第8話:質量爆撃と「踏み抜き防止鋼板」
『警告。大ネズミの群れ、戦闘区域へ到達。個体数20超。リエの生存確率は、本気を出すかどうかに依存しているよ』
「いつだって本気で人生を謳歌してますけども? ……ジヴ、ライト出力マックス。ストロボモード起動」
首に巻いた100円ライトが、凶悪なまでの高速点滅を開始した。暗闇に慣れたネズミたちの視神経を強烈に煽り立てて、パニックに陥れる。
狂い鳴くネズミの群れにミント水を散布すれば、強烈な刺激臭とともに広がる霧が、ストロボの光を乱反射させる。極上ステーキの試食会場は一瞬で混沌と化した。
「シュウさん、右!」
瞼を擦りながらも、愁さんが動いた。夜勤明けの気怠さを感じさせない単純明快な暴力の体現。襲いかかる大ネズミの横っ面に「耐切創手袋」を嵌めた拳を叩きつけ、壁へ激突させた。
迫る2匹目の頭部を安全靴の踵が踏み潰す。医学知識と筋力による効率的で迷いのない質量爆撃。急所を一撃で破壊された魔獣は、悲鳴を上げる暇さえ与えられない。
惚れ惚れする。絶対、真似できないけどな。
「おい、私を守れ! こっちにもネズミが……」
振り返ると、ビジネス鞄に手を突っ込む早春に、1匹が接近していた。
「その鞄で叩けばいいじゃないスか?」
返しながら俺は、爪を立ててカーゴパンツを這い上がろうとするネズミにフライパンを振り下ろし、手袋に噛みつくネズミを壁や地面に打ち付ける。
早春が金属製の円筒を取り出した。
「ジヴ、あれ何?」
『……対魔獣用の電磁警棒、通称「カドゥケウス」。一振りでスライムを蒸発させる高級官給品だね。安全装置は柄の先端部と親指が触れる部分、両方を押した時にだけ露出する隠しレバーを引くと、簡単に外れるよ』
「すまん、助かる」
不安を煽る一言を発した早春は震える指でレバーを引き、警棒を体の前に構えて電源スイッチを押す。
『システム起動。エネルギー充填を開始します。完了まで、120秒』
「……は?」
ブチギレ寸前の俺を他所に、愁さんが黙々とネズミを殴り飛ばした。
「マジ!? 電磁砲なら見てみたいが、たかが帯電させるだけのために2分も待てと?」
「必要なことだ! 間違った使い方をして壊れたら始末書だぞ!」
声を荒げて喚く早春へ、大ネズミが飛びかかる。咄嗟に俺は右足を突き出した。
ガリッ!
と、嫌な音が響く。鋭い牙が安全靴の側面から底面を捉えていたが、次の瞬間にはネズミがのたうち回り始めた。牙の破片のような黄ばんだ欠片が、地面に転がり落ちる。
『計測完了。安全靴に内蔵された「踏み抜き防止鋼板」の強度は、大ネズミの咬合力を上回っていることが実証されたよ。修理費0円、迎撃コスト0円。即時起動の聖遺物だね』
「……へ?」
早春が呆然と俺の足元を見る。
「安全靴には、釘を踏んでも貫通しない鋼鉄板が入ってるんスよ」
牙を痛めて怯んだ隙に、フライパンで叩き伏せた。足元をチョロつくネズミにも靴底の硬さを教えてやる。その途端、一撃で決めきれなかった時のトラウマがフラッシュバックした。あの時の後悔と懺悔を込め、飛びついてくるネズミにフルスイングして地面に叩き落とす。
『ナイスヒット』
「……肉体の限界よりも精神的にキテる。ジヴ、バトル漫画のアニソンかけてくれ」
泣き言を吐きながら俺は所構わずミントの霧を撒き散らす。ネズミの迷惑そうな鳴き声は、大ヒットした名作アニソンに掻き消された。
次回:ついに最終兵器・超ウルトラハイスペックコスト警棒が、その真価を見せる。
投稿時間は、明日6時50分です。
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