれば、居たのは確か去年の学祭でミスターなんちゃらとかに輝いていた学校一カッコイイと有名な先輩。

 でも、私は菅谷一筋だったわけだから、そんな先輩のことになんて詳しくなくて。


「……誰ですか?」

「中西ってんだ。よろしく。ところでさ、君、俺と付き合ってみない?」

「へっ……?」

 全く知らない先輩。

 なのに、どこか菅谷が浮かべる笑みと酷似した笑顔の先輩の告白に、胸がどうしようもなく高鳴った――

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