第5話:【閑話】食後のひとときと、成長の軌跡(ステータス)
第5話:【閑話】食後のひとときと、成長の軌跡
アーマードボアの分厚いガリバタトンテキを胃袋の限界まで堪能した翌朝。
トウヤは【拠点創造】で展開したマジックテントの中で、食後のコーヒー(現代のドリップバッグを持参したもの)をゆっくりと啜っていた。
足元では、クロが仰向けになって無防備に腹をさらし、スースーと規則正しい寝息を立てている。美味しいお肉をたくさん食べて、よほど満足したのだろう。
「ふぅ……。ここ数日、少し飛ばしすぎた気もするな。今日は第3階層の探索はお休みにして、拠点でのんびり身体を休めるとするか」
『悠久の大迷宮』は逃げない。焦らず、急がず、確実に。それがトウヤの掲げるスロー攻略の信条だ。
マグカップを小さなテーブルに置いたトウヤは、ふと思いついて空中に向かって指をスライドさせた。
「そういえば、レベルアップのアナウンスは何度も聞いてたけど、ちゃんとステータスを確認してなかったな。……『ステータス・オープン』」
トウヤの言葉に反応し、空中に半透明の青白い光の板――ステータスボードが浮かび上がった。
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【名前】 トウヤ
【種族】 人族
【年齢】 20
【職業】 探索者(遊撃手 / キャンプマスター)
【レベル】 12
【HP】 280 / 280
【MP】 150 / 150
【筋力】 C
【敏捷】 B+
【耐久】 C
【魔力】 D
【固有スキル】
・拠点創造 Lv.4(結界強度↑、空間拡張↑、魔力コンロ火力↑)
・異空庫容量拡張 Lv.3(冷蔵・保温機能あり)
【戦闘スキル】
・短剣術 Lv.5
┗ 派生:暗殺者の歩法 Lv.2
┗ 派生:急所突き Lv.2
・弓術 Lv.5
┗ 派生:精密連射 Lv.3
・従魔術 Lv.1(※特殊条件:胃袋掌握により成功率大幅UP)
【生活・生産スキル】
・解体術 Lv.4
・採取 Lv.3
・気配察知 Lv.3
・現代調理術 Lv.MAX(異世界食材補正)
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「おお、全体的にかなり上がってるな。レベル12か。最初の頃がレベル1だったのを考えると、数日でこれは結構なハイペースじゃないか?」
トウヤは顎に手を当ててステータスボードを眺める。
目を引くのは、やはり各種スキルの成長だ。特に【短剣術】と【弓術】の派生スキルである『暗殺者の歩法』や『精密連射』のレベルが上がっているのが大きい。昨日のアーマードボア戦で、クロの動きに合わせて一瞬で急所に踏み込めたのは、このスキルレベルの恩恵によるものが大きかったのだろう。
そして、最も彼らしいと言えるのが【固有スキル】の『拠点創造』のレベルアップだ。
「結界の強度が上がったのは安心だし、空間拡張でテントがさらに広く使えるようになったのも嬉しい。……お、魔力コンロの火力も上がってるじゃないか! これなら、中華鍋で高火力の炒め物も作れるかもしれないな」
迷宮探索において、普通の冒険者は「いかに戦闘スキルを上げるか」に腐心するが、トウヤにとっては「いかにキャンプを快適にし、美味い飯を作るか」が最重要課題である。
さらに、『従魔術』の項目にある「※特殊条件:胃袋掌握」という一文を見て、トウヤは思わず苦笑した。
「胃袋掌握って……システム側にも『飯で釣った』って認定されてるのかよ」
呆れつつも、足元で寝ているクロの頭を優しく撫でる。
すると、撫でられたクロは目を覚まし、「ワフッ」と短く鳴いて起き上がった。
「おはよう、クロ。せっかくだし、お前のステータスも見せてもらうぞ。……『ステータス・オープン』」
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【名前】 クロ
【種族】 シャドウウルフ(個体変異)
【主】 トウヤ
【レベル】 15
【HP】 450 / 450
【MP】 200 / 200
【筋力】 B
【敏捷】 A
【耐久】 C
【魔力】 C
【アクティブスキル】
・噛み砕く牙 Lv.5
・疾風駆け Lv.4
・影分身 Lv.2
・ヘイトコントロール Lv.3
【パッシブスキル】
・闇視 Lv.MAX
・気配察知 Lv.4
・隠密行動 Lv.4
・悪食耐性 Lv.2
・主人の料理狂信 Lv.MAX
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「……おいおい、ツッコミどころが多すぎるぞ」
トウヤは思わず声を上げた。
まず、レベルが15とトウヤよりも高い。シャドウウルフが元々中層クラスの魔物であることを考えれば妥当かもしれないが、注目すべきはそのステータスの高さだ。敏捷【A】は、クロのあの目で追えないほどのスピードを裏付けている。
「アクティブスキルも充実してるな。昨日の『影分身』はレベル2になってるし、『ヘイトコントロール』があるから、あれだけ敵を引きつけられるのか。俺の遊撃スタイルと完全に噛み合ってるわけだ」
トウヤが感心して頷くと、クロは褒められているのが分かるのか、誇らしげに胸を張り、尻尾をブンブンと振った。
「ただ……パッシブスキルの『主人の料理狂信 Lv.MAX』ってなんだよ。どんだけ俺の飯が好きなんだよ、お前」
「ワォーン!!(大好き!!)」
まるで言葉が通じているかのように、クロが元気よく吠えた。
本来、シャドウウルフは血の匂いを好む獰猛な魔物のはずだが、クロのステータスからは完全に「トウヤの作る美味しいご飯を食べるためだけに生きている」という強烈な意志を感じる。
「ははっ、まあいいさ。お前が俺の飯を美味そうに食べてくれるおかげで、俺も作り甲斐があるからな」
トウヤはステータスボードを閉じ、コーヒーを飲み干した。
二人のステータスを確認し、自分たちが確実に強くなっているという手応えを得られたのは大きな収穫だ。連携の形も定まりつつあり、これなら第3階層、そしてその先の階層へも安全に進んでいけるだろう。
「さて、ステータス確認も終わったことだし。クロ、今日は完全休養日だ。昼飯は昨日採ったケイブポテトをマッシュして、チーズと合わせてグラタンでも作るか。夜は、ホーンラビットの肉をじっくり煮込んだビーフシチューならぬ、ラビットシチューだ」
「ハッ、ハッ、ハッ……!」
グラタンとシチューの詳細は分からないものの、「絶対に美味い肉料理が出る」と察知したクロは、目を輝かせて涎を垂らし始めた。
「よしよし、待ってろよ。極上の迷宮キャンプ飯を作ってやるからな」
過酷な大迷宮の片隅で、トウヤとクロの休息の時間は、美味しい匂いと共におだやかに過ぎていくのだった。




